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第4話 魔女はスパイを弟子にする④

 館に入ると、そこはまるでお城のようだった。シャンデリアが高い天井から下がり、ステンドガラスが周りにある。

「見た目よりずっと広いですね」

「魔法で空間を広げているのよ」

 アリスは近くにある、百人くらい座れそうなテーブルを指差した。魔女の家は皆魔法で拡張されているが、アリスの家はスケールが違う。

「今お茶をいれるから」

 彼女は鼻歌を歌いながらティーポットから紅茶を入れる。

「百年前に手に入れたとってもいい紅茶なの」

「ありがとうございます」

「スコーンもどうぞ?」

 そんな昔のものを飲んで大丈夫だろうか? とアンナは思いながら毒味したが、普通においしかった。魔法で鮮度を保っているのだろう。お菓子もおいしい。

「まだ、聞いてなかったわ。あなた、お名前はなんて言うの?」

「アンナです」

「アンナ、疲れたでしょう。ゆっくり休んでちょうだい。お部屋まで案内するから」

 アリスが手を取って立たせてくる。頭ひとつ長身なアリスに、上目遣いで訴えかけた。

「あの……魔女様」

「アリスでいいわ」

「アリス様。私は休んでいたくなどありません」

 手を強く握る。

「あら。どうしたの?」

「私は、一刻も早く魔女になりたいのです。アリス様のような力が欲しいのです」

「焦ることはないわ。ゆっくりお茶でも飲みながらやりましょうよ」

「いいえ。すぐにでも魔法を覚えて、魔女狩りに対抗できるようになりたいんです。教えてください。条件とはなんでしょう?」

 早く条件を聞いて、それを満たし、一か月以内に魔女の弟子を卒業しなければならない。

「アンナ、あなた」

 しかし突然、アリスの顔から笑みが消えた。

「嘘をついているわね?」

 アンナは腹の下が一気に冷えるのを感じた。

「な、何のことでしょう?」

「初めから私にはわかっていたわ。あなたが何か隠し事をしているのは」

 まずい。何か疑われるようなことをしただろうか? 急ぎ過ぎたか?

「おかしいじゃない。魔女狩りが、一人の無力な人間を、わざわざ百人で追いかけ回すなんて」

 アンナは言葉に詰まった。いくらでも説明はつけられる。だが、アリスに見られると言葉が出てこなくなった。

「師匠に隠し事をするなんて、よくない弟子ね?」

 アリスは腕を組んでアンナを見下ろした。

「わ、私はそんなことはしていません」

 正体のばれたスパイの末路は悲惨だ。

 アンナ以外にも、魔女の元に潜入させられた者たちがいた。彼女らは魔女の修行にはついていけず、正体がばれてしまい、皆最初の任務で魔女に殺されている。

 何もないところから、朝顔の花がついた緑色のツルが伸びてきた。アンナの体に巻き付いてくる。

「六六六魔法の二、『結束の園(モーニンググローリー)』」

「あの、ちょっと待って……」

 アンナの体は持ち上げられた。

 ばれた。殺される。魔女狩り百人を、赤子扱いしたアリスだ。アンナなどその気になれば一瞬で消し飛ばせる。逃げることも、抵抗することもできない。

「アンナ。あなた、本当は……」

 アリスはソファーに座る。アンナはそこまで運ばれた。アンナは、死を覚悟した。

 横向きにされて、ソファーに下ろされる。アリスの膝の上に頭が乗った。柔らかく、暖かい。

 アリスは耳にそっと囁くように、語りかけてきた。 

「本当は……甘えん坊さんでしょう?」

「……はい?」

 アンナが上を向くと、優しい表情でアリスが微笑んでいた。

「無理して強がってるけど、本当は怖くて不安で、誰かに甘えたくてたまらないんでしょう?」

 アンナは状況がすぐに飲み込めなかった。ばれたのではなかったのか?

