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第82話 遠乗りと爆発騒ぎ


 イザベルがまずは先頭になって走り始め、私も後に続いて馬を駆って行く――――修練場で乗るような感じではなく、馬と一体になって走っていくのはとても気持ちがいい――――



 「風が気持ちいいわ!」


 「オリビア様、お上手です!スピードはそのままで走らせてください!」



 後ろからリチャードが褒めてくれる。



 「分かったわ!」



 馬で街道を走り抜け、草原を駆ける――――馬車とは比べものにならないくらい速いわ!


 どんどん景色は変わっていき、周りには民家や建物、木々すらも何もなくなって、ひたすら草原を駆けていった先の小高い丘の上には、大きな木が一本だけそびえ立っていた。



 リチャードがスピードを緩め始めたので、目的地がそこである事が分かる。



 「着いた?」


 「はい、ここがリュージュの丘です。ここからだと王都が全て見渡せる絶景スポットとなっているんですよ」



 イザベルが教えてくれたので馬から降りて、手綱を太めの木の枝に括りつけると、振り返った先には王都の景色が広がっていた。



 「凄いわね……絶景。王都の先まで見えるわ。奥の方はレジストリック?ナヴァーロ?」


 「奥の方はレジストリック王国ですね。3つに分かれたので、右側に見えるのはナヴァーロ王国です。この3国は同盟を結んでいますので侵攻してくる事はありませんし、同盟国として流通も盛んです。今のところ良好な関係を結んでいると思います」


 「元は1つの国だったんだものね……」



 こうしてみると、世界は広いわね。自分の悩みがちっぽけに感じてしまう。この広い世界ならどこでも生きていけそう……もし自分の居場所がなくなりそうになったら、皆で他国にでも移住しようかしら。



 そんな事を考えて広い世界を見ている時だった。突然王都の西側でボンッと爆発が起きる。



 「え?今のって爆発?!」


 「煙が…………街中で爆破騒ぎだなんて!」



 どんどん黒い煙が上がっていく……この世界では木造が多いから、すぐに燃え広がってしまう。


 案の定煙はどんどん増していっていた。



 「現場に行きましょう!」


 「オリビア様!危険です!」



 イザベルの言う事も分かるけど、この世界には消防署などはない。街は衛兵が守っているだけだし、燃え広がったら被害がどんどん拡大するわ。



 「このままだとあっという間に街中に広がってしまうわ!すぐに火を消さないと……民も避難させなきゃ!」


 「……私が先頭に行きます。オリビア様は後ろから続いてください」



 リチャードがそう言ってくれたので、頷いて後ろからついて行く事にした。一刻も早く行かなければ……!




 ~・~・~・~




 馬を駆って王都の西側に向かって走らせること10分くらい…………煙が出ているのですぐに場所を特定出来た。


 やっぱり火が上がっている!出店の部分の商品からどんどん火が燃え移っているけど、まだ店には飛び火していないみたい。



 でもそれも放っておいたら燃え移るのも時間の問題だわ。店主は血を流して蹲っている……ひとまず馬を降りて店主に話しかけた。



 「大丈夫?何が起こったの?!」


 「客から何かを受け取ったんだ…………それが突然爆発して……!!」



 まさか爆発物を渡されたって事?!怪我をして血が流れているのでイザベルにお願いして彼を避難させてもらう。



 「皆下がって!火が大きくなる前に避難して!」



 私が避難を呼びかけている内にまた商品に燃え移ったのかポンッと弾ける音がした。油を使っている商品があったら大惨事だわ。


 このままでは黙っていても大火事になってしまう。消火する方法は…………そうだ!



 「リチャード!なるべく大きな布はない?!その布に水をかけたいんだけど……」


 「探してきます!」



 そう言って向かいの店に消えたリチャードは、大きいシーツのような布を持ってきてくれた。いつの間にか街の人々もバケツに沢山水を持ってきてくれている。



 「よし、じゃあこの布で燃えている個所を覆うから!その上から一斉に水をかけて!」



 皆が返事してくれたので、民とリチャードと私の数人で火元にシーツをバサッとかぶせる――――――火は空気がなくなれば消える――――まだ大きくない内にやらないと!



 「今よ!」



 皆が一斉にシーツに水をかけてくれた――――すると白い煙がシュウゥゥッと出てくる。皆が鎮火している様子をジッと見守っていた。そこへ「火事はどこですか?!」という女性の声が聞こえる。


 声の主の方を見ると、黒くてストレートの長い髪をなびかせた少女が立っていた。



 この子は……聞かなくても分かるわね。するとその後ろから大きな声で聖女を制する声が聞こえてくる。



 「聖女様!それ以上は危ない!」



 その後ろを追ってきたのは見慣れた顔……。



 「ヴィル?!」


 「で、殿下?!」



 私とリチャードが驚いて同時に声をあげると、本人も驚いた顔で私たちを交互にみていた。



 「オリビア?リチャード?どうして君たちが…………それにこれは……」



 色々と聞きたい事はあるけど話している時間はないわね。そうこう言っている間にまだ消火しきれていなかったのか、布から少し火が……。



 「今鎮火しているところよ!でもまだ収まっていないみたい……」


 「分かりました、ではしっかり鎮火させましょう。皆下がってください!」


 「え?」



 聖女と思われる女性がそう言うと、両手を合わせて何かを唱え始めた――――体が内側から光ったかと思うと、その上空に雲が一気に集まる。


 そしてあっという間にサァァァと雨が降り始めた――――――――これが聖女の力。


 豊穣の力というのは天候をも操るのね…………国が豊かになるっていうのも頷ける。一日おきに教会に通って力の使い方を学ぶって言っていたけど、見た限りもう使いこなせている感じがする。



 みるみるうちに小火は鎮火され、煙もあまり上がらなくなり、これでもう大丈夫だという事が分かった。


 あんなに皆でバタバタしたのに、彼女の手にかかれば一瞬で収める事が出来てしまうのね。



 民は聖女の力を目の当たりにして恍惚とした表情で彼女を見つめ、建物の軒先に雨宿りしていた私とリチャードは、聖女の力の素晴らしさに呆然と見入っていたのだった。




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