シリウス王子の援軍により、盗賊たちの勢いは瞬く間に削がれていった。
彼の隠密部隊は精鋭揃いで、連携の取れた動きで次々と盗賊たちを制圧していく。
リーゼリットは、シリウスが剣を振るう姿の美しさと、その圧倒的な強さに見惚れた。
彼が本気を出せば、これほどまでに頼りになる存在なのだと改めて実感した。
「リーゼリット、大丈夫か!」
シリウスは、最後の盗賊を打ち倒すと、すぐにリーゼリットのもとへ駆け寄る。
彼の顔には、安堵と、かすかな焦りが浮かんでいた。
「ええ、私は無事よ。ありがとう、シリウス王子」
リーゼリットは、シリウスの差し出した手を掴み、立ち上がる。
突然のことで腰が抜けてしまったが、シリウスが支えてくれてやっと立てた。
宿屋の惨状はひどかったが、護衛の騎士たちや他の宿泊客も、大きな怪我人は出ていないようだった。
リーゼリットはホッと胸を撫で下ろす。
シリウスは、捕らえた盗賊たちを一瞥し、眉をひそめた。
「お前ら、ただの盗賊ではないな。動きに訓練の跡がある。どうしてリーゼリットを狙った!」
シリウスは盗賊に凄むが、盗賊は黙りを決め込んでいる。
リーゼリットは、自分が襲われた瞬間に頭に響いた声と、断片的な会話を思い出した。
『魔女の血は……覚醒を阻止しろ……』
空耳ではないと思うが……その言葉の意味はまだ理解できない。
恐ろしい何かが背後にあることだけは確かだ。
リーゼリットは得体のしれない胸騒ぎを覚えた。
「宿屋の女将と宿泊客には、口止め料と補償を。そして、この件は王都には伏せろ。ただの盗賊の襲撃で片付けておけ」
シリウスは部下に指示を飛ばした。
彼の迅速で冷静な判断に、リーゼリットは感嘆した。
シリウス王子が来てくれて本当に良かった、と改めて思う。
彼の隣にいると、心が落ち着くのを感じた。
「なぜ私が狙われたのでしょうか……それと、盗賊たちは変なことを言っていました……」
リーゼリットはシリウスに話しかける。
「変なこと?」
「魔女がどうとか、覚醒を阻止しろとか……」
リーゼリットにも意味が分からず、あまりに変なことだったので、少し躊躇しながら話す。
「魔女? 覚醒?」
シリウスの表情は、一瞬にして険しくなった。彼は深く考え込んだ。
「再度尋ねるが、お前たち、なぜリーゼリットの命を狙った。魔女とは何だ? 覚醒とは何か、説明しろ!」
シリウスはドスのきいた声で盗賊たちに再度質問する。
しかし、盗賊たちはシリウスに怯える表情は見せるものの、頑なに口を開こうとはしなかった。
「もう良い、連れて行け」
シリウスは諦めて、兵士たちに盗賊を連れて行くように命じた。兵士たちは盗賊を引っ張ると、次々と連れ出していく。
「この宿は危険だな。俺の別荘がこの近くにある。そこへ行こう」
「申し訳ないです」
「そんなことを言っている場合ではないだろう」
躊躇うリーゼリットに、シリウスはリーゼリットの手を引くと、宿を後にするのだった。
リーゼリットの引き連れる兵士たちもシリウスの馬車に乗せてもらう。
そう言えば、ここまで来ると隣国の国境付近である。
シリウスは国境付近で部隊と分かれ、リーゼリットとリーゼリットの兵士だけを連れて道をそれた。
森の中に入ると、まるで洞穴のような場所に入っていく。
そこで馬車を降りた。
「ここなの?」
リーゼリットは驚く。
何も無いただの洞穴だ。
馬車から降りてもスペースなどない。不安になり、シリウスを見る。
「そっちだ」
シリウスは苦笑して岩の一角を押すと、隠された扉が開いた。
そこから奥へと入れる。
まるで秘密の要塞のようだ。
国境の側にこんなものが……。
ん? こちらの国から、手続きも何もかもすっ飛ばして入っていないか?
リーゼリットはシリウスを睨んだ。
「国際問題ですよ!」
「秘密にしてくれ。国家間では提携を結んでいるんだ」
ハハッと苦笑するシリウス。
シリウスのせいで、国家間の大事な密約を知ってしまったのだが、それも怖い。
自分が引き連れてきた兵士たちも巻き添えである。
全員ベテランであるし、口は固いだろうから安心だが……。
「それにしてもすごいところね」
地下に広がる広大な敷地である。部屋もたくさんある。
「俺が教えたところ以外に行かないでくれよ? 地下空間は入り組んでいて蟻の巣だからな。迷ったら二度と地上に出られないと思ってくれ」
シリウスの注意に皆が震え上がった。
シリウスはリーゼリットの兵士一人ひとりに部屋を案内し、一番最後にリーゼリットを部屋に案内する。
「俺の部屋は隣だからな。何かあったらすぐに呼べよ」
シリウスはそう言って隣の部屋に消える。
与えられた部屋は立派なものだ。窓がない以外は普通の部屋である。
ここが地下とは思えなかった。ベッドもふかふかである。
今日は色々あったし、魔女とか、覚醒とか、よく分からないが、隣の部屋にシリウスがいると思うと、安心して眠れそうだ。
そしてリーゼリットはすぐにスヤスヤと寝息を立て始め、朝まで熟睡するのだった。