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第16話 はじめての留守番

 僕はすくすく育って、四歳になった。

 身長も一メートルぐらいにはなったと思う。


 巣の中で朝ご飯を食べながら、ガルガルを見る。


「……でかくなったなぁ」

「わぅ?」


 だが、悔しいことにガルガルはもっとでかくなった。

 三歳の時に一メートルぐらいあった体高は、今は一・五メートルぐらいある。


「さらぶれっとか?」

「わふ~」


 競走馬であるサラブレットの体高が一・六とか一・七メートルぐらいだったはずだ。

 ガルガルは犬なのに、そのぐらいでかい。


「足もふといし……まだでかくなるのか?」

「がる~」


 ガルガルは倍ぐらいになると胸を張っている。


 朝ご飯を食べ終わると、ガルガルは巣の外に走って行った。


「がうがう!」

「む? もう食べ頃なのか?」


 ガルガルは聖樹の下で吠えている。


「いるみんの娘も……でかくなったなぁ」


 毎日見ているので気づきにくいが、聖樹の苗もでかくなった。


 植えてから大体一年しか経っていないというのに、もう高さ八メートルぐらいになった。

 それが三本だ。


 その後に追加で植えた苗木が二十本ある。それももう高さ三メートルぐらいまで育った。

 もう苗木ではなく若木といっていいぐらいだ。


 僕も朝ご飯を食べ終えると、聖樹の若木の根元まで歩いて行く。


「犬も木も成長がはやいなぁ」

「わふわふ!」


 ガルガルは僕の魔力がうまいからだと言っている。


「のえるの魔力、うまいか?」


 僕はイルミンスールからもらった枝を通じて順番に若木達に魔力をあげていく。


 朝食後、聖樹の若木達に魔力をあげるのは日課なのだ。

 そして若木に寄ってくる魔物をガルガルと一緒に倒している。


「のえるの魔力を食べてすくすく育つんだよ」


 もしかしたら、若木にとって僕の魔力は、僕にとってのママのお乳みたいなものかもしれない。

 僕もママのお乳を飲んですくすく育ったのだ。


「……つまり……いるみんの娘であると同時に……のえるの娘?」


 育ってくれてとても嬉しい。


「それにしても……一年で実をつけるとは……さすがいるみんの娘達」

「ばうばう~」

「そだな。実を食べた後、種をうえないとな!」


 そうやって、どんどん聖樹を増やしていけば、腐界も小さくなるに違いない。


 僕が実を取るために若木に登っているとと、ママが朝の見回りから帰ってきた。


「ママ、おかえりー」

「ばうばう~」

「うむ。ただいま……実がなるほど育ったか」

「うん! あとでみんなでたべようね」


 ママは、僕とガルガル、そして若木を順番に見て真剣な表情で考え始めた。


「ママ、どした?」

「実ができるほど成長できれば、もう聖樹は一人前だ」

「おおー。大人になるの早いな? もっと何年もかかると思ってた」


 確かに最近の聖樹の若木は襲ってきた魔物を返り討ちにしている。

 もう一人前に育ったと言ってもいいのかもしれない。


「通常は何年、いや何十年とかかる。ノエルの魔力がよほどおいしかったのであろう」

「そっか。ふへへへ」


 立派に育ってくれて、僕も誇らしい。


「そろそろ、植樹してもいいかもしれぬな」

「植樹? 植え替えるの?」

「そうなのだ。瘴気の森の各地で聖樹が足りていないのだ」


 聖樹の数はどんどん減りつつある。

 そして、聖樹がいなくなった地域では魔物の発生が増えてしまう。

 それにより、各地の聖獣たちは大変になっているのだという。


「そこで、ノエル、ガルガル。若木を一本仲間に届けてもいいだろうか?」

「いいよー」「がうがう~」


 魔物の発生を抑える効果がある聖樹は、いろんなところに植樹したほうがいい。


「ありがとう。ノエル。ガルガル。我は若木を植樹するために一日留守にする」

「わかった」「がうがう」

「うむ、ありがとう。植樹先は強力な聖獣がいるところを選ぶゆえ安心するが良い」


 僕とガルガルの育てた聖樹の若木を、強い聖獣が守ってくれるなら安心だ。


「ノエルとガルガルも育ったゆえ一日程度なら大丈夫であろう」

「うん! 任せて!」「がるがる~」

「頼もしいぞ」


 そういってママは尻尾を揺らした。



 留守にすると決まってからのママの動きは早かった。

 若木の一本を、僕と一緒に、根っこが傷つかないように丁寧に掘り出していく。


「元気でな? 新しい友達によろしくな?」

「がうがう~」


 僕とガルガルは若木を撫でる。

 この若木は、僕とガルガルが種から育てたのだ。すこしさみしい。


 僕とガルガルが別れを告げると、ママは若木をそっと口にくわえた。


