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『勇者』は今も必要なのかよ!

 そういうことで、クラレンドたちとまた引き合わされた。今度はフィーユとティースタもいる。おどおどしてんなあティースタ、私に人見知り発動してるんかい。

 フィーユが私ににこやかに挨拶した。


「私たちとは初めましてですね。私フィーユ・トワイニングと申します」

「初めまして、小鹿野千春と申します」


 ティースタは「よ、よろしくお願いします……」と目を泳がせながら言った。しっかりしろ、天才術師。

 クラレンドとサーボも改めて私に名乗った。サーボはクラレンドの、フィーユはティースタの秘書的なことをしてるそうだ。フィーユの場合、人見知りティースタのライナスの毛布の役割も多分にあると思うけど。

 そんでもって、私に魔人と名乗っていた魔国人もいた。


「ジークレフ・ドアーズだ。魔国の役人をしている」


 お前普通に名乗るんかい! 終戦後も頑なに名乗らなかったくせに!

 とりあえず、私も自己紹介する番だ。


「改めまして。わたくし、小鹿野千春と申します」


 私は頭を下げた。クラレンド一行の目には、私はただの小柄な女にしか見えていないはずだ。

 クラレンドは貴族らしい鷹揚な口ぶりで言った。


「来てくれてありがとう、よろしく頼む」

「引き立てていただき感謝いたします。微力を尽くします」


 身分が違うのだ、せいぜいへりくだって礼儀正しくしよう。なるべく感情を表に出さないようにしよう。

 クラレンドは私を見て、なんだか嬉しそうだ。


「あなたのような人の力添えを得られてうれしい」


 で、今日は私にクラレンド一行と日本の現状をを把握して欲しいとのことだ。

 クラレンドは言った。


「私の目的は2つだ。1つはセンを探し出すこと。もう1つは、ニホンで女として暮らすこと」


 そうか……。サマセットではやっぱり、暮らしにくいか……。

 ああ、もう、私も腹くくろう。クラレンドはこっちに来るはずの人だったんだから、日本で女としてやっていくための助けをしよう、名乗らないで。

 ただ、釘は刺しておきたい。私は口を開いた。


「日本で、ですか。あまり女におすすめできる国ではないのですが」


 クラレンドは意外そうな顔をした。


「そうなのか?」

「正直言いますと、女がもっと暮らしやすい国はほかにたくさんあります。女らしい体にする手術も、他の国のほうが発展しています」


 檜山氏がすごい顔をしてるのを感じる、そりゃ彼はクラレンドに日本を推さなきゃいけない立場だからだろう。でも知るか。

 クラレンドは私の言葉を訝しんだ。


「センは、こちらの国はもっと女が自由なのだと言っていたが」

「比較の問題でしょう。サマセットという国より日本はマシ、という話と、この世界には日本よりマシな国がある、は両立します」

「……なるほど」


 クラレンドは頷き、顎に手を当てた。


「あなたは、頭のいい人だな」

「大したことはありません」

「ニホンは謙遜が美徳だそうだな。センも余り自分の成果をひけらかしたがらなかった」

「日本人らしいですね」

「そう、そこに困っている」

「どういうことでしょう」


 クラレンドは大きくため息をついた。


「センは、自分の元の体は黒目黒髪だと言っていた。それほどいない特徴だからすぐ見つかると思っていたのだが……日本人は皆黒目黒髪なのだ!」


 確かに、サマセットで黒目黒髪はあんまり見なかったな。


「まあ、日本人の大部分は黒目黒髪ですね。他に特徴はあるのでしょうか?」

「小柄で童顔らしい」


 確かに私、チビで童顔とは言ったな。日本人の中でも私はチビで童顔なのだが、少しごまかさせてもらおう。


「失礼ながら、サマセットの方々と比較すると、日本人はおおかたが小柄で童顔です」

「そ、そうだな……」


 クラレンドはシュンとしてしまった。

 その後檜山氏から日本の現状を色々聞いた。魔力を熱に変える術式が強力な熱源になることから、日本の原発と火力発電所の熱源を魔力に置き換えて発電できないか、という話が進んでいるそうだ。

 このアイデアの骨子は『セン』が話していたことだ。うん、日本は歓迎だよな、魔力発電なら放射性物質漏れも二酸化炭素放出も起きないし。

 もちろん、魔力義肢も日本へ導入予定とのことだ。

 サマセットは日本に向けての人と魔力の用意があり、センが見つかったらその莫大な魔力をサマセットに分けてほしいとのこと。

 また、日本がこの世界の技術は、魔力以外、サマセットより進んでいる。現在2030年、サマセットの技術は昭和初めくらい。ラジオと電話はあるが、テレビもネットもない。水洗トイレも普及していない。

 サマセットは魔力と魔力技術の代わりに、この世界の進んだ技術が欲しいのだ。クラレンドは、その旗振り役も担っているとのこと。

 クラレンドは言った。


「こちらの世界の人間の魔力を調べる話も出ている、こちらで魔力を賄えれば話が早いのでな」


 ジークレフが口を開いた。


「私のことも話そう。魔国はサマセットに侵略戦争をしていたのだが、私は撤退派の人間だった。魔国もセンを探している」


 ええ!? お前もかよ!

 私はなんも知らない顔をして聞いた。


「魔力が必要なのでしょうか?」

「センが仕留めた魔国の将軍、ムルーターが、悪霊となって広範囲に呪をかけているかもしれないのだ」


 あ、いたな、しつこい奴。仕留めるために契約みたいなことして封じ込めたんだけど。


「霊っているんですね」

「魔力が多いものはなりやすい。呪いはサマセット全体にかかる可能性がある」


 おい、すごいこと言うな!


「センさんって方が呪いを被るのでしょうか?」

「センの魔力とティースタの術式なら打ち破れる。だからセンを探している」

「そうですか」


『セン』が必要なのか。しかし、私は名乗るわけにはいかない。

 ……名乗らないで打ち破る方法を、探すしかないか!

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