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第84話 会えない間の事



 「そう言えば聖女様はどうしたの?イザベル達も来ないし……」


 「あ――……君を追うのに必死で、リチャード達に後を任せてきたんだ。でも彼らなら現場を収めて、聖女を王宮に送り届けてくれるだろう」


 「それはそうだけど……迷惑かけちゃったわね。後で謝らないと」



 あれから私たちは丘の上に座って、街での一件や今まで会えなかった時の事を話し始めた。



 「ヴィルは聖女様のお世話係なのよね?」


 「ああ……突然召喚された聖女は右も左も分からない様子だったので、ひとまず私がこの世界の事を教える事になったんだ。しかしあの聖女が……かなり騒がしくて、仕事がなかなか進まなくて困っている。何をするにも同行しなければならないし、教会の者も手を焼いているようだ」


 「ヴィルはとばっちりだけど、教会は……自分たちで無理矢理召喚しておいて、手を焼いているだなんて勝手ね。どうせこんなはずじゃなかったとか思っているんでしょうけど」


 「聖女の方もいきなり未知の世界に連れて来られたのだから、不安になるのは当然の事だ。そう思ってお守りをしていたんだが…………主に愚痴を聞く係といった感じだな。仕事が進まないから君にも会いに行けないし、ニコライはピリピリしているし」



 あまり愚痴を言わないヴィルがブツブツいっている姿は、なんだか幼くて可愛いわね。



 「それでも最近は力の使い方が分かってきたみたいで、ようやくお守りから解放されると思ったんだ。今日もしっかり仕事をしていたし、そろそろオリビアのところに通えるなって」



 さすがだなって言って笑っていた時は、そういう理由があったのね。


 なんだか変な誤解をして拗れていただなんて、ヴィルには黙っておかないと……



 「ふふっ私はイザベルのところに毎日通って、乗馬の技術が上がったわよ」


 「後ろから追いかけていてびっくりしたよ。凄い速さで走っていたけど、全然上体がブレないし、頑張ったんだなって……今日はどうしてあの場所に?」


 「今日はイザベルとリチャードと遠乗りに来ていたのよ。私の乗馬の技術がとても向上したから、遠乗り出来そうねって話になって」


 「………………私がオリビアと一番に遠乗りに行きたかったというのに……」



 マズイわ、またいじけだしている。何か話題を変えないと……



 「この丘に来たら王都が見渡せるでしょう?その時に突然爆発音がして、煙が立ち上ってきて……馬もあるし急いで駆けつけたのよ」


 「それで煤がついているのか…………君のおかげで助かったけど、無茶はしないでくれ」



 自身の持っているハンカチで私の顔を拭きながら「何事もなくて良かったが……」とブツブツ言っている。お父様並みに心配性なんだから。



 「さあ、そろそろ公爵邸に戻ろう。あまり遅くなると公爵が心配するし、きっと君のその姿を見ただけで大騒ぎしそうだからね」



 顔はヴィルが拭いてくれたので幾らかは綺麗になっているけど、体はすっかり汚れているし正直何もなかったとは言えない状態だった。私は覚悟を決めて我が家に帰る事にしたのだった。




 ~・~・~・~




 「オリビア?!その恰好はどうしたんだい?」



 公爵邸に帰るなり、お父様に見つかってしまった…………こっそり入ってマリーに綺麗にしてもらおうと思っていたのに。見られたからには言い訳は出来ないわね。


 そう思ってお父様に理由を話そうと思ったら、ヴィルがさりげなく助け舟を出してくれる。



 「今日街に出かけた時に小火があって、煙をかぶってしまったんだ。聖女が来たので小火は問題なく収まったんだが、煤で汚れてしまったのだ」


 「そうでしたか……消火しようと飛び込んでいったのかと思ったよ。それなら良かった」



 お父様はそう言って笑顔になったけど、その言葉にドキッとしてしまった。本当の事を言っていたらまた大騒ぎで、謹慎になっていたかもしれないわね……ヴィルにありがとうと目線で合図する。


 彼も分かっていたのか、私の顔を見て頷いてくれた。



 こういうやり取りが久しぶりで、本当にホッとしている自分がいる。聖女の存在はまだ私を少し不安にさせるけど、自分の気持ちとヴィルの気持ちが分かって憑き物が落ちたような気分。



 「心配かけてごめんなさい。ヴィルもありがとう」



 私の言葉に2人が笑顔になったので、その日は満たされた気持ちで眠りについた。


 マリーには「その恰好はどうしたのです?!」とお父様と同じような反応をされたので、同じように説明するのが大変だったけど。



 そう言えばあの後どうなったのか、イザベルとリチャードに聞かなければ…………2人を置いてきちゃったから、きっと心配しているわね。




 そう思って次の日に起きてから、手紙をしたためようと思っていると、突然の思いがけない訪問者に公爵邸は騒然となる。

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