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第8話 狩りとうまい実

 基本的にガルガルは鼻が良いので、魔物に気がつくのは僕より早い。


「がう(がるがるよくやった! つぎはノエルがかつがな?)」


 僕も負けてはいられない。

 ガルガルより速く魔物に気づけるようにならなければ。兄として。


 ガルガルが見つけた魔猪は体高一メートルほどの大きさだ。

 なかなかの大物である。


「わふわふ! (れんけいだ! ノエルがひきつけるから、あっちにまわりこめ!)」

「がう!」


 緊急時はやはり魔獣語の方が効率が良い。

 速いし、人の言葉を使うより意味が正確に伝わりやすい気がする。


 僕とガルガルの兄弟連携はたいしたものなのだ。

 僕がおとりになって引きつけて、ガルガルが仕留めるのが、僕たち兄弟の必勝パターンである。


「にゃ! (みぎからいく!)」


 魔獣語でガルガルに指示を出しながら、風属性の攻撃魔法を放つ。

 最初は風を吹かせるだけだった風魔法も、今では真空の刃を放てるようになった。


「BUOOOO!」


 魔猪は、僕の風魔法をかわして突っ込んでくる。

 魔猪に限らず魔物は攻撃性が高いのだ。特別に知能が高い個体以外はとにかく突っ込んでくる。


「ガウ!」


 それを僕は楽々かわす。

 無属性の生活魔法である強化は常に使っているので三歳にしては素早く動けるのだ。


 魔猪の一直線の突進をかわすのは、僕にとってはたやすい。


「にゃ!」


 突進してきた魔猪の前に土魔法で土壁を作った。


 ――ドーン


 凄い勢いのまま壁にぶつかり、大きな音が鳴るが、魔猪には大したダメージではないらしい。


「BUO?」


 だが、魔猪は少し混乱した。


「にゃむにゃむ!」


 混乱した魔猪に向け、火魔法の火球を放って追いたてる。


「BUOOOO!」

「にゃむ! (ガルガル! そっちいった!)」

「わふわふ~」


 そんな風に、魔猪をガルガルの方向へと追い込んでいき、協力して倒すのだ。


 ガルガルのところまで追い込んだら、もう狩りは成功したも同然である。


「ガウガウ!」


 ガルガルの鋭い牙と爪と、攻撃魔法が魔猪をあっさり仕留めてしまう。


「にゃ~(さすがガルガル。手際がよいな?)」

「がう~」


 ガルガルが自慢げな顔をして甘えてくるので、もふもふしまくった。


「にゃふにゃふ(三分ぐらいでいけたな?)」

「がう」


 この前は仕留めるのに五分ぐらいかかったので、早くなっている。


「やはり、ノエルがおとりになるさくせんがいいな?」

「わふ」


 兄弟で狩りを始めたばかりの頃は、ガルガルと一緒に魔猪を追いかけたのだ。

 魔猪は最初こそ、調子に乗って突っ込んできたが、すぐに逃亡を始める。


 全力で逃げる魔猪を追うのはとても大変だった。


「がう~」

「そだな? 遠くににげられたら、おいかけられないし」


 危ないので、僕たちはママに許された範囲から出ることはできない。


 だから、体の小さい僕が最初にでて、息を潜めたガルガルの方へと追い込む方法を考えた。


「わふわふ!」


 作戦を考えた僕のことをガルガルは天才だと言ってくれる。


「そうか、ガルガルものえるは天才だとおもうか。のえるもそう思うな?」


 そんなことを話しながら、僕は生活魔法で魔猪を処理していく。

 魔猪は死ぬとヘドロのような瘴気が消えて、ただのでかい猪になる。


「大きいから、二、三日はいけるな?」


 僕は小食だが、ガルガルは体が大きいので沢山食べる。


「がうがう?」

「うむ。処理はのえるにまかせておけ? にゃむ~」


 生活魔法が苦手なガルガルの代わりに、僕が魔猪の処理をする。

 水の生活魔法で血抜きをして、氷の生活魔法で冷却するのだ。


「わふ!」

「ガルガルだと水が強すぎるものなー」


 ガルガルは血抜きをしようとして、肉までぐちゃぐちゃにしてしまったことがある。

 ガルガルの魔法の威力が高すぎたせいだ。


 威力が高いことは攻撃魔法としては利点だが、生活魔法としてはデメリットになる。


 ちなみにぐちゃぐちゃになった魔猪の肉はガルガルとママが全部食べた。


「よし! ガルガル。はこんで!」

「わふ!」


 僕とガルガルは協力して猪を運ぶ。

 僕が生活魔法の氷で地面を凍らせて、その上をガルガルが引っ張っていくのだ。


 ガルガルは一人で運べると言うが、こっちの方が楽だし、毛皮も傷つかない。


「わふわふ!」

 猪を持って帰る途中、ガルガルが大きな木になる赤い実を見て吠えた。


「む? うまい実がたべたいのか?」

「わふ!」


 名前は知らないが、その赤い実はとても甘くてうまいのだ。

 大きさはりんごより一回り大きいぐらいで、洋なし型をしている。


 僕とガルガルは「うまい実」と呼んでいる。


「むむ~。たべごろかな~。まだ早いんじゃ……」

「がう!」


 ガルガルは食べ頃だと確信しているようだ。


「じゃあ、一応みてくるな?」

「わふわふ!」


 ガルガルは木登りが苦手なので、うまい実を採るのは僕の役目だ。


「わふわふわふ~(ふんふんふ~ん)」


 僕はするすると木に登っていく。

 幹は太くてまっすぐですべすべで、枝は三メートルぐらい上からしか生えていない。


 だが、木登りが得意な僕にとっては、この程度の木に登ることは簡単だ。


「わうわう!」


 木の下でガルガルが凄い凄いとはしゃいでいる。


「……兄の威厳が、まもられたな?」


 五メートルぐらい登って、うまい実の様子を見る。


「むむ……下からは隠れて見えなかったけど……」


 ちゃんと熟れているうまい実があった。それもちょうど三つ。


「ガルガルの鼻の勝利だな? すごいぞ。ガルガル! 流石だな!」

「わふわふ」


 木の下で誇らしげにガルガルが尻尾を振っている。


「ほかの実は……まだ食べ頃じゃない」

「……わふぅ」

「またとりに来ればいいからな?」


 ガルガルは今日いっぱい食べたかったらしい。


 僕は熟れた実を三つ採って、魔獣の皮で作った風呂敷で包む。

 風呂敷は、ママが狩ってきた魔獣の革を利用して作ったものだ。

 ママに教えられながら、日常魔法を駆使して頑張った。


「これでよし。にゃ!」


 うまい実を包んだ風呂敷を体にくくると、僕は木の上から飛び降りた。

 飛び降りた場所の高さは五メートルほど。二階のベランダより高いぐらいだ。


 だが、猫の生活魔法である強化を使えば、余裕なのだ。


「ふぅ! よし、かえろう?」

「わふっわふっ」


 ガルガルは嬉しそうに僕が持っているうまい実の匂いを嗅いでいる。


「巣にもってかえって、ママとたべような」

「わう~」


 生活魔法を使って地面を凍らせながら、僕たちはのんびり帰宅したのだった。

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