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第21話

 エルシーの不正を暴き、公衆の面前で侯爵家当主としての正当な地位を取り戻したリーゼリット。

 舞踏会の喧騒が収まり、エルシーが騎士たちに連行されていくのを見届けた彼女の胸には、ようやく安堵の気持ちが広がった。

 アークス王子とシリウス王子、そしてロザリアが温かい眼差しを向けてくれていることに気づく。


「リーゼリット、改めてよく頑張ったね」


 アークス王子が優しくリーゼリットの手を握る。


「人混みが苦手だと逃げていたあの日の君が、幻だったかのようだ」


 シリウスはからかうように笑う。


「お姉様、怖かったでしょう? もう大丈夫ですからね」


 ロザリアはリーゼリットを抱きしめた。

 リーゼリットは、この数週間の激動の日々が報われたような心地だった。

 長年の苦しみから解放され、心身ともに深い疲労を感じていたが、それ以上に清々しい達成感が彼女を満たしていた。



「皆様のおかげです。本当に、ありがとうございました」


 リーゼリットは、心からの感謝を込めて頭を下げた。ロザリアはさらに強くリーゼリットを抱きしめる。


「お姉様! 私、本当に嬉しゅうございます! これで、もう意地悪なエルシーに怯えなくて済みますわ!」


「痛いわロザリア。背骨が折れるわよ!」


「ごめんなさいお姉様。嬉しすぎて力が入ってしまいましたわ!」


 ロザリアの純粋な喜びの言葉に、リーゼリットの目にもうっすらと涙が滲む。

 シリウス王子も、満足げに頷いた。


「これでグラナート侯爵家も、ようやく平穏を取り戻せるだろう。君の父上も、きっと喜んでいるはずだ」


 その言葉に、リーゼリットは亡き父の姿を思い浮かべ、静かに微笑んだ。

 父が心血を注いだ侯爵家を、今度は自分が守り、発展させていく。

 その責任の重さを感じながらも、未来への希望に胸を膨らませた。



 舞踏会が終わり、日が昇る頃、リーゼリットはアークス王子とシリウス王子に見送られ、ロザリアと共に侯爵邸へと戻った。

 屋敷はすでに夜明けの光に包まれ、使用人たちが慌ただしく動き始めていた。

 侯爵邸の門をくぐる時、「おかえりなさいませ、リーゼリット様、ロザリア様」とメイドたちに迎えられ、リーゼリットは改めて、ここが自分の居場所なのだと実感したのだった。




 数日後、エルシーとその息子エリオットに対する処分が正式に発表された。

 エルシーは全ての爵位と財産を没収され、辺境の修道院へ幽閉されることになった。

 エリオットもまた、貴族籍を剥奪され、平民として暮らすことが命じられた。

 エリオットに関しては何も罪はなく、ロザリアの弟であることは間違いなかったため、リーゼリットは侯爵家で引き取りたいと願ったが、世間が許さないだろうと聞き入れてはもらえなかった。

 公正な裁きに、世間は概ね納得したようだった。

 リーゼリットは、エリオットができるだけ苦労しないようにと、こっそり支援するつもりでいる。




 リーゼリットは毎日のように上がってくる書類にサインし、エルシーが関わっていた間の書類にも目を通した。

 父が残した遺産は莫大なものだったが、父が亡くなってからは、侯爵領の管理など侯爵の仕事はエルシーによって他の者に委託されている形になっていた。

 簡単に言えば、彼女の兄弟たちに丸投げされていたのだ。

 そして、上がってきている書類は適当なものばかりで、数字もバラバラだった。


「なによこれ……」


 リーゼリットは驚愕した。自分の前ではエルシーは至って真面目な様子だったので、全く気づかなかったのだ。

 領地まで足を運んで、きちんと状況を確認しなければならない。

 リーゼリットはやる事が多すぎて頭を抱えるのだった。


「お姉様、根を詰め過ぎないでください」


 ロザリアは心配してリーゼリットにお茶を持ってきた。


「大丈夫よ。これも全部、私の怠慢が招いたことだわ」


「お姉様が怠慢だなんて……」


 ロザリアは否定するが、家政について何も確認しなかったのは自分である。

 エルシーを信じてしまった。

 そして、前世ではロザリアに嫉妬し、今世では安寧に過ごすことだけを考えて過ごしてしまった。


 ――私はただの自分勝手な思いのせいだ。


 そのせいで、侯爵家や侯爵領、仕事を全てエルシーの一族に奪われる危険に晒されてしまった。

 私は何をしていたんだろう。

 そう、自分を責めずにはいられないリーゼリットである。


「ロザリアにも申し訳ないわ。自分の実の親を断罪させてしまって……」


「お姉様、私は大丈夫ですわ。あの女に感謝していることは、産んでくれたことぐらいしかありませんわ。私を育ててくれたのは乳母ですわ。産んでくれた恩なら、無事に私が産まれたことで返していると思います」


「そうね。私、あなたとエリオットを産んでくれたことに関しては感謝しているし、素晴らしいと思うわ」


 リーゼリットはロザリアが淹れてくれたお茶を飲み、少しだけホッとするのだった。

 今世では関わらないようにしていた妹なのに、今はこんなに関わって助けてもらっている。

 とても頼りになる妹だと、リーゼリットはとても感慨深い気持ちになるのだった。


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