「あの、私、本当は……」

 唇に指をあてられた。

「いいのよ、無理して話さなくても。大変だったことは、わかってるんだから。魔女狩りに襲われて、追い回されてきたのよね? 辛かったでしょう」

 なんだか、都合のいいふうに解釈してくれたみたいだ。ここは、話を合わせておいた方がよさそうだ。

「はい。私、本当は、怖かったです」

 アンナは適当に話を合わせた。アリスの場合、こうしたほうが好印象になるだろうと思ったからだ。

「アリス様に、助けてもらえてよかったです」

 アリスのローブの裾を、すがるようにきゅっとつかむ。そういう演技だ。

「あらあら」

 アリスは微笑んだ。やっぱり、喜んでいる。頼られるのが嬉しいみたいだ。

「ここでは甘えていいんだからね。あなたは私の弟子になるんだから」

 アリスの師弟に対する考え方がよくわからないが、とにかくここは合わせようとアンナは思った。

「でも、嘘をつくのは、だーめ。おしおきとして、強制膝枕の刑をさせてもらったわ」

「おしおき……」

「ごめんなさいね。でも、こうでもしないと本音を言わないでしょ? ほら、横を向いて」

 なされるがままに横向きになる。

「強制耳かきの刑ね」

 アリスは、懐から耳かきを取り出して、耳に入れた。くすぐるみたいで、気持ちいい。

「千年前、私も師匠にこうしてもらったの。アンナも、無理しないでね。それから頑張りましょう」

 アンナは、敵地にも関わらず、安心感さえ覚えてしまっていた。でも、ここで籠絡されてはいけない。裏切ったとでもヨハンに思われたら、サラが殺されてしまうのだ。魔女狩りとして、使命を全うしなければ。

「あの。アリス様」

「なあに?」

「私にしたいお願いって、何なのですか」

 アリスの出す条件をクリアし、魔女の弟子を卒業しなければならない。いったいどんな条件なのだろう。人間のいけにえを千人集めてこい。魔術の実験体になれ。様々な恐ろしい想定がアンナの脳をかすめた。

 しかしアリスは少し気恥ずかしそうに言った。

「だち……ほしい……」

「え? アリス様、よく聞こえません。大きな声で言ってください」

 耳打ちしてくる。

「友達が欲しいの」

 意外な答えに、アンナは口をぽかんと開けた。

「私、魔女になってからずっと魔法の研究ばかりして、引きこもってきたのよね。人間さんにも、魔女にも、全然友達はいなかった」

「そのようですね」

 アリスと親しい者の話は聞いたことがない。捕まえた魔女たちの中にも、アリスの人柄について知る者はいなかった。ただ最古かつ最強の魔女と恐れられていただけだ。

「でもね。そろそろ私、魔女になってから千年になるの。記念に、誕生日会をやりたいと思って」

「誕生会?」

 思いもしない言葉が出てきて、アンナは耳を疑った。

「後一か月で、誕生日なのよ。それにね。できれば……いいや。なんでもないわ」

 両手の指をもじもじと合わせている。

「なんですか? 言ってください」

 恥ずかしそうにほおに手を当てた。

「……友達百人呼べたらな、って思って……」

「友達。百人」

 アンナは目を見開いた。すぐには理解が追いつかない。

「招待状も書いたのよ。百通」

 杖を振ると、封筒がパラパラと百通テーブルの上に置かれた。一通一通、手書きの丸文字で丁寧に書かれている。文章も違うし、花や妖精の絵もあちこちに描いてあってかなり凝っている。

「かわいいですね」

「うふふ。十年もかかっちゃった」

 アリスは恥ずかしそうに口元に手を当てる。

「ということは、お願いというのは……?」

「ええ。この通りよ」

 アリスは大真面目に言う。

「一か月後の誕生日パーティーに向けて、百人友達を集めるのに協力して欲しいの」

 さっきの戦いをアンナは思い出した。人間を百人チューリップにして、逃げられた魔女。

「そうしたら、弟子は卒業よ」

「なるほど」

 アンナは考えてしまった。アリスの願いごとは、想定よりもずいぶん平和的で、素朴なものだった。でもそれだけに、余計に難しいように思えた。アリスは、全国で嫌われ、憎まれている始祖の魔女だ。誕生日を祝おうという者はいないだろう。

 しかし同時に、先ほどのやりとりを思い出していた。

 ――本当は……甘えん坊さんでしょう?

