ママに助けられてから二年ちょっとが過ぎた。
僕は三歳になり、元気に走り回れるようになった。
「がう~(でかくなったなぁ)」
「わふ?」
ガルガルはもう成犬のアラスカンマラミュートよりでかくなった。
体高で一メートルぐらいある。
「ノエル!」
「ママ、ごめん! つい、うっかり」「あぅ~」
僕が謝ると、ガルガルも一緒に謝ってくれる。
三歳になった今でも、油断するとつい聖獣の言葉で話してしまうのだ。
ガルガルとママとしか話していないから、仕方ないと思う。
「何度も言うが、ノエルはいつか人の街に戻るのだ」
「そうだけどな?」
僕は首にかけている壊れた魔導具をぎゅっと握る。
きっと父様も母様も兄様も、ノエルのことはとっくに諦めていると思う。
一歳にも満たない赤ちゃんが腐界で生き延びられるわけがない。
そう父様たちが、考えたとしても当然だ。
少しさみしいような悲しいような気持ちになっていると、
「わふ~」
ガルガルが僕の顔をベロベロ舐める。
僕を元気づけようとしてくれているのだ。
「くすぐったいぞ、ガルガル。ありがと」
僕はガルガルの大きな体をもふもふ撫でた。
「わふわふ!」
撫でられて喜んでいたガルガルがお腹が空いたから狩りに行こうといい始めた。
「そだな! ママ、狩りにいってくるな?」
「気をつけるのだぞ。あまり遠くにいってはならぬぞ?」
「うん! わかってる!」
三か月ほど前に僕とガルガルは初めて狩りに出た。
もちろん、ママに同行してもらってである。
そして僕とガルガルはその実力をママに認められたのだ。
だから、巣の近くなら、そして僕とガルガルが一緒なら、狩りに出ることが許された。
巣の近くは毎日ママが巡回して魔物を倒しているから比較的安全なのだ。
「がうがう(いこ、ガルガル)」
「わふ~」
「だから、人の言葉を話せというておろうに……」
「ごめ!」
ガルガルと話すときはつい聖獣語になってしまう。
「まったく……」
ママは僕とガルガルを優しい目で見送ってくれた。
「ガルガル、慎重にな?」
「わふ」
僕とガルガルはゆっくりと腐界の中を歩いて行く。
ママは腐界には人は近づかないと行っていたが、その理由は見ればわかる。
ママの力で守られている巣から三十メートルほど離れると、たちまち濃い瘴気に包まれる。
瘴気は霧に似ているが、刺激臭がする。
ママが言うには、普通の人間や動物だと瘴気の中では目や鼻喉などの粘膜が痛くなると言う。
それでも吸い続けると、数時間で肺機能が落ち始め、一日から二日で死に至るらしい。
「でもノエルは平気だな?」
「わふわふ」
「がふがふ?(そだな。ノエルもガルガルと同じ聖獣になったのかもしれんな?)」
ママのお乳を飲んで育ったおかげかもしれない。
僕とガルガルは瘴気の中を慎重に進む。
まるで濃い霧の中のようで、視界が通らないので、気配を探りながら歩いて行く。
「寒くなったなぁ」
吐く息が白い。もう冬が近いのだ。
「わふ~?」
心配そうにガルガルが僕を見てくる。
「だいじょうぶだ。この着ぐるみは暖かいからな?」
ママの作ってくれた魔獣の毛皮で作った着ぐるみは夏は涼しく、冬は暖かい。
そのうえ、魔法防御も物理防御もかなり高い。
きっとママの魔法のおかげだろう。
「ガルガルもさむくないか?」
「わふわふ~」
「そっか、よゆうかー。ガルガルは何たべたい?」
「がーうがうがうがう」
ガルガルは魔猪がいいという。魔猪とは猪型の魔物のことだ。
「まちょはおいしいし、でかいものなー」
「わふわふ」
「がーうがうがう?(よし、まちょさがそう)」
「わふ~」
「がう~(それにしても……武器が欲しいな?)」
「がう?」
ママとガルガルには強力な牙や爪があるが僕の牙や爪は強くない。
「武器があれば……魔法がなくてもたおせるしな?」
剣やナイフ、槍、弓とかがほしい。だが無い。
そんなことを考えながら歩いていると、ガルガルが吠えた。
「がう!」
早速、ガルガルが魔猪を見つけてくれたようだった。