「では行ってくる。くれぐれも油断するでないぞ?」

「わかった!」「がうがう~」

「付近の魔物は全て倒しておいたが、遠くから強力な魔物が来たら逃げるのだ」

「わかった!」「がうがう~」


 何度も念を押した後、ママは僕とガルガルを優しく舐めた。

 そして、強力な聖獣がいる場所へと走り去った。


「ママはやっぱり速いねー」

「がう~」


 ママを見送った後、僕とガルガルは縄張りを見回ることにした。


「ガルガル。見回りにいくよ」

「がうがう~」


 僕が走り出すと、ガルガルも元気についてくる。


「空気もきれいになったなー」

「わふ~」


 聖樹が沢山育ったからか、ママの巣近くは瘴気が薄いのだ。

 腐界じゃないと言えるまで、もう少しかもしれない。



「お、なんか来たな? ママの留守に気づいたかな?」

「ガルルル~」


 僕とガルガルが身構えた直後、空から二十羽の大きな魔鳥が急降下してくる。

 翼を広げた長さ、翼開長が二メートルぐらいある魔鳥の中でも大きな個体だ。


「ガウッ」


 ガルガルが吠えながら、口から風の攻撃魔法、風弾を沢山放った。

 それだけで、二十羽の内、十羽ほどが死んで地面に落ちる。


「さすがガルガル」


 僕も兄として負けていられない。


「にゃあああああ!」


 聖樹の枝に魔力を込めて、風の攻撃魔法、真空の刃を放つ。

 残った十羽が切り刻まれて、地面に落ちた。


「がうがう!」

「な? のえるの魔法もすごい。兄だからな?」

「がう~?」

「ずるくないよ? この枝は……魔導師の杖みたいなものだからな?」


 聖樹の枝に魔力を通して魔法を放つと、魔法の威力があがるのだ。


 僕とガルガルは手分けして二十羽の魔鳥の処理をする。

 魔鳥の肉はとてもうまいのだ。


「二十羽はさすがに食べきれないかもな?」

「がう!」


 ガルガルは余裕で食べられると言っているが無理だろう。


「ガルガル。見回りの続きをしよ……む!」


 直後、狼型の魔獣が十匹襲ってきた。

 前に五匹、後ろに五匹。挟み撃ちというやつだ。


 狼型の魔獣はガルガルぐらいでかいし、とても速い。

 足に生えた爪もでかくて鋭いし、牙も長くて強い。


 そのうえ、動物の狼のように、連携して攻めてくるので厄介なのだ。


「とりあえず、前の奴らはノエルがやる。後ろはガルガルに任せる」

「がう~」


 僕は聖樹の枝を構えて、前方の魔獣に突っ込んでいく。


「にゃあああああぁあ!」


 聖樹の枝に魔力を込めて、先頭の魔獣を斬る。

 三歳の頃は狼型魔獣は速すぎて、一人で倒せなかった。だけど四歳になったから余裕だ。


「GIYAAAAA!」


 一匹斬っても魔獣は全くひるまない。動物の狼だったらひるむのだけど。


「ふしゃあああああ」


 斬って、右に爪をかわして、斬って、牙を下にかわして、斬って回り込んで、斬った。

 聖樹の枝は魔導師の杖代わりだけでなく、剣のかわりにも使えるのだ。


 僕担当の五匹の魔獣を倒して後ろを見ると、

「ガガウガウガウガウ」

 ガルガルは自分と同じぐらいの魔獣を圧倒していた。


 爪をかわして、爪で切りさき、牙をかわして、牙でかみ砕く。

 少しでも後ろに下がろうとする素振りをみせれば、魔法で焼き尽くす。


 あっという間に五匹の魔獣を倒したようだ。


「……ガルガル。のえるのほうがはやかったな?」

「がう……がうがう、きゅーん」


 ガルガルはとても悔しそうに、僕だけ枝を使ってずるいという。


「ずるくない。この枝は、ガルガルの牙みたいなものだし?」


 僕は枝を地面に置いて、悔しそうなガルガルのことを撫でまくる。


「ガルガル。のえるは兄だからな。ガルガルが負けても仕方のないことだ」

「……ハッハッハッハッ」


 撫でられたガルガルは嬉しそうに尻尾を振りながら、近くに落ちていた枝を咥えて振り回す。


「ガルガルは枝を振り回すより、牙で戦った方が強いよ?」


 そういったのに、ガルガルは楽しそうに枝を振り回している。


「わぅわぅわぅ」


 きっとガルガルは背伸びして兄の真似をしたいお年頃なのだろう。


「……ガルガル。ノエルは……自分の才能が恐ろしい」

「わふ?」

「……このままだと剣の達人になってしまうかもしれない」

「わーうわふわう」


 ガルガルは僕も剣の達人になると言っているが、多分難しいと思う。

 でも弟が頑張ろうとしているのだから、兄としては応援すべきだろう。


「……そだな。がんばるといい」

「わ~うわう~」


 それから僕とガルガルは狼型魔獣の死骸を処理した。

 その後、枝を咥えて張り切っているガルガルと一緒に見回りをしたのだった。

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