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第19話 お世話

 ママが弟妹たちを産んでから一週間が経った。


 その間、僕とガルガルは大忙しだ。

 ママはお乳をあげるのに忙しいので、手分けしてママの仕事を手伝っているからだ。


「……やっとおひさまが……昇った」

「……がう」


 僕とガルガルは日が沈んでいる間、巣に襲いかかってくる魔物を倒しまくった。


 それもいつもより強い魔物だった。

 日が沈むとどうやら魔物は元気になるらしい。


「……ママ、これまで一匹でこれやってたの?」

「慣れたらたいしたことではないぞ?」

「ママはすごいなぁ」「がう~」


 魔物が一時間おきに襲ってくるのでそのたびに起きて倒すのだ。

 眠りが浅くなって、疲れがとれない。


「ノエルとガルガルは寝ていていいのだぞ? 夜ぐらい我が……」

「いや! ママはこの子たちを守るしごとがあるからな!」

「わふわふ!」


 ママは弟妹たちを産んだばかりだし、一日に何度もお乳をやっているので体力がないのだ。


 それに、僕とガルガルでは手に負えない魔物がいつ来るかわからない。

 そのときのためにも、ママには力は温存してもらわないといけないのだ。

 ママは雑魚相手に体力を使っている場合ではない。


 僕とガルガルががんばるときだ。


「だが、ノエルもガルガルもまだ子供ゆえ……」

「だいじょうぶ!」「わうわふ!」


 昼寝するから大丈夫だ。


「みーみー」「みゃー」「にー」


 弟妹たちは元気に泣いている。

 真夜中だろうと夜明けだろうと昼間だろうと関係なく寝て、お乳を飲んですくすく育っている。


「にゃにゃ~(ほんと、可愛いなぁ)」

「がる~」


 弟妹たちを見ると、つい聖獣語が出てしまう。


「にゃ~(ママはそっちじゃないよ? こっち)」


 弟猫がよちよちと巣の外に向かおうとするので掴んで戻す。

 まだ目が開いてないのに、元気なものだ。


「みー」

「そろそろ、目がみえるようになるかな? 猫ってどのくらいで見えるようになるの?」

「猫のことは知らぬが。聖獣猫は大体二週間ぐらいで目が開く」

「ほほー。来週かー」

「今はほとんど目も見えていないし、耳も聞こえていないであろ」


 だから、ママを探して外に向かって這っていこうとしてしまうのかもしれない。

 きっと、ふつうの猫より聖獣猫の方が、体自体は強いのだ。だから移動距離が長い。


「……油断……できないな?」

「がう~」


 体が強いからこそ、ハイハイで遠くまで行ってしまう。

 ママが寝ている間に、巣の外に出て行ってしまえば大変なことになる。


「じゃあ、ママ。なるべくはやくもどるな?」

「がうがう~」

「うむ。ありがとう。気をつけるのだぞ」


 僕とガルガルは、日が昇ると縄張りの見回りに行く。

 これも、いつもママがしていたことだ。


「日が沈む前に見回りしたのに……もう魔物がいっぱいだなぁ」

「わふわふ~」


 多分、今は春だから、日が沈んでから昇るまで十二時間ぐらいかな?

 それだけなのに、魔物はいっぱいだ。


 沢山魔物を倒して、大人のイルミンスールにも挨拶する。

 そして巣に戻ったら、ガルガルは肉の処理、僕はイルミンスールの子供たちのお世話だ。


「ガルガル。肉を凍らせるのは半分ぐらいでいいよー」

「がう~」


 それが終わると、弟妹たちのうんことおしっこをきれいにする。

 ママに清浄の魔法を使わせるわけにはいかないのだ。


「ママ、内臓から焼いていくな?」「わふ~」

「何から何まで……すまぬな」

「えへへー。気にしなくていい」「がうがう」


 お乳をあげているからか、ママは沢山食べる。

 ママは魔猪のお肉より魔猪の内臓が好きなので、内臓は全部ママにあげることになっている。


 その分、いつも内臓を食べていたガルガルは肉を沢山食べるのだ。


 手分けして肉を焼いて、食事を済ませると、もう一度見回りだ。


「ママって、本当にいそがしかったんだなー」

「わふわふ~」


 見回りをして、ご飯を準備して、弟妹たちのお世話を少し手伝う。

 ママの体も清浄の魔法できれいにして、僕とガルガルの体もきれいにする。


 僕とガルガルは、ママにはなるべく魔法を使わせないと決めたのだ。


「のえるの服が少しやぶれたな? なおそう」


 いつもママが直してくれている服も、自分で直す。

 少し難しいが頑張った。



 そんな忙しい日々を過ごして、二週間が過ぎた。

 弟妹たちの目は開いて、元気に遊ぶようになった。


「みーみー」「みゃー」「にー」

「にゃー(兄をかもうとするな!)」

「わふ~」


 僕とガルガルが横になっているところに、弟妹たちが襲いかかってくる。

 夢中になってじゃれついてくるので、ひっくり返したりして遊んでやった。

 ガルガルは噛まれても気にせずに、ベロベロ舐めまくっている。


「にゃ~(聖獣猫って成長がはやいな~)」

「がう?」

「いや、ガルガルより早い気がするな?」


 そんなことを話していると、授乳後に寝ていたママが起きてきた。


「ノエル、ガルガル。見回りに行ってくるゆえ、子供たちは任せてよいか?」

「いいけど、のえるとガルガルが行ってくるよ?」「がう~」

「いや、体は動かした方が良いのだ。子供たちの目も開いたしな。我が離れても良かろう」

「そっかー」「わふ~」

「ノエルとガルガルの時は、巣を離れた隙に襲われたこともあったな」

「あー、あったかも」

「がう!」


 ガルガルは「追い払うの大変だった!」と自慢げに言っている。

 そんなガルガルをママは優しく舐めて、次に僕を舐めた。


「ノエル、ガルガル、弟妹たちを頼む」

「わかった!」「わうわう!」


 そして、ママは見回りに出かけた。

 その日から、ママは少しずつ普段通りの生活へと戻っていった。

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