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第9話 みんなでご飯

 僕とガルガルが巣に戻ると、ママは入り口にいた。


「ママ! まちょとれた!」

「がうがう!」

「うまいみもとれた!」

「わふわふ!」


 すると、ママは近寄ってきて、僕とガルガルを順番にペロリと舐める。

 僕が大きくなって皮膚が丈夫になったので、ママは僕も舐めてくれるようになったのだ。


「見事な魔猪ではないか。がんばったな」

「へへへー」「わふふ~」

「おお、これはうまい実だな」

「がうがうがう!」

「そうか。ガルガルが見つけたのだな。採ったのはノエルだろう? 二人ともよくやった」

「えへへ~」「わふふ~」


 魔猪を巣の中に運び入れると、僕とガルガルは、毛皮と肉、内臓に分けていく。


「ノエルもガルガルも、処理がうまくなったな」


 ママは見守りながら、優しく指導してくれるのだ。


「ノエル。小指の先ほど深くても良いぞ。その方が毛皮の処理が簡単になる」

「わかった!」

「ガルガルは魔力操作をもう少し丁寧にするとよいぞ。……ああ、そうだ」

「わうぅ~」

「ガルガルも歳の割にはとてもうまいぞ。頑張っているな」

「わふわふ」


 主に僕が毛皮を剥いだり、肉を切り分けたりする。

 そして、ガルガルは明日以降に食べるお肉を凍らせていくのだ。


 ガルガルは一瞬で、肉の塊を凍らせる。瞬間冷凍というやつだ。


「ガルガルの魔法は凄いなぁ」

「わふふ」


 細かい調整は苦手なガルガルだが、魔法の威力自体は僕より上かもしれなかった。


「まあ、得意分野ってのがあるからな?」


 僕は解体を終えると、魔法で毛皮をなめしていく。これはガルガルにはまだできない。


「ガルガル。兄の活躍をみるといい」

「わふ!」


 ガルガルの尊敬の視線を感じながら、生活魔法でなめしていく。


「人がなめす際はいろいろな道具や薬を使って時間がかかるらしいが猫には必要ないのだ」

「やっぱり、猫はすごいなぁ」


 毛皮をなめし終えると、お楽しみのご飯の時間だ。

 ママとガルガルが内臓を生のままおいしそうに食べている間に僕は肉を焼いていく。


 拾ってきた石を平になるように攻撃魔法で切った物の上に肉を並べる。


 肉の大きさは僕の分が二百グラムのステーキのぐらい。

 ガルガルとママの肉ははニキログラムぐらいの塊だ。


 肉を並べると、岩自体を生活魔法で熱していく。


「がう?」


 ガルガルが「ほんとに内臓いらないの?」と心配そうに尋ねてくる。


「のえるは肉のほうがすきだからな?」

「わふ~」


 ガルガルは「こんなにおいしいのに」と言っている。

 生前、瘴気に包まれていたおかげで寄生虫も細菌もないから生でも食べられるらしい。


 だが、ちょっと、食べる気にはならない。前世の記憶のせいかもしれなかった。


「それに肉がめちゃくちゃうまいからな! お、そろそろだな!」


 焼き終わった魔猪ステーキをばくりと食べる。

 僕の肉はガルガルの分より薄いので、早く焼けるのだ。


 フォークもナイフもないので、棒で突き刺して、がぶりとかみつく。


「肉汁が……うまい……脂もあまくて、しつこくなくて……うまい」


 焼き加減は絶妙なミディアムレア。

 僕はどんどんステーキを焼くのがうまくなっている気がする。


 本当にうまい。前世で食べたどのステーキよりうまい。


「肉のあじが濃くて……素材の良さが……うまい」


 むしゃむしゃ食べながら、ガルガルとママの分に焼き加減のチェックも忘れない。

 ガルガルとママの分は塊なので。岩だけでなく周囲全体を熱して火を通していく。


「ママ、ガルガル! 今がたべごろだよ」

「おお、ノエル、ありがとう」

「がふがふ!」


 ママとガルガルはおいしそうに肉を食べる。


「絶品だ……肉を焼く技術はノエルの方が我より上だな」

「そっかな? えへへ」

「がうがふ!」


 ガルガルは「おいしいおいしい」と尻尾を勢いよく振っている。


 そして、半分ぐらい食べた後、

「がう?」

 僕の方に自分のお肉を寄せてくる。


「それはガルガルが全部たべな?」

「がう~?」


 ガルガルは僕が自分より沢山食べていないことが、心配なのだ。


「のえるはおなかいっぱいだからな?」


 いつもそう言っているのだが、ガルガルはいつも心配するのだ。


「のえるよりガルガルのほうがでかいし?」

「わふ~」


 沢山食べないから小さいのではないかと心配しているらしい。


「のえるは……三歳だからなぁ。こんなものだよ」


 僕はガルガルの兄でしっかりしているのだが、三歳児なのだ。

 二百グラムのステーキを食べきれるだけでもたいしたものだと思う。


「ガルガル。ノエルは人族ゆえ、これも食べなければならないのだ」


 そういって、ママは茸や山菜を奥から持ってきた。

 山菜と言うが、トマトや玉葱、ジャガイモ、人参などの野菜にそっくりだ。


 それ以外にも、僕の知らない山菜やキノコもある。


「ありがと。ママ。焼いて食べる」


 僕は適当に野菜を焼いて食べていく。


「ノエル。好き嫌いしないで偉いぞ。子供は野菜を嫌うものだと聞いたがな」

「でも、これうまいよ?」


 人参もめちゃくちゃうまい。

 焼いたら柔らかいしほんのり甘いし。

 ジャガイモはほくほくだし、いくらでも食べられそうだ。

 玉葱も、キノコもトマトも、名前を知らない山菜も全部うまい。


「うまいうまいうまい」

「好き嫌いがないことはよい。好き嫌いしていたら大きくなれぬからな」

「肉もうまいけど、山菜もうまい。たべものぜんぶうまい」

「ノエルはガルガルと違って、人族ゆえに肉だけでは栄養が偏ってしまうからな」


 お肉と山菜を沢山食べた後にはデザートが待っている。



「うまい実をたべよう!」

「わうわふ!」


 お腹いっぱいでも、デザートは別腹である。


「はい、ママも。ガルガルもな?」

「おお、ありがとう。ノエル、ガルガル」

「わふわふ~」

「なー、うまいな~」


 ママとガルガルもお肉を食べ終わったので、みんなでうまい実を食べる。


「うまいうまい。甘くてうまい」


 うまい実の味は梨に似ている。

 しゃくしゃくしていて、甘くて、みずみずしい。


 ママとガルガルも、ゆっくり舐めるようにうまい実を味わっていた。


「これ……植えたら、はえてこんかな?」

「わふ? ……わぁぅわぁぅ!」


 ガルガルは凄く良い考えだとはしゃいでいた。

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