――――コンコン――――
「入っても大丈夫よ」
私は机に向かって座り、イザベルに手紙を書いていると、扉がノックされたので返事をした。そうして「失礼いたします」と入ってきたのは、執事のエリオットだった。
「お、お嬢様…………お嬢様にお客人が来ております」
「私に?おかしいわね、誰とも約束はしていないのだけど……どちら様?」
「そ、それが…………聖女だと名乗っております」
「?!」
せ、聖女様が直に会いにきたというの?
私は驚きの事態に少し固まってしまう……でももし本当に聖女なら、このまま追い返すわけにはいかないわね。
ひとまず私は本物かどうか確かめに、下におりて行ったのだった。
~・~・~・~
エントランスから外にでてみると、目の前には姫カットの綺麗なストレートの黒髪が風に揺らめいている美少女が立っていた。
これは聖女様確定ね……昨日も会っているけど初めまして、なのかしら?そんな事を考えていると、向こうから挨拶をしてくれたのだった。
「こんにちは!突然お邪魔してごめんなさい。私は笹黒真莉愛です。オリビア様、ですよね?」
聖女様はとっても元気な方なのね。ヴィルが言っていた通りな感じで、私が小説で読んだ儚い美少女といった感じとは程遠いような……。
「え、ええ。オリビアですわ。こんにちは、真莉愛様」
やっぱりこの人の名前は…………前世の私の世界、日本から来た人物っぽいわね。真莉愛様の様子を見ていると、自己紹介が終わってから、プルプルと震えだしている事に気付く。
「ま、真莉愛様?どうかなさいましたの?」
「…………うっ……」
「?」
「……うわ~~~ん!オリビア様ー!!私とお友達になってくださいぃぃ!」
「ええ?!」
突然涙目で抱き着いてきたので、びっくりして変な声が出てしまった……ひとまず宥めなければと頭をなでなでしてみた。
するとそこへ、聖女のお世話係のヴィルが馬でやってきたのだった。
「聖女様!突然王宮を抜け出されては……オ、オリビアに何を!」
「ヴィルに言っても絶対連れて来てくれないじゃない!だから王宮の馬車を借りて強行突破したまでよ!」
「オリビアにまで迷惑をかけるなど……」
いけない、ヴィルから黒いオーラが出ている感じがするわ。公爵邸で争われても困るし、ひとまず真莉愛様のお話を聞いてあげなくては。
「まぁまぁ。真莉愛様にも言い分があるみたいだし、庭園でお茶しながらお話しましょう。ヴィルも物騒な事はダメよ」
「やった!」
「………………仕方ないな……」
私は2人が了承してくれたのを見てホッとすると、マリーにお茶とお菓子の用意をお願いして、2人を庭園まで案内した。
~・~・~・~
庭園に移動するとすぐにマリーがテーブルにお茶やお菓子を並べてくれる。そこへ皆座ったところでお話が始まった。
「真莉愛様は、普段王宮で過ごされているのでしょう?同じ年ごろの若い女性は沢山いるのでは?」
「……そうなんですけど…………皆、私が聖女だっていう事で、全然友達になってくれないんです。気軽に真莉愛って呼んでねって言っても誰も呼んでくれないし……さっきオリビア様が初めてですよ!名前で呼んでくれたの……私、すっごく嬉しくて……」
真莉愛様はここまで話してる段階で、もはや涙目になってしまっていた。
そっか、家族からも引き離されて、友達も誰もいない異世界に突然召喚されたんですもの、そりゃ心細くなるわよね。
この世界では皆敬称は崩さないでしょうから、聖女様って呼ぶのは当たり前なんだけど、このくらいの年齢で親しく呼んでくれる人が全くいないのは寂しいのかもしれない。
本来なら私も聖女様って呼ぶべきだったのだけど、日本の名前が久しぶりで懐かしくて、つい名前で呼んでしまったのよね。
「じゃあマリアって呼ぶわね。私も堅苦しい事は嫌いだから、オリビアでいいのよ」
「……うっ……うう~~オリビアが優しい人で良かった!昨日、小火の時に馬に乗りながらヴィルに塩対応しているのを見た時に、この人なら親しくしてくれるかもって思ったの」
あ、あれを見られていたのね……そうよね、ヴィルと話していたものね。あの時は嫉妬していたなんて二人には言えないわ。
「まったく……まさかオリビアのところに突撃するとは思っていなかった。少し目を離した隙に……まぁそろそろ力の使い方もちゃんと出来るようになってきているし、そろそろ私が世話係になっているのもいらなくなるだろうな」
「本当?!やった~~自由よ!この人、本当にうるさくていつも口喧嘩になってしまうの」
「それは君が……」
「いっつも、オリビアが~オリビアなら~ってうるさいったら……」
「……………………」
それは、ちょっとどころじゃなく恥ずかしいわね……ヴィルがそんな事言っていたなんて。ちょっぴり喜んでいる自分もいたりいなかったり。
「ふふっこれからは自由なら、マリアも我が家に遊びに来てね。わりと王宮からも近いから警護の人も少なくて済むだろうし」
「オ、オリビア……それなら私も一緒に来たいのだが……」
ヴィルがいじけたように自分もって言う姿が可愛らしいったら……そこへすかさずマリアから口撃が入る。
「ヴィルは仕事があるんだから、そっちをやっていればいいんじゃない?いつも私に仕事が進まん!って言うじゃない。私がオリビアのところに行けば仕事もサクサク進むわよ~良かったね」
「……………………」
こ、これは手強い。マリアの勝ちって感じでヴィルは撃沈している。
こんな感じでお茶会はわりと和やかに進んでいたのだけど、昨日の小火の話になるとピリッと雰囲気が変わっていった。