仕事して食って寝て、普通に暮らしていたが、また会社に檜山氏が来た。
「今度、サマセット国のクラレンド・シンブリー氏と会っていただけないでしょうか」
え!?
ま、まさか、クラレンド達と接触する機会があるとは。
私は努めて感情を表に出さず、檜山氏に聞いた。
「どういったご用命でしょうか?」
「クラレンド・シンブリー氏は、ナグリの成分を研究していたあなたとぜひ話したいとのことで」
あー、まあ、勇者セン探しの唯一の手がかりだもんな、私の修論の内容。
みなとみらいはランドマークタワーに設えたオフィス、そこがクラレンド達一行が日本での拠点にしている場所とのことである。私はそこに連れて行かれた。
ズラッとSPが並ぶ部屋の中、クラレンドが座っていた。横には、サーボが秘書然として控えていた。ああ、サーボ、今はクラレンドの手伝いしてるの。私の手伝いもできるようになってたもんね、最初は字も読めなかったのに。
クラレンドも元気そうで本当によかった。男性ものの服なのはサイズがないのかな、オーダーメイドになるにせよ、体に合った服のほうが似合うのに。
クラレンドが口を開いた。
「よく来てくれた。座ってくれ」
貴族らしい、よく言えば鷹揚な、悪く言えば偉そうな言葉遣い。でも、私はクラレンドが高位の者としての責任を果たすタチだって知ってる。
ああ、でも身分が違う。できるだけへりくだって、感情を出さず接しなくては。センみたいに感情豊かではいけない。
私は、努めて抑えた声で頭を下げた。
「初めまして、小鹿野千春と申します」
「クラレンド・シンブリーだ。雄鶏の実を研究していた人とぜひ話したいと思って、お呼びした」
クラレンドは、ナグリと自分の関係のことを話した。よく知っていることだったが、私はさも初めて知ったかのように相槌を打った。
クラレンドは、今は女に戻るためにナグリ薬の服用をやめているとのこと。
私は言った。
「男性化のためにナグリを摂取するのはお勧めできませんから、服用をやめてらしてよかったです」
クラレンドは不思議そうにした。
「副作用でもあるのだろうか?」
「肝臓に負担がかかりますし、頭部の脱毛を促進する可能性もあります」
「頭部の脱毛?」
「要はハゲます」
「……服用を止めて、よかった」
そして、クラレンドは私の左足に目をやった。そこにあるのは、性能優先で見た目は鉄骨のPTD式下腿義足。
「その、私達は感覚があって動かせる義肢の技術も提供しようと思っている。あなたの足もそれにできるかもしれない」
あ、そう来るか。しかしなあ、私だけ特別扱いもなあ。
「ありがたいお話ですが、私は軽い方です。もっと欠損がひどい人はたくさんいますし、欠損したての人は絶望していますから、まずはそちらを優先していただけないでしょうか?」
「そうか?」
クラレンドは、意外そうな顔をした。いや、私も別に欲しくないわけじゃないんだが、優先順位としては下の方だよ。生活に支障ないし、義足の手入れにも慣れたし、この義足は軽い運動ならできるしさ。
「私はもう十年これで、慣れていますから。もっとひどくて生活に支障が出ている人や、慣れていない人を優先してください」
「……なるほど」
クラレンドは納得したようにうなずいた。
クラレンド。元気そうで本当によかったよ。
確かに体格しっかり目だけど、ちゃんと装えば女性としてやっていけるよ。
いろいろあるけど、がんばって。日本で、幸せにね。