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第20話

 公爵の言葉に続き、会場の全ての視線がリーゼリットへと向けられた。

 そこには、かつて人目を恐れ、避けていた彼女の姿はもう、どこにも無かった。

 リーゼリットはこれまで感じたことのないほど、心が強く、研ぎ澄まされているのを感じた。一歩、前に踏み出す。


「皆様、リーゼリット・フォン・グラナートと申します。本日はこのような機会をいただき、誠にありがとうございます」


 リーゼリットの声は、緊張しているものの、はっきりと会場に響き渡った。

 彼女はエルシーを真っ直ぐ見つめ、その瞳には一点の曇りもなかった。


「私はこれまで、『悪役令嬢』として、数々の誹謗中傷を受けてまいりました。妹であるロザリアを虐げ、婚約者であるアークス王子を弄び、さらには侯爵家を乗っ取ろうとしている、と」


 リーゼリットは、一呼吸置いた。

 会場の貴族たちは、息をのんで彼女の言葉に耳を傾けている。


「しかし、それらは全て、エルシー・フォン・グラナート侯爵夫人によって仕組まれた、虚偽でございます。先程、アークス王子、シリウス王子、そして私の妹であるロザリアが調べてくれました。確固たる証拠が揃っております」


 その言葉に、会場に小さくざわめきが起こった。エルシーは顔を歪め、何か言いたげに口を開閉させるが、言葉は出てこない。


「父である前侯爵は、亡くなる際、私に侯爵家を継がせるという遺言を残していました。そのことなど、私は何一つ知らされませんでした。父の遺言には、私や母への愛が綴られ、強く生きるようにと私へのメッセージが込められたものでした。遺言は、父から私への最後の手紙だったのです。それをエルシーは、地位が欲しいがためだけに私から奪ったのです」


 リーゼリットの声は震え、拳を握った。目には涙が浮ぶ。

 そしてアークス王子から渡された侯爵の遺言書の写しを高く掲げる。


「そして、私の異母弟であるとされたエリオットですが、偽装されたものでした。シリウス王子の言った通りの証拠が揃っております。しかし、父にとって不名誉なことを死後にこうして公言しなければならないことが、私は大変に悔しい……」


 リーゼリットは歯を食いしばった。

 父が三年前にはもう、子供を成せない身体だったなどと、男としての恥となるような事をこうして大勢の前で告げることは、死んだ父を辱め、侮辱しているようなものだ。

 リーゼリットも、最後まで公言するかどうか悩んだのだ。


 ――ごめんなさい、お父様……。


 しかし、リーゼリットは泣き崩れたりせず、強い顔を作る。


「さらに先程見ていただいた写真ですが、あれこそが全て真実であると私は断言できます。ロザリアは、私にとってかけがえのない妹であり、私は彼女を心から愛しております」


 リーゼリットの言葉に、ロザリアは涙ぐみながら、深く頷いた。

 貴族たちは、真実の証拠の数々と、リーゼリットの毅然とした様子に、エルシーへの疑念を深めていく。


「エルシー夫人は、侯爵家と王家の繋がりを手に入れようと、アークス王子とロザリアの婚約を画策しました。そして、私を修道院に送り込み、侯爵家から完全に排除しようと企んでいたのです」


 リーゼリットは、エルシーを真っ直ぐ見据えた。

 エルシーは、もはや反論する力もなく、ただ震えるばかりだった。


「私は、父の遺志を継ぎ、侯爵家を正しく導く責任があります。そして、私を信じ、支えてくれた友人たち、そして何よりも、愛する妹ロザリアのためにも、この真実を公表することを決意いたしました」


 リーゼリットは深々と頭を下げた。

 会場は静まり返っていたが、やがて、あちこちから拍手が起こり始めた。

 最初はまばらだった拍手は、次第に大きくなり、会場全体を包み込む。

 多くの貴族たちが、リーゼリットの勇気と真摯な訴えに心を動かされたのだ。


 公爵は満足そうに頷き、アークス王子とシリウス王子もリーゼリットに温かい視線を送る。

 エルシーは、膝から崩れ落ち、その場で動けなくなった。


「エルシー・フォン・グラナート侯爵夫人。貴女には、これまでの全ての不正に対し、相応の罰が与えられることでしょう」


 公爵の厳かな声が、舞踏会場に響き渡った。

 リーゼリットの長い戦いが、今、終わりを告げた。


 ホッとすると、足の力が抜け、倒れそうになる。

 そんなリーゼリットをシリウス王子が支えた。


「よく頑張った。カッコよかったぞ」


 そう、リーゼリットの頭を撫でる。


「僕のリーゼはやっぱり最高だね」


 アークスはリーゼリットに自分の白いハンカチで涙を拭ってやった。


「お姉様、私を愛して下さっているのですね。私達、相思相愛ですわ!!」


 ロザリアはリーゼリットに抱きつく。


 リーゼリットはそんな三人に囲まれ、笑いがこみ上げてくる。


 彼女の心には、清々しい解放感と、そして確かな未来への希望が満ちていた。


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