そういえばオリビアさんとのデート中、いつの間にかオリビアさんに君付けで呼ばれていたなと思い出す。何だか距離が近づいて嬉しいような、むずがゆいような。
あの後俺は少し思うところがあって、リリアさんに差し入れをしオリビアさんを家に送った後、ルベン議長宅に伺った。門番をしていたミランダさんに明日の予定を聞くためだ。
ルベン議長は明日の朝一番の時間なら空いているとのことだった。
翌日。
俺はルベン議長の執務室に通され、さっそくオリビアさんとリリアさん、そしてミスリルのピンハネの件を相談することにした。
前にも行ったが俺は権力者に取り入って楽をするようなズルはあまり好きじゃない。コツコツ頑張って勝ち取りたいという、そもそもの願望が俺の中にあるのだ。
だが、今回の一件はそんなことを言っている場合ではないと思った。
ミスリルをピンハネされることは正直どうでもいい。別の町で取引先を探せばいいだけの話だからだ。
問題はオリビアさんとリリアさんはこの町に根ざした人たちということだ。この町を去れば良いということにはならない。俺は彼女たちのために自分のポリシーを曲げてでも、権力者のルベン議長に頭を下げ助けを請うべきだと判断した。
敵が権力者なら権力者をぶつけてやるのが一番効果的だ。権力を笠に着る輩ほど、権力に弱いと相場は決まっている。
俺の話を聞いたルベン議長はアゴに手をやり「ふむ……」と少し考え。
「ハイド君。君は忘れてないか? あの時改革派議員に君が何をしたのかを。今、件の方は王都滞在中のグリモワール様の代理で市議会に出席しているぞ? それに明日にはグリモワール様も一緒に議会に出席されるご予定だ……」
と、良い感じの紳士に相応しい大人の笑みを浮かべたのだった。
……さて、やることは決まった。
俺は一旦は返却したブツをゲットするため、再び完全気配遮断をアクティベートし例の店へ。
ドキドキするので、あまりこういう場所には来たくはなかったが仕方がない。
まあ今回のターゲットは一人だし、お子ちゃま用5枚とアダルト用5枚もあればこと足りるだろう。それにルージュの口紅もゲット。
ちゃんと代金として大銀貨11枚も置いてきたし、倫理的な問題はさておき商売的な問題はないはずだ。
……これらブツは絶対にオリビアさんに見つかってはいけない。
言わばC-4爆薬よりも危険な特級呪物と言っても過言ではないからだ。インベントリに封印し、終わったらきちんと返却して証拠隠滅せねば。
……さて、作戦の時間だ。俺は冷徹な暗殺者の目になる。
まずはクソ豚貴族の邸宅に完全気配遮断を使って侵入。
いつぞやの時と同じような考えで侵入したが、丁度「あなたいってらっしゃい」と銀髪の美しい奥さんがクソ豚貴族を送り出すところだった。丁度いい。
俺はルージュの口紅でクソ豚貴族のオデコにキスマークを描き、頭にアダルティな方のブツをかぶせる。
「ん? なんだえ?」
なぜ男どもは全員が全員同じ反応をするのだろうか。クソ豚貴族は美人嫁の前でアダルティなブツを両手でびよーんと広げて見せた。
「あなた……?」
俺は、ゴゴゴゴゴゴゴ。という感じの揺らめきを幻視した。うん、これでもう何度目だったかはもう忘れたが、いつ見ても恐ろしいことこの上ない。
このブツを前にすると女は恐ろしい怨霊と化すのだ。
「フン!!」
バチコーン!!
「セバス? グリモワール様に報告を。実家に帰らせていただきますわ!!」
「フローラあああああ、待ってくれえええええ!!! これは違うんだあああああああ!!!!」
泣き叫ぶクソ豚貴族を尻目に、そのままブチ切れた美人嫁は実家の貴族領に帰ってしまった。
クソ豚貴族は涙を浮かべながら紅葉色の頬っぺたを押さえ、ただただ呆然と見送ることしかできなかった。
恐ろしいほどの破壊力だった。
震える気持ちで邸宅を脱出した俺は、ギルドまでオリビアさんの様子を見に行った。
流石にクソ豚貴族も来ないようだったのでオリビアさんとカフェに行き気持ちを落ち着かせることにした。
その中で彼女から気になる話を聞いた。
どうやらオリビアさんのお父上が兵士団で鬼軍曹と呼ばれている人であり、その方のお耳にクソ豚貴族のオリビアさんへのセクハラ疑惑や、妾にしようとしているということを聞いてしまったらしいのだ。
これはオリビアさんの母上から聞いた話とのこと。
おそらく可愛い娘にセクハラされたお父上からすると、その怒りと悲しみは想像を絶するのかもしれない。オリビアさんのお父さんはどうやら鬼軍曹と呼ばれているらしいので、何をしでかすかわからない。
……何か悪い予感がする。変なことになる前に決着させなければ。
そして翌日、俺の作戦は最終段階に入る。
俺はルベン議長の計らいで会議場に侵入することに成功した。そしてクソ豚貴族と伯爵様、ルベン議長が座っているのを目視で確認。
俺は一般傍聴席に座り、時が来るのを待った。