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第86話 聖女マリアとティータイム



 「この前の小火なんだけど、どうしてオリビアはあそこにいたの?」


 「私はたまたまリチャードとイザベルと一緒に、リュージュの丘に遠乗りに行っていたの。そこは王都が一望出来る場所だったから見ていたら、ボンっと爆発があったのを見てしまって……煙はどんどん上がっていくし、すぐに皆で馬で駆けつけて。マリアは小火の連絡が入って駆けつけたのよね?」


 「ううん、そうじゃないんだ。教会の人に今日は街中で力を使って民を喜ばす日だって言われていたの。だから予め街に出ていたから早めに駆けつけられたのよね」


 「そうなの?」



 私がヴィルの方を見ると、ヴィルも頷いた。店主は客から何かを受け取って、それが爆発してあんな事にって言っていたし、まさか――



 「何だか偶然にしては気持ち悪い感じがするわね……」


 「今までもあちこちで力を使ってはいたんだけどね!そういう時は予め予定を組まれていたから用意出来たりするんだけど、昨日は朝に突然予定を伝えられたなぁ」


 「………………」



 教会が今回の事を仕組んでいたの?何の為に?聖女へ支持が向くようにかしら……。



 「なんかここの教会、胡散臭くて嫌だな。ここの世界に来たばかりだから、ひとまず言う通りに動いているけど……皆張り付いた笑顔で近寄ってくるんだもん。私、変な事をさせられてるわけじゃないよね?」


 「そんな事はない、とは言い難いな。今回は君の力を民に示す為に仕組まれた可能性が高い。聖女が召喚されたのは教会だ……あの手この手で動いてくるな」


 「……なんとかしてよ~~王子様でしょ?!」


 「何とかしたいのは山々だが、今のところ細心の注意を払うとしか言いようがないな」


 「そんな……本当なら高校生活を満喫しているはずだったのに。可愛い制服も無駄になっちゃったし、もう教会の言う事は聞いてあげないでおこうかな」



 あんまりショックだったらしくて、マリアが教会に対して悪態をついている。


 そうよね、突然連れて来られて環境も変わってしまって……私はこの世界について多少知っていたから良かったけど、マリアは全然知らない感じだし。



 でも悲しむより怒りの方が強いところが彼女の性格を表していて、怒りながらも元気なところが凄いわね。



 「今のところは教会の話を聞くフリくらいはしておいた方がいい。教会としては聖女を召喚した立場があるから、君が反抗し始めて我々側に入るような事が起こると、君に何をしてくるか分からない」


 「ちょ、ちょっとー……怖い事言わないでよ!」



 ヴィルは本当の事を言っているんだろうけど、いきなりそんな事言われたら怖いわよね……



 「ごめんね、嫌だろうけど。多分しばらくは大人しいだろうから、大丈夫だと思う。それに私の家にも来ていいし」



 マリアを元気づける為に彼女の手を握ってそう言うと「オリビア~~~絶対遊びに来るから!」と言って涙目になっていた。


 そろそろ帰ろうと言う話になり、その日はそのままお開きになったのである。




 そしてその日から一日と空けずに、マリアが公爵邸に入り浸り始めたのだった。




 ~・~・~・~




 「毎日我が家に来て、大丈夫?教会からは何も言われない?」


 「大丈夫~~何も言ってこないよ。多分ここに来ている事は知っているだろうけど。私の行動にとやかく言えないみたいで、出かけてきますって言うと、どうぞって感じで送り出される」



 それって、放置されているというより、多分どこかで監視されているのでは?私は一抹の不安を抱きながら、話を聞いて苦笑いをしていた。


 まぁマリアは裏表のない性格のようだから、やましい事もないんだろうし、さすがにこの公爵邸の中にはお供の護衛も入っては来られないから大丈夫でしょうけど。


 庭園でお喋りする時は必ずゼフが立っていてくれる。これはもはや我が家の当たり前の光景。



 「まぁ10日くらい続けて来てるから、明日からはさすがに教会に入れられた予定をこなすつもり」


 「それって地方行脚みたな事?」


 「そうそう、地方の領地を回ったり、森の職人さんたちの元に行って、お仕事の手助けになる事をしたり……私は自然にお願いして力を貸してもらう事が出来るから、必要なものを増やす事が出来るんだ」


 「凄いわね……」


 「この力があれば、教会のお世話にならなくても一人暮らし出来るんじゃないかなって思うんだよね。させてくれないんだけど」



 トホホという声が聞こえてきそうな感じで肩を落とすマリア。



 「さっき領地にも行くって言っていたけど、領地に行って何をしてきたの?」



 領地と言えば貴族の領地よね。聖女が降臨してから自分の領地に来てもらった諸侯がいるとは知らなかった。お父様やヴィルは知っているのかしら……



 「農作物が育つように祈りを捧げてきたんだよ。めきめき成長して凄く感謝された~教会は嫌だけど、こういう使い方は好きかな!そこの領地の貴族の屋敷にも招待されたから、お礼に屋敷中に祝福を与えてあげたんだ。すっごく喜んでもらえて……」



 マリアはその時の事を嬉しそうに語っていた。


 自分の意思で来た世界じゃないけど、自分の力が役に立つって嬉しい事よね。その事が彼女がここで生きていく為の理由になってくれたらいいのだけど。



 「その領地ってどこの貴族の領地を回ったの?」


 「どこだったかな…………何個か回ったんだよね。こっちの世界に来て貴族の名前もよく分からなかったから、全部は……思い出せない。すっごく変わったお屋敷もあったんだよね。多分帰ったら日記書いてるし分かると思うから、次に来た時に教えるね!」



 マリアはそう言ってテーブルの上のお菓子を美味しいとパクパク食べていく。



 「あ、ありがとう」



 本当に若者って感じのマリアの様子に、中身が30代の私は自分にもこんな時代があったなぁとなんだか懐かしくて、微笑ましく思ったのだった。

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