 アリスは、言われているほどの悪人なのだろうか?

「それに、この魔法も教えてあげる」

 アリスは続けて。真っ黒い魔導書を取り出した。分厚い紙の隙間から、禍々しい紫の光を放っている。

「それって……」

「私が千年かけて開発した、六六六魔法の六六六……最後の秘術よ。これも、後一か月くらいで完成しそうなの」

 アンナは息を飲んだ。ジャンヌから得られた情報は本当だったのだ。これが、アリスが開発した究極の秘術だ。

「ど、どんな魔法ですか?」

 アンナは魔導書に手を伸ばしたが、アリスが持ち上げると、身長差があって届かない。

「だーめ。今のあなたがこの本を開くのは危険よ。これは魔女しか扱えないの。誕生日パーティーを無事に開けたら、キスしてあげるから、待ちなさいね?」

「わかりました」

「それでよければ、アンナ。私の弟子になってくれる?」

 目標ははっきりした。

 一か月後の誕生日までに百人友達を作り、誕生パーティーを開けば、アリスのキスを受けられる。逆に誕生日パーティが不発に終われば、秘術が完成し、国も滅びてしまう。

 しかし、アリスは始祖の魔女として全国から恐れられ、憎まれている。彼女に友達などできるだろうか?

 そのとき、突然大きな音が鳴った。鐘がどこかで鳴っているかのようだ。それと同時に、あたりがけばけばしい色の光に満ち、点滅する。アリスは慌てた。

「たいへん!」

「どうしたのですか?」

「警報よ。私のウィッチガーデンで……」

「魔女狩りの侵入ですか?」

「子供が転んだみたい! 早く助けてあげないと」

 アリスの訴えにアンナは脱力したが、彼女は真剣そのものだった。

 アリスが手を上に掲げると箒が現れ、その上にまたがった。アンナに手を差し伸べる。

「アンナ。弟子として、一緒に来てくれるわね?」

 アンナは頷いてその手を取る。アリスはすさまじい勢いで飛び上がり、窓から飛び出た。そのまま猛スピードで空を駆け抜け、瞬く間にウィッチガーデンの端まで行った。まともに歩けば、一日はかかる距離だ。

