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第47話

 今日は使い果たしてしまったミスリル鉱石を掘ろう。今日はギルドで鍛冶仕事はしない日だけど、流石に昨日あんなことがあったのだ。オリビアさんの手弁当はなしだろう。


 何か適当に露店で飯でも買って岩場に行くかと考えていたら、オリビアさんが健気にもお弁当をもってきてくれた。いい子や……。


「オリビアさん、おはようございます。昨日あんなことがあったのに……。大丈夫なんですか?」

「いえ、実は寝不足で。でもハイドさんのお弁当は意地でも作ると決めてるんです!」

「あまり無理しないでくださいね……、何だったらギルドの方お休みしたら……」

「大丈夫です! お気遣いありがとうございます!」


 明らかに空元気だった。心配だ……。

 オリビアさんは、そう言うとギルドに出勤していった。



 ……何はともあれは稼がないとな。金がないといざというときに戦えない。


 ということで、俺はいつもの岩場に向かった。


 岩場では特にアクシデントはなく、インベントリの限界重量70%まで鉱石を掘ることができた。


 あのクソ豚貴族にミスリル装備は買い叩かれるものの、売らないで自分で使う用のミスリル装備の品質を上げる意味はある。鍛冶を続ければレベルや熟練度も上がるというメリットもある。


 それにDランク以下の装備は通常の値段で売れるので、結構な稼ぎになる。あんなクソ豚貴族なんかには負けず、コツコツ頑張ろう。それがきっとオリビアさんやリリアさんを守ることになるはずだ。



 町に入った俺はまだ時間があるので鉱業ギルドで鍛冶仕事と余った鉱石を売ることにした。今日こそはオリビアさんとデートして、彼女を元気づけよう。


「オリビアさん、そんな冷たいこと言わないでほしいえ!」

「もう、お帰りください……!!」


 ギルドの中に入ると、カウンターで今日もまたクソブタ貴族がオリビアさんとリリアさんにウザ絡みしていた。


「マルグリッド様、お疲れさまですっ!!」

「あ~、見どころのあるミスリル君だえ」


 ミスリル君こと俺は秘技【お疲れ様です割り込み】をして、オリビアさんを救出した。これはこちらがあくまで下手に出て相手に不快感を与えず、相手の注意を自分にそらし、かつ敵対行動をとられないという素晴らしい技術だ。


