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第17話 お留守番の夜

 初めての留守番の日は、僕とガルガルで合計三十匹ぐらい魔物を倒した。

 夜ご飯のときには、ママの言いつけ通りに山菜と茸も食べておく。


「今日はデザートもある!」

「がうがう~」

「うまいうまい」


 うまい実こと聖樹の実を、ガルガルと一緒に食べる。


「おいしいな? ママの分は取っておこう」

「がう~」


 食べおわると、僕とガルガルの分の二つの種を地面に植えて魔力を注ぐ。


「大きくなれ―」

「がう~がう~」


 とりあえず二本とも一メートルぐらいまで育てる。

 初めて魔力を注いだときは心配していたママも、最近では心配していない。


 なぜなら、結構魔力を注いでも僕は平気だったからだ。


「夜ご飯の魔力もあげよう。すくすく育つんだよー」


 他の木にも魔力を分け与えておく。

 夜の日課を済ませると、巣の中でガルガルと一緒に横になる。


「ガルガル。のえるたちは、ちゃんと留守番できたな?」

「がう~がう」


 ガルガルは誇らしげに尻尾を振っている。


「そだな? もうのえるもガルガルも立派な聖獣かもしれない」


 僕もガルガルも自信がついた気がする。


「がるがる~」

「そだな。もう一人前といっていいかもしれないな?」


 そんなことを言いながら眠りにつく。

 ガルガルはあったかいのでくっついていれば、寒くない。

 日は沈んだけど、月明かりと星明かりがあるので明るかった。


 …………

 ……


「……きゅぅきゅぅ」


 僕はガルガルの小さい鳴き声で目を覚ました。

 月と星を見ると、真夜中だった。


「……おきちゃったか?」


 ガルガルはうつ伏せのままきゅうきゅう鳴いている。


「ママがいなくて、さみしいのか? 仕方ないなぁ」

「きゅーん」


 僕はガルガルの大きな頭をぎゅっと抱きしめる。


「兄がいるから、大丈夫だよ? さみしくないよ」

「……きゅうきゅう」


 ガルガルは体が大きくて強くてもまだ四歳。さみしくて泣いてしまっても仕方がない。

 小さい頃に親と兄姉を亡くしたことを思い出したのかもしれない。


「よーしよし、いいこいいこ。ガルガルはいいこ」


 僕はガルガルのことを抱きしめて、優しくなで続けた。

 しばらくそうしていると、ガルガルはほっとしたのか眠りについた。


 聞こえてくるのは、ガルガルの寝息と巣の外から聞こえてくる虫の声だけだ。


「……くらいし寒いなぁ」


 巣の中に届くのは、わずかな月明かりと星明かりだけだ。

 ママがいないと、巣はさみしい。


「……かあさま」


 今でも母様のことを忘れた日はない。父様と兄様のこともだ。

 でも、四年近く経ったし、母様はもう忘れているかもしれない。


 忘れていなくても、きっともう会っても気づいてもらえないだろう。


「……ガルガル、いいこ、いいこ」


 さみしくなってきて、泣きそうになったので、僕はガルガルのことをぎゅっと抱きしめる。

 そして、優しくなで続けた。




 次の日の朝。僕は頬にザラザラした感触を覚えて目を覚ました。


「ママ! おかえり!」

「がうがうがう~」


 夜明け頃にママが巣に帰ってきてくれたのだ。

 僕とガルガルはママに抱きついた。


『ただいまだ。二人でお留守番できて偉かったぞ。さみしくなかったか?』

「さみしくなかったよ! 兄だからね?」

「わふわふわふ~」


 ガルガルもさみしくなかったと言っている。

 昨夜、泣いていたことは言わないでおいてあげよう。兄の慈悲である。


 僕とガルガルはママの匂いを嗅ぐ。


「ママから違う猫の匂いがする」

「わふ~わふ」

「同族と会ってきたからな。匂いが移るのは当然であろう」

「そっかー」「わふわふ~」

「ノエルとガルガルの独り立ちも近いかも知れぬな」


 少しさみしそうにママが言う。


「がうがう~」


 ガルガルはもう一頭でも大丈夫と胸を張っているが、それはないと思う。

 ガルガルはさみしがり屋なので、一頭だと泣いてしまうからだ。


「まあ、のえると一緒なら……大丈夫かもな?」

「わふ~」

「安心するがよい。すぐにどうこうという話しではない。二人ともまだまだ子供だ」

「えへへ~」「わふふ~」


 その日は、僕とガルガルは一日中ママに甘えたのだった。

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