 花々の咲く園の入り口で、五才くらいの小さな女の子が転んでいた。庭に迷い込み、花のつるに足を取られてしまったようだ。

「……いてて」

 彼女は膝を押さえる。擦りむいたようだ。アリスは焦った様子で飛び出る。

「そこのお嬢さん、大丈夫!?」

「お姉さんだれ……?」

「わ、私のことはいいのよ」

 アンナはわざとらしさに不安を覚えたが、それは的中した。アリスは少女の足を見て言う。

「それより大変。人間は脆い生き物だから、傷口から菌が入ったら死んでしまうわ」

「脆い? いや死なないけど……」

「六六六魔法の三、『永続の園(ハナミズキ)』」

 アリスの後ろで魔法の扉が開いた。そこから紫色の光が飛び出す。アンナは目を見張った。少女は転んで擦りむいただけなのだが。

 アリスは杖を振ると、少女の体は光り、血の出た指先に花がぽんっ、と音を立ててついた。

「うわあ、何これ」

 ものすごい光が出て、少女の膝から出た血は止まった。そこに、白い四枚の花弁がついた花がついている。花の真ん中に、ぎろりとした瞳が見えた。少女はおびえる。

「この魔法は、あなたを守るわ……何十年、何百年もの間、ずっとね。転んでも、傷つくことがないように……永遠にね」

 花の中に生えた目が、じろじろと女の子の顔を見つめる。

「ひっ」

 震えている。

「ところで、あなたにちょっとお願いがあるの」

「は、はい?」

「私の家で……誕生日会を開くの。来てくれない?」

 花に出てきた目が、少女をじーっと見つめる。

「た、助けてー!」

 少女は、震えて逃げて行った。

「あら。気を付けて帰るのよ……!」

 アリスはそれを、残念そうに見送っていた。

 手には、招待状を持っている。

「また失敗だわ。招待状を渡したかったのに」

「また?」

「ええ。困った人を助けて、それで友達になろうとしているんだけど」

 アリスはしょんぼりしている。

「なぜか逃げられてしまうのよね。どうしてかしら?」

 悩ましげなアリスを見て、アンナは確信した。先程から薄々感じていたが、今のやりとりではっきりとわかった。

 この魔女に悪意はない。それどころか、かなり筋金入りの世話焼きでお人好しに見える。

 でも、明らかに感覚がずれていて、それを自覚していない。長いこと一人で過ごしていたから、誰にも言われたことがなかったのだろう。

 こういう相手には、はっきり伝えないとわからない。

「どうしてもこうしても、怖がっていたでしょう」

「怖がってた? けがして死ぬことを?」

「いいえ、アリス様の使った、強すぎる魔法のことをです。あんな魔法をかけるようなけがではありませんでしたよ。ちゃんと解いてあげてくださいね」

「ええっと……」

 アリスはしばらくうんうんうなって考えていた。魔法を解くのを渋っている様子はなく、単純に言われたことを飲み込むのに時間がかかっているようだ。アンナはそれをハラハラしながら見守っていたが、アリスはやがてぽんっと手を叩いた。

「わかったわ」

 杖を振ると光が出る。少女の魔法は解けたらしい。アンナは胸を撫で下ろした。

「なんであんな魔法をかけたんですか?」

「だって……」

 人差し指を合わせた。もじもじと言う。

「人間さんって、魔力も少なくて、寿命も短いでしょう? それなのに一生懸命頑張って生きてるのよ……すごく、可愛いじゃない。守ってあげたくなるわ」

 アンナは納得した。これでアリスの考え方はわかった。彼女は、やはり魔女だ。

 強い力を持ち、異なる考えを持つため、人間に恐れられる。

 だから、魔女狩りに狙われる。魔女に育てられたアンナやサラが、蔑まれる。全ての魔女を倒すまで、自分たちが解放されることはないのだ。

「それが原因です」

「それって?」

「アリス様は、無意識のうちに人間を見下しているんです。赤ん坊か、ペットみたいに思っている。だから嫌われて、逃げられるんですよ。友達とは対等なものです。その見下した考えを改めない限り、友達なんかできません」

 アンナは、アリスをびしりと指差した。彼女は、驚いた顔をする。

「アンナ。あなた、弟子なのに、師匠に対してそんなことを言うの?」

 見下ろしてくる。

 アリスから魔力が溢れ出す。

 しまった。言いすぎた。つい、熱くなってしまったのだ。

 相手は、人間とかけ離れた感覚を持つ最強の魔女だ。怒らせたら、殺されてしまう……。

「す、すみません! 出過ぎたことを」

「ずいぶんなことを言ってくれるじゃない。アンナ、あなた……」

 アリスは、両肩に手をかけてきた。

「偉いわね!」

「へ?」

 そして、満面の笑みで頭を撫でてくる。

「教わるだけでなく、自分からも相手に教えようとするなんて……素晴らしい弟子ね!」

 アンナは唖然とした。殺されるのではなかったのか?

