初めての留守番の日は、僕とガルガルで合計三十匹ぐらい魔物を倒した。
夜ご飯のときには、ママの言いつけ通りに山菜と茸も食べておく。
「今日はデザートもある!」
「がうがう~」
「うまいうまい」
うまい実こと聖樹の実を、ガルガルと一緒に食べる。
「おいしいな? ママの分は取っておこう」
「がう~」
食べおわると、僕とガルガルの分の二つの種を地面に植えて魔力を注ぐ。
「大きくなれ―」
「がう~がう~」
とりあえず二本とも一メートルぐらいまで育てる。
初めて魔力を注いだときは心配していたママも、最近では心配していない。
なぜなら、結構魔力を注いでも僕は平気だったからだ。
「夜ご飯の魔力もあげよう。すくすく育つんだよー」
他の木にも魔力を分け与えておく。
夜の日課を済ませると、巣の中でガルガルと一緒に横になる。
「ガルガル。のえるたちは、ちゃんと留守番できたな?」
「がう~がう」
ガルガルは誇らしげに尻尾を振っている。
「そだな? もうのえるもガルガルも立派な聖獣かもしれない」
僕もガルガルも自信がついた気がする。
「がるがる~」
「そだな。もう一人前といっていいかもしれないな?」
そんなことを言いながら眠りにつく。
ガルガルはあったかいのでくっついていれば、寒くない。
日は沈んだけど、月明かりと星明かりがあるので明るかった。
…………
……
「……きゅぅきゅぅ」
僕はガルガルの小さい鳴き声で目を覚ました。
月と星を見ると、真夜中だった。
「……おきちゃったか?」
ガルガルはうつ伏せのままきゅうきゅう鳴いている。
「ママがいなくて、さみしいのか? 仕方ないなぁ」
「きゅーん」
僕はガルガルの大きな頭をぎゅっと抱きしめる。
「兄がいるから、大丈夫だよ? さみしくないよ」
「……きゅうきゅう」
ガルガルは体が大きくて強くてもまだ四歳。さみしくて泣いてしまっても仕方がない。
小さい頃に親と兄姉を亡くしたことを思い出したのかもしれない。
「よーしよし、いいこいいこ。ガルガルはいいこ」
僕はガルガルのことを抱きしめて、優しくなで続けた。
しばらくそうしていると、ガルガルはほっとしたのか眠りについた。
聞こえてくるのは、ガルガルの寝息と巣の外から聞こえてくる虫の声だけだ。
「……くらいし寒いなぁ」
巣の中に届くのは、わずかな月明かりと星明かりだけだ。
ママがいないと、巣はさみしい。
「……かあさま」
今でも母様のことを忘れた日はない。父様と兄様のこともだ。
でも、四年近く経ったし、母様はもう忘れているかもしれない。
忘れていなくても、きっともう会っても気づいてもらえないだろう。
「……ガルガル、いいこ、いいこ」
さみしくなってきて、泣きそうになったので、僕はガルガルのことをぎゅっと抱きしめる。
そして、優しくなで続けた。
次の日の朝。僕は頬にザラザラした感触を覚えて目を覚ました。
「ママ! おかえり!」
「がうがうがう~」
夜明け頃にママが巣に帰ってきてくれたのだ。
僕とガルガルはママに抱きついた。
『ただいまだ。二人でお留守番できて偉かったぞ。さみしくなかったか?』
「さみしくなかったよ! 兄だからね?」
「わふわふわふ~」
ガルガルもさみしくなかったと言っている。
昨夜、泣いていたことは言わないでおいてあげよう。兄の慈悲である。
僕とガルガルはママの匂いを嗅ぐ。
「ママから違う猫の匂いがする」
「わふ~わふ」
「同族と会ってきたからな。匂いが移るのは当然であろう」
「そっかー」「わふわふ~」
「ノエルとガルガルの独り立ちも近いかも知れぬな」
少しさみしそうにママが言う。
「がうがう~」
ガルガルはもう一頭でも大丈夫と胸を張っているが、それはないと思う。
ガルガルはさみしがり屋なので、一頭だと泣いてしまうからだ。
「まあ、のえると一緒なら……大丈夫かもな?」
「わふ~」
「安心するがよい。すぐにどうこうという話しではない。二人ともまだまだ子供だ」
「えへへ~」「わふふ~」
その日は、僕とガルガルは一日中ママに甘えたのだった。