初めてのお留守番の日から、定期的にママは外出するようになった。
聖樹の若木を各地に届けるためだ。
そして、僕とガルガルは一生懸命聖樹の種を植えて育てていく。
ママが持って行くよりも沢山の量を植えて、育て続けた。
二人でのお留守番の夜、ガルガルはたまに泣いた。
そのたびに僕はガルガルを抱きしめて優しく撫でたのだ。
その半年後のある日の朝。
朝ごはんを食べた僕とガルガルは一緒に縄張りを見回っていた。
「……ガルガル」
「……わふ」
何も言わなくても、ガルガルは僕が何を言うかわかっているようだ。
「……ママ、病気だな?」
「…………わう」
一昨日までは元気だったように思う。
昨日は少ししんどそうではあったが、いつも通り見回りはしていた。
だけど、今日のママは寝床から起きれなかった。
心配する僕とガルガルに向かって、ママは、
「少し疲れたようだ。悪いが見回りを替わっておくれ」
と言ったのだ。
「ママは……少し疲れたって言ってるけど……」
「……がう」
ただ疲れた程度では、あんなにしんどそうにはならない。
「がう~がう~」
「そだな? 早く戻りたいな。でも見回りは適当にできない」
「がう」
「うむ。ママがのえるとガルガルを信じて任せてくれた仕事だからな?」
ガルガルと一緒に、縄張りを大急ぎで走っていく。
いつも僕とガルガルは、ママの後に見回りしている。
ママが強い魔物を倒した後、新たに沸いてきた魔物を倒しているだけなのだ。
つまり、今日の見回りはいつもより強い魔物を倒す必要があるということ。
それにママが心配だから急がなければならない。
「気合いをいれるよ? ガルガル」
「ガウ!」
「お、早速でたね! 足は止めない!」
「ガウガウ!」
僕とガルガルは足を止めずに、向かってくる魔物を倒していく。
聖樹が増えて大分ましになったとはいえ、魔物は毎日沢山生まれてくるのだ。
ママが安心してゆっくり休めるためにも、魔物は倒さなければならない。
「にゃああああああ!」
「ガウウウウガウガウガウ!」
僕とガルガルは、沢山の魔物を倒しまくった。
見回りを終えると、ママに食べさせるために倒した魔猪と採った聖樹の実を持って巣へと戻る。
「急ぐよ! ガルガル!」
「がう~」
僕は聖樹の実を抱えて地面を凍らせながら、ガルガルは大きな魔猪を咥えながら、走っていく。
巣が見えたとき、
「ぬ! だれかいる!」
「ワ、ワフッ!」
僕とガルガルは同時に巣の中にママ以外の誰かがいることに気がついた。
巣からは血の臭いが漂っている。
「マ、ママ!」
「ガ、ガガウ!」
僕は聖樹の実を放り出して、ガルガルも咥えていた魔猪を離して、全力で巣へと走った。
「ママ! 大丈夫!」
「ガガガウ!」
巣の中に入ると、ママが血の臭いを漂わせて横たわっているのが見えた。
「……おお、帰ったか。思ったより早かったな? ちゃんと魔物は狩れたか?」
ママは体を起こさずにそんなことを言う。
「かれたよ! ノエルとガルガルなら余裕だ。そんなことよりママ怪我して…………」
僕とガルガルがママに近づくと、
「みーみー」「みー」
「……なんかいるな?」「が、がう?」
ママのお腹の辺りに小さい生き物が三匹いた。少しネズミに似ている。
こやつらが巣の外から感じたママ以外の気配の持ち主だと思う。
「そなたたちの妹と弟だ」
「むむ? むむむ?」「わふわふ?」
僕とガルガルはママのお腹のところにいる小さな者たちをじっと見る。
「……かわいい」
「わふ~」
「そうであろう。ノエルとガルガルが……お乳を飲んでいたときのことを思い出すぞ」
そういって「ふぅっ」とママは息を吐く。
ママは疲れているようだ。
「かわいいなぁ……撫でていい? あ、ちがう。つまりど、どういうこと?」
「わわふう~」
ガルガルは許可も得ずに「かわいいかわいい」といいながら、弟妹をベロベロ舐めている。
「今朝、産気づいてな。見回りしてから産もうと思ったのだが……」
「なんで言ってくれなかった?」「わふ」
「言っても仕方なかろう。お産とは一頭でするものだ」
「…………そんなことない、……いや野生だものなー。そっかー」「がう~」
人族は医者を呼んだり色々したりするが、野生動物は一頭でこっそり産む。
ママも野生の聖獣なので、そういうものなのだろう。
「ノエル。ガルガル。撫でてよいぞ。優しくな?」
「わかった……ふわぁ、かわいい。みーみーないてる」「ぁぅ~」
弟妹達は全部で三匹で、みんな灰色だ。生まれたばかりだから、目も開いていない。
それでも三匹は一生懸命ママのお乳に吸い付いてごくごくミルクを飲んでいた。
僕はそんな弟妹達を優しく撫でる。
「こ、こわれそうでこわいな?」
ちっちゃくて弱そうだ。
「優しくしてたら壊れぬよ」
そう言ってママは笑う。
「ガルガルを……思い出すな? ガルガルも目があいてなくて、お乳飲んでた」
「わふわふ」
ガルガルは最初から見えてたというが、見栄を張っているのだろう。
「ねね、男の子? 女の子?」
「この子とこの子が男の子。この子が女の子だ」
「そっかー。弟と弟と妹か」
僕が撫でて、ガルガルが舐めていると、弟妹達がお乳を飲み終わる。
飲み終わると直ぐに寝始めた。
そんな弟妹達のお尻をママが優しく舐めている。
「はっ! ママ! のえるが清浄の魔法をつかうから、舐めなくて良いよ?」
「これはうんちとおしっこが出るように促しているのだ」
「そっかー。そういえば、ママはガルガルのお尻も舐めてたかも」
ガルガルが小さいときも、ママは舐めてあげていた。
「ガルガルも……立派にうんちできるようになったな?」
ガルガルのことを褒めて撫でてやった。
「がう?」
きょとんとして首をかしげている。
「あ、でも、血の臭いがしたから清浄の魔法かけておくな?」
「……血の臭いで魔物を呼び寄せようと思っていたのだが必要ないな。頼む」
「にゃああ~~」
僕は清浄の魔法をかけて、血の臭いを消してから尋ねる。
「なんで魔物を呼び寄せようと思ったの?」
「狩りに行くのは大変だからな? 襲ってくる魔物を返り討ちにした方がよかろう?」
「そっか、たしかに?」
めちゃくちゃ強いママにとっては、その方が体力を使わないのだろう。
だけど、僕とガルガルがいれば食料の心配はない。
「はっ! ガルガル! 魔猪を運んでこよう。ママに食べさせなきゃ」
「がう!」
「ママ、待ってて!」
僕とガルガルは急いで外に出て近くまで運んだ魔猪とうまい実を巣の中へと運び込む。
「ママ、肉焼くけど、どのくらい食べれそ?」
「おお、ありがたい。丁度お腹が空いていたのだ。いつもより多めに頼む」
「わかった! まかせて。うまい実も食べてな? のえるはもう食べたからママが全部食べて?」
「がうがう」
ガルガルもうまい実は、ママが全部食べてと言っている。
聖樹の実はおいしいし栄養がある。
僕とガルガルもまだ聖樹の実は食べてないが、お乳を出しているママが沢山食べるべきなのだ。
「ありがとう。だが、聖樹の実は一緒に食べよう」
そういって、ママは優しく舐めてくれた。