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ティースタ・バレイの視点

 センと知り合ったときのことを思い出す。

 大規模な爆破の術式を実験したとき。なぜか術式に想定以上の魔力が流れ、爆破の影響が及ばないはずのところまで、爆破の影響が来た。要は、僕もふっとばされた。

 目が覚めたら、猫になっていた。どうしていいかわからなくて、そしたらふっ飛ばされた人たちの治療に来た看護師たちのなかに僕の幼なじみフィーユを見つけた。

 どうしたらいいかわからなくて、フィーユにくっついて言って「僕だよ!ティーだよ!」って何度も言ったけど、猫の声帯じゃ「にゃー」しか出なくて、フィーユには「どうしたの、懐っこい子ね」くらいの扱いしかされなかった。

 それで、フィーユにくっついて歩いてたら、病室に僕がいて仰天した。『僕』は右目の色が黒くなっていて、センと名乗った。そして、自分は別の世界から来た人間だと主張していた。

 フィーユは僕に会えると嬉しそうだったのに、センに動揺して、「じゃあティーはどこにいるの!?」と泣きそうな顔で言った。

 センは困って「私にも何も分からない、ごめんなさい」とフィーユに謝っていた。

 センの黒目から莫大な魔力が検出されたので、彼も軍に徴用されることになった。

 幸いなことに、センはいい人だった。フィーユに「ティースタ・バレイを探す手がかりを見つけよう」と言ってくれた。

 そして、センは観察眼もあった。フィーユから離れない僕を見て、不思議そうな顔をして「瞳孔が細くない……? え、右目悪いのかな?」と僕を抱き上げたのだ。

 センは「右目……?」と首を傾げ、ハッとした顔をした。そして、首に下げていた碧水石に触れた。フィーユが「もし戦争に巻き込まれてしゃべれない体になっても、これがあれば意思疎通できるから」とくれたものだ。そして、違う世界からきて言葉が違うセンが、周りと意思疎通できる理由でもある。

 センは、碧水石を手に取り、僕の体に触れさせた。僕は、センのやりたいことがわかった。

 僕は、センの隣りにいたフィーユに叫んだ。


「僕だよ! 起きたら猫になってたんだよ!」


 フィーユは腰を抜かすほど驚いたが、僕が生きていたことにとても喜んでくれた。軍も、僕が書く術式がまた手に入りそうなことに喜んでいた。

 だが、センは別の懸念があったようだ。


「私はさ、この体をあなたに返さないといけない。私も元の世界に帰りたいし」

「う、うーん、僕もできれば戻りたいけど、難しいんじゃないかな?」

「難しいとか言ってる場合じゃないって、あなた猫だよ!?」

「で、でも、術式で人間の手作ったし、術式もっと書けるよ?」


 センはすごい形相になった。


「そういう問題じゃないんだって! あなた猫だよ!? この世界じゃ10年生きればいいほうだよ!? あと10年で死にたい!?」


 そ、それは……いやだ!


「し、死にたくない……でも、無理だよ、戦争が終わらないとそんな、元に戻る術式研究する暇も余裕もないよ!」


 そう言うと、センは、少し考え、言った。


「じゃあ、終わらせよう。勝とう」

「何言ってるの、そんな簡単にできないよ」

「あのさ、案があるんだ。戦えなくなった人を戦えるようにする方法」


 センは話した。僕は猫の体から、砂で作った人間の手を生やしてる。これを応用することにより、動くし感覚のある義肢を作れること。


「傷痍軍人も戦えるってこと?」

「それもやってほしいけど、もう少し考えを進めたい。砂とか土で、感覚があって動かせる人形作れる?」

「技術的にはできるけど、魔力がいるし、使いたがる人少ないし……」

「魔力は私から出る。義肢を普及させて魔力への忌避感を減らしていこう。それで、傷痍軍人たちに人形を遠隔操作させて、それを兵士にすれば、訓練した兵士をたくさん導入できるんじゃない?」

「……!?」


 それは……できる。そうだ、できる。なんでそれを思いつかなかったんだ!?

 センは言った。


「義肢を超えた義体ってやつね。どうかな、そんなに悪いアイデアじゃないと思うんだけど?」

「……やろう。まず、軍に話そう」


 そして、そのアイデアは実にうまくいったのだ。

 センは莫大な魔力で恐竜の土砂人形を動かし、自分自身でも華々しい戦果を挙げた。そして、いつの間にか名門軍閥貴族のシンブリー家長男と親しくなって、いろいろ協力を取り付けられるようになった。そして、魔族の高官が接触してくるくらいになった。

 魔族の高官が流した情報と、土砂人形兵士の圧倒的物量と、センが動かす恐竜の土砂人形と。僕たちは、勝った。

 そして、僕たちは戦果の代わりとして、僕がもとに戻るため、センが元の世界に戻るための研究の費用を与えてもらうことになった。僕とセンとフィーユと、センの友人クラレンド・シンブリーとで頑張ることになった。

 もとに戻るために、とある地域の伝承を調べに行ったら、いろいろあってセンを兄貴と呼ぶ子分ができた。彼を含めて各地を回り、何年かかかって、もとに戻る術式とセンを送り返す術式ができた。

 センは喜んでくれた。


「よかったよ、あなたの体の寿命が来る前に何とかなって」

「うん……」


 センは、ずっと僕の体を大事に扱ってくれていた。酒もタバコもやらなかったし、性病を気にして女遊びもやらなかった。

 僕は、そのことにとても感謝している。

 センが戻るとき、お礼を言おうと思った。だけど、センはとんでもないことを言った。


「私さ、車にひかれて気づいたらこっちにいた、あっちで無事かどうかわからないな」

「ええ!?」


 じゃあ、あっちの世界でセンは死んでるかもってこと!?

 センは向こうに戻るための光に包まれ、クラレンドが叫んだ。


「セン! セン! 行かないで! 待って!!」


 だけどセンは行ってしまい、僕は元の体に戻った。傷もなく健康な、僕の体だった。

 ……センにお礼を言いたい。セン本人の願いけじゃなくて、僕の体をとても大切にしてくれたこと、僕の寿命というリミットをすごく気にしてすごく頑張ってくれたこと、その全てにお礼を言いたい。

 だから、会いたい。

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