「今日もマルグリッド様のためにミスリル製品を作りに来ました!! そのお体大丈夫でしたか……? 急に倒れられたので心配しておりましたっ!!」


 どの口が言う? という感じではあるが、これも作戦のうち。格闘家が発勁を打ち込み内臓を破壊するがごとく、敵対組織に取り入って内部崩壊をさせる技術だ。


「よい心がけだえ~。それよりもオリビアさんの態度がツレないね~」


 ちっ……、注意が再びオリビアさんに向いてしまったか……。


 俺はオリビアさんに「昨日みたいに俺が守りますから、大丈夫です! 今日のところは従って下さい……」とコッソリ耳打ちする。


 ミスリル取引という弱みを握られている以上、何されるかわかったもんじゃないからな。下手に機嫌を損ねるのは得策じゃない。


 しかし俺たちの憩いの時間を邪魔しやがって……。ふつふつと怒りが沸いてくる。


 ……だが今は我慢だ。


 その日もオリビアさんとリリアさんは、クソ豚貴族とレストランで夕食に付き合わされるハメになった。


 俺は残念ながらお呼ばれしなかったので、密かに完全気配遮断を使い後をつけ護衛任務に当たった。


 今日は昨日のことがあったからなのか昨日のようなセクハラはなかったが、彼女たちは終始暗い表情をしていた。


 レストランの前で解散となり解放されたオリビアさんの前で完全気配遮断を解除。俺はオリビアさんとリリアさんを家まで送った。


 二人とも表情が優れない。どうにかしなきゃ……。



 ……



 翌日はオリビアさんが非番の日。俺は「こんな時だからこそ無理にでも外に出かけましょう!」と提案していた。


 本当はリリアさんも誘ってフォローしておきたかったけど、今日はギルドで業務があるとのことだった。


 後でオリビアさんと一緒にリリアさんにもお土産を持っていこう。マメも連れて行けば、ちょっとは気分転換になるはずだ。



 さてと。


 今回俺がオリビアさんのために立てた作戦は、「ワンワン・アイランドでオリビアさんを癒そう!」作戦だった。



 きっと犬好きのオリビアさんは喜んでくれるはず。


 今日の行先は通称【ワンワン・アイランド】。ポメラニアン・ウルフの群生地帯になっているマップだ。


 ポメラニアン・ウルフはノンアクティブモンスターであり、こちらが攻撃しないと攻撃してくることはない。


 フィールドボスのEランクモンスター、ポメラニアン・ウォーターウルフもノンアクティブなので、こちらが攻撃しない限り安全という何とも呑気な場所だ。


 彼らに餌を投げると食べてくれたりするので、めちゃくちゃ可愛い。俺がゲームをやっている時は癒しスポットとして人気を博していた場所でもあった。


 【ワンワン・アイランド】にはうちのマメも連れて行くので、愛犬連れてドッグランデートをするみたいなもんかもな。



 ……すると案の定。


「やっぱりうちのマメちゃんが一番かわいいと思うんです! ああ、でもあそこにも可愛いワンちゃんが……私のバカっ! ごめんねマメちゃん! お姉ちゃん浮気したんじゃないからね!」


 オリビアさんはテンション爆上がりで、目を輝かして視線をキョロキョロ動かしていた。


「楽しんで頂けているようで何よりです。あそこに丁度良さそうなベンチがありますよ? ご飯にしましょう」


 俺もその様子に自然と笑顔になる。


 それから二人と一匹はワンワン・アイランドのベンチで昼食をとることにした。


 その日がお肉がたっぷり入ったサンドイッチ。


「元気になるためにはお肉を食べるのが一番なんです!」

 そう言ってオリビアさんはいつもよりも沢山サンドイッチを頬張っていた。

「今日の料理も最高に美味いですよ!」

 俺も本心から料理を褒めると、オリビアさんは嬉しそうだった。



 遠くの方でお昼寝をしているポメラニアン・ウォーターウルフを眺めながら、そういえばマメの進化もそろそろ考えなきゃなあと思い出す。それでもFランクのカード20枚は手痛い出費なので、財布に余裕がないと無理だけど。



 確か俺のゲーム知識だとモンスター【ポメラニアン・ウルフ】の進化先は次のような感じだったと思う。


Fランク:ポメラニアン・ウルフ

Eランク:ポメラニアン・ウォーターウルフ

Dランク:ポメラニアン・ポイズンウルフ

Cランク:ポメラニアン・フレイムウルフ


 ポメラニアン・ウォーターウルフから戦闘に参加でき、水属性魔法を撃ってくれたはずだ。ペットバフも上のランクになればなるほどステータス上昇効果も上がり、属性耐性などのバフもかかったはず。


 だがそもそも最弱のありふれたFランクモンスターが進化したとしても、たかが知れておりCランクまでしかなれない。しかもそのペットバフ効果もお察しというおまけつき。


 確かにポメラニアン・ウルフは弱いかもしれないが、とても可愛い。ペットとして育てるなんて理由としてはそれで充分だろう。




「ん~~~~、太陽が気持ちいい~~~~」


 オリビアさんは日の光を浴びて体の凝りをほぐした。


 今日は久しぶりにのんびりと休暇を過ごすことができ、俺たちはリフレッシュすることができた。


 ……オリビアさんに笑顔も戻ったし、来て良かったな。



 そして、そろそろ日も傾いてきたという時刻。


「私、帰りたくないかも……」

 不意にオリビアさんが弱音を吐く。俺はそれを今度こそ見逃さずに済んだ。


「大丈夫です、オリビアさん。俺が絶対に何とかしてみますから。俺に任せてください!」


 その時俺は自分の胸を拳で叩くジェスチャーをして、彼女を安心させようと必死になっていたんだと思う。


「いつもありがとね、ハイド君。大好き。」


 その想いが伝わったのかどうかはわからないけど、オリビアさんはいつもの笑顔でそう言った。


 マメが鼻をフンフンならしながら前足でカリカリ俺の足を引っかき始めたので、ベンチに座る俺とオリビアさんの間に挟まる。癒しの時間すぎる。


 俺はそんな平和でほのぼのとした時間を過ごす俺たち二人と一匹という存在が無性に愛おしくなって仕方がなかった。絶対に守り抜かねば。



「さて、それじゃあリリアさんにお土産でも買っていきましょうか」

「はいっ。あの娘は甘い物が大好きですから、チョコレートケーキ何かが良いでしょう。甘い物とマメちゃんのダブルの癒しがあれば、きっと大丈夫です!」



 それから俺たちは、レイモンドさんのお店にリリアさんへの差し入れのチョコレートケーキを買いに行った。

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