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第6話

 どこに何があるのかを言語理解だけをアクティブにして確認しつつ通りをうろうろしていると、ジョッキにフォークとソーセージの看板を発見。きっと酒場だろう。


 扉の向こうからは酔っ払い特有のガヤガヤした喧騒が漏れてきているので混んでいるのだろう。


 入ってみよう。


 俺は完全気配遮断もアクティブにして、店の中に入る。


 ドアベルがチリンと鳴ったが、誰も俺に気がつかなかった。酒気と肉の焼ける香ばしい匂いが鼻腔をつく。


 店内を見渡すと、テーブル席に冒険者パーティらしき人たちや町民が何組か。あとは身なりの良い二人組がカウンターに座っている。


 俺は身なりの良い二人組の隣の椅子に腰掛けて聞き耳を立てた。


「いや~今日はあついでんな~」


「ほんまやなあ……、それでルベン議長の娘さんの件どないしまひょか?」


「段取りはあんさんに任せますわ。裏工作はお手のもんでっしゃろ? これで改革派をつぶせると思うと、エールがうまなるっちゅーもんや」


「まいどおおきに。今夜、わい子飼いの盗賊ギルド構成員にやらさせてもらいます。成功報酬の件、よろしくたのんます」


「まかせとき。今日は前祝や。がはは」



 ……。


 いきなり聞いちゃいけない話を聞いてしまった。


 どうする? 逃げるか?

 だがこのまま放置しておくと、どこぞの娘さんが拉致監禁されてしまう。引き続き会話を聞こう。


 俺はカウンターの向こうにあった注文用の紙数枚とペンを拝借し、オーエン市議会保守派筆頭ルベン議長の娘拉致計画の内容を書いた。拉致決行は今夜。この二人の名前も会話の途中ででてきたので、同じく市議会改革派ミゲル議員とヤフコフ議員の陰謀であることも記載。


 この都市はオーエンという名前の都市で、国から身分を認められた貴族と市議会議員の合議制によって統治されていることが会話の内容から明らかに。


 オーエン市が採掘権を有する銀鉱山の開発を近隣の諸都市と共同で行うか否かを巡り、保守派と改革派で争われている状況だということがわかった。


 オーエン、オーエン。確かゲームの中で出てきた話だったような気がする。このストーリーの結末は……と、まずい。ステータスウィンドウのSP表示がそろそろ切れそうだ。


 俺は「オーエン市議会、改革派議員二人による保守派筆頭ルベン議長の娘拉致計画の全貌」と題した告発文をマントの内ポケットに突っ込むと店を出ることにした。



 店を出た俺は、すぐにスキルを解除。立ったままでもSPは回復するので、SP回復につとめつつ告発文をどうするか考える。そうだな、悪だくみを知ったならすることは一つか。


 それから俺は、最初裏路地から抜け出たところにいた町の警備兵のところに行った。


 気配遮断を使って紙だけ手に握らせて終わらせようとも思ったが、ことは娘さんの命に関わることだ。ちゃんとしなければ。


「すみません、兵士さん。ちょっといいですか?」


「ん、なにかね?」


「あのこれ、酒場でたまたまこのオーエン市の改革派議員の二人がルベン議長の娘さんを盗賊ギルド員に今夜拉致させようとしていると聞いた内容を記したものです。しかるべきところに通報しようと思いまして」


 何とかかまずに言えた。挙動不審かもしれないけど、一応俺にもなけなしの正義感くらいはあるらしい。


「それで君は誰なのかね? ……あれ?」


 兵士のおっちゃんが告発文に目をやった隙に、俺は完全気配遮断をアクティベート。その場から退散することにした。


 これでルベン議長の娘さん、助かってくれるといいな。


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