「怒ってないのですか?」

「いいことをしたのに怒るわけないでしょう? あなたのおかげで気づいたわ。私が、無意識のうちに人間さんを見下しているなんて……」

 ぐっと拳を握りしめる。

「そんな発想はなかったわ」

「なかったんですか……」

 アンナは呆れた。

 やっぱり彼女は、天然だったのだ。

 アリスは優しく微笑む。

「いいのよ。思ったことを言ってくれて。私だめね」

 テーブルに置かれた、たくさんの招待状を見て、少し寂しそうにした。

「結局、招待客はゼロ人だし。『約束』……守れそうにないわね」

「約束?」

「いいえ。こっちの話よ」

 悲しそうに、座った。アリスは、誰かと何か約束をしていたのか? 唐突に出てきた誕生会の話も、それに関係しているのだろうか? 今、深入りすることはできなさそうだ。

 でも、アンナは思った。

 ついつい怒ってしまったが、アリスはやりすぎだったとはいえ、けがした少女を助けた。悪意があるわけじゃない。ジャンヌのように、害をなすわけでもない。ただ感じ方や考え方が人間と離れているだけだ。

 それに……アリスは、アンナを魔女狩りから助けた。追われているのは演技だったが、アリスは本気で心配して、力を尽くして助けてくれた。

 ――私のそばは、世界で一番安全なんだから。

 敵のはずなのに、抱き止められて、少し暖かい気持ちになったのだ。

 そして、アンナがアリスのローブの裾をつかんだときも、心が安らぐ感覚があった。

 ――ここでは甘えていいんだからね。

 魔女狩りとして戦う中では、感じたことのない気持ちだった。

 あくまで希望的観測で、思い込みに過ぎないのかもしれない。でも、この魔女はもしかしたら、人間と仲良くなれるのではないのか……かすかにだが、そう思えたのだ。

 手を伸ばし、アリスの持つ招待状に触れる。

「招待客、ゼロ人じゃありませんよ」

「え?」

「ここに一人います」

 自分を指差す。

「アンナ? あなた。パーティ、来てくれるの?」

「はい。招待側だから、当たり前ではありますが」

「……あんな厳しいこと言ってたのに」

「だって」

 アリスは人の心がわからず、気付かぬうちに見下していて、会話も成り立たない、とんでもない魔女だ。でも。

「膝枕、気持ちよかったですから……」

 アンナは、ちょっとうつむきながら言った。

 鈴の鳴るような声と、膝の柔らかさ。

 その感覚だけは、本物だったのだ。

「アンナ〜!」

 アリスが抱きついてこようとした。アンナはその腕をするりと抜ける。

「アンナ、つれないわね」

「まだまだこれからですよ。あと九十九人、呼ぶんでしょう?」

「そうね。頑張りましょう!」

 アリスは嬉しそうに招待状をアンナに渡した。

 これは『演技』だ。

 一か月の間、アリスをうまく導いて、百人の友達を招待する。やりとげれば、アリスからキスを受けることができる。

 その隙を利用してアリスを倒せば、アンナとサラは、魔女狩りから解放して自由に生きられる。友達作りも、パーティも、全てアリスを倒すためなのだ。しかし。

 ――本当は、甘えん坊さんでしょう?

 アリスにしてもらった、膝枕と耳かきの感覚が、体中に残っていた。

 アリスは、アンナを追っていた魔女狩りから助けた。そして、ヨハンたちをこらしめた。

 それは確かに、演技だった。

 しかしアンナは十年間、本当に魔女狩りから追い立てられてきたのだ。アンナが魔法を使えなくなった『あのとき』から十年間、ずっと苦しめられ、魔女との不本意な戦いを続けてきたのだ。 

 自分が生き残るために。サラを助けるために。あのときの『約束』を守るために。

 今までのように、魔女が人間にとって有害な存在なら、それでよかった。だまして、倒して、それで終わりだった。

 しかし、アリスは人間と仲良くなりたがっている。アンナのように、何か『大切』な約束を守ろうとしている。

 ――アリスは邪悪な魔女であってほしい。

 潜入前の祈りが、叶えられることはなかった。


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