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第49話 新たな家令の決定


 「ここの領民は、とてもこの領地が好きなんだなって伝わってきますね。特に今回のヤコブ司祭とロバート様が対峙した時に領民が怒りを爆発させた時の事はとても驚きました」



 オルビスがヤコブ司祭の時の話をし始めたので、詳しく聞きたくて耳を傾ける。



 「皆、本当に怒っていて……勝手に徴収されていた事ももちろんですが、公爵領の為に払っていたのに違う事に使われていた事が腹立たしいと言っていて…………ここの領地が愛されているんだなって感じました」


 「そう…………皆がそんな事を。お父様のやってきた事が皆に伝わって、住みやすい良い領地として機能していた証ね。とても嬉しいわ……ヤコブ司祭のしていた事は許し難いけど、それに長年気付けずに苦しめてしまったから、領民にはその分も返していかなければならないわね」


 「お嬢様、その件で折り入ってお話がございます」



 そう言ってロバートが突然話し始めたので、皆ロバートの方を一斉に見る。ロバートは皆を見ながらゆっくり話し始めた。



 「私は今回の件で、領民や公爵家の方々にも大変なご迷惑をお掛け致しました。旦那様にもお伝えいたしましたが、私もそろそろ引退を考えるべきと判断しまして……」


 「え?お父様にも伝えたって…………そんな事を考えていたの?!」



 私は驚きのあまり、立ち上がってしまう…………まさかロバートがそこまで責任を感じていたなんて……今回の件でロバートも色々と思うところがあるのはよく分かっているわ。



 「お父様はなんて…………」


 「旦那様は私の気持ちを汲んでくださり、私のやりたいようにと仰ってくださいました。突然すぐに辞めるというわけにもいきませんし、次の者に引き継いでいく事も必要ですから」



 そしてロバートはオルビスの方を見ながら、話を進めていく。



 「私のような臆病な年寄りではなく、若く信念を持って取り組める人物が相応しいと思うのです。そこでここにいるオルビスに私の後継となってもらおうと考えているのですが……いかがでしょうか」


 「……え?」



 突然指名されたオルビスは何が起こったのかと、目を白黒し始める。まさか自分が指名されるとは思っていなかったわよね…………私もロバートの話を聞いて驚き戸惑っている最中だけど、オルビスなら信頼出来るかなと思えた。


 公爵家にいられなくなっても自分のやるべき事をして、貧民街も人たちを支えてくれていたから……



 「それなら、私も賛成よ。オルビスならしっかり務めてくれるに違いないと思えるわ。今までも頑張ってくれていたし……オルビスはどう?やってみる気持ちはある?」


 「…………由緒ある公爵家の家令に私なんかでいいのでしょうか……」


 「確かに公爵家ではあるけど、領地を任せるのは身分とかそういうものより、信頼出来る人物がいいの。お父様もオルビスの話を出したから、了承してくれたのよね?」



 私がロバートにそう聞くと、ロバートは笑顔で頷いてくれた。やっぱりそうだったのね……ロバートと私のやり取りを見て、オルビスは気持ちを固めた表情になった。



 「……分かりました。自分の出来る限り、やってみます。あのような事を二度と起こさないように色々と学ばなくては」


 「ロバートに沢山聞いたらいいわ。色々な事を教えてもらって、立派な家令になってね」


 「はい!」



 ロバートもオルビスも嬉しそうね。ふとテレサの方を見るとちょっぴり寂しそうな表情をしている……オルビスと離れる事になるんだものね。



 「テレサも公爵家で働いたらどうかしら?」


 「え?……あたしはいいよ!そういう堅苦しい事は苦手だし……子供相手にするのは得意だけどね~」



 テレサのいいところは飾らないところよね。常に自然体……子供たちに好かれるのが分かるわ。



 「じゃあ、正式に修道院で子供たちのお世話係として働いてくれる?マナーハウスに住んでもいいし、修道院に住んでもいいし……そうすれば修道女の方々もとても助かると思うの」


 「いいんじゃないか?そのまま子供たちに文字の読み書きなどの教育も出来たら、なおいいんだけどな」



 ヴィルがそう言ってくれて私もハッと気が付いた……そっか…………教育機関がないから、そういった教育が出来ないのよね……



 「え――文字の読み書きは苦手だよ……そっちは他の誰かに頼んで」


 「私がテレサに教るよ。テレサならすぐに覚えられると思うから」



 テレサが言い終わらないうちにオルビスが笑顔でそう言い出した。テレサが驚きのあまり目を見開いている…………でも嬉しかったのか「オ、オルビスが教えてくれるなら……やってもいいよ」ってモゴモゴ言っている姿が可愛いが過ぎるわ。



 色々な話がまとまったので、皆に公衆浴場に一緒に行こうと提案してみたところ、快い返事がもらえた……いよいよ温泉に入れるわ!




 夜の温泉に向けてウキウキが止まらない私は、早い時間から貸し切りの看板を立ててほしいとロバートにお願いしたのだった。



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