修司の葬儀はまもなく始まるところだった。清水家の中は悲しみに包まれていたが、未沙だけは静かに佇み、儀式が終わるのを黙って待っていた。
「未沙、人の命は天に委ねるしかないのよ。あまり悲しみすぎないで。」
「このことが落ち着いたら、琉生を迎えに来るから、少し待っていて。」
「琉生のこともよく考えてみて。良助ももういないのだから、いつまでも一人でいるわけにはいかないだろう。」
黒崎美智子は未沙の手をしっかりと握り、目には涙を浮かべていた。
「お母さん、琉生に伝えて。この縁談、私、受けるわ。」
未沙の迷いなく返事に美智子は驚き、言葉を失った。
「未沙、本当に?お母さんをからかってるんじゃないよね?」
「お母さん、冗談でこんなこと言うように見えるか?」
「それで、いつごろ式を挙げるつもりなの?」
娘が悲しみから少し立ち直った様子に、美智子はほっとしつつも、不安な気持ちが拭えなかった。
「もう少し時間をくれる?ここのことをきちんと片付けてからにしたいの。十五日後、琉生に迎えに来てもらって。」
美智子が何か言いかけたその時、固く閉ざされた部屋の扉が「バン」と激しい音を立てて開け放たれた。
「未沙!誰があなたの再婚を許したんだ!」
怒りに満ちた顔で良助が飛び込んできた。その姿を見て、未沙は思わず口元に皮肉な笑みを浮かべた。
認めざるを得ないのは、良助が兄の修司とは血のつながりがないにもかかわらず、顔立ちは驚くほど似ており、見分けがつかないほどだった。
もし、あの時偶然、彼らの密談を聞かなければ、今もまだ何も知らずにいたことだろう。
「私が再婚するかどうか、兄さんが口を挟むことではないと思うよ。だって、修司さんはただの兄さんだよね。」
未沙の声は静かで、怒りの色はまったく感じられなかった。
「……」
良助は口を開いたまま、何も言い返せずにいた。
「智和子さん、未沙はもう清水家の嫁さんだから、これからのことも清水家が責任を持って面倒を見る。」
「再婚の話は、今後はもう口にしないでもらえる?」
「未沙は良助に深い情を寄せていた。ほかの人と結婚することなどありない。」
美智子は困惑の表情を浮かべた。
「修司、未沙は確かに清水家に嫁いだ。でも、良助はもういないのよ。あなたが兄だからって、彼女の自由を縛るつもり?」
「清水家に少し財産があるからといって、偉そうにしないで!」
「それに、年下のあなたが年上にそんな口のきき方をしていいと思っているの?」
「お母さんを呼んできなさい!あなたたちをどう育てたのか、聞いてみたいわ!」
事態がさらに悪化しそうになり、未沙は慌てて美智子を脇へ連れ出した。
「お母さん、修司も弟を亡くしたばかりですから、あまり責めないでくれる?」
「十五日後に琉生に迎えに来てもらうよう、必ず伝えてね。」
美智子は良助を冷ややかに一瞥し、清水家を後にした。
「未沙、良助はもういないけど、俺が兄として必ずお前を守る。再婚の話はこれから一切許さない。分かったな?」
未沙は思わず鼻で笑ってしまった。
「兄さん、まさか清水家にはこんな決まりがあるとは思わなかった。弟の嫁も、雅子さんも、全部あなたのものにするつもりか?」
未沙は礼服を乱暴に脱ぎ捨て、畳の上に叩きつけると、良助に一瞥もくれず、そのまま部屋を出ていった。
今の彼女にとって、良助は嫌悪の対象でしかなかった。
亡き兄の名を盾にして、兄の嫁である雅子の部屋に夜ごと入り浸り、恥じることなく楽しんでいる。
それだけでは飽き足らず、今度は自分の自由まで奪おうとするなんて――
呆れるばかりだった。
だが、もうそんなことはどうでもいい。
すべてが片付けば、約束通り幼馴染の琉生が迎えに来てくれる。
そのときこそ、この汚れた牢獄から永遠に解放されるのだ。
兄のふりをして未亡人の世話をするのがそんなに楽しいなら、勝手に続ければいい。
「未沙!待て!その態度は何だ?ちゃんと説明しろ!」