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第4話  答えた代償

画面に並ぶ三つの選択肢を前に、美佳はただ呆然と座り込んでいた。


> A. 代わりに自分を差し出す

B. 誰か別の人間の名前を書く

C. 何もしない(結果を受け入れる)




(なんなのよこれ……)


これが本当に「アンケート」だというのなら、あまりにも異常だ。質問はすでに感情を試すようなものになっていて、もはや統計調査とは呼べなかった。


(選んだら……また、誰かが……)


前回、名前を書いた田代誠は、あの通り死亡した。


──書いたから、死んだ。

──なら、次も?


それとも、書かなくても何かが起こるのか。


答えの出ない思考の渦に飲み込まれそうになったそのとき、スマホが震えた。


LINEの通知だった。

差出人は──母親。


> 【母】

「最近、変な夢を見るの。何かあったの? 元気してる?」


「あんた、小さい頃からすぐ顔に出るから」


「困ってることがあれば言いなさい。いつでも聞くから」




美佳の指が止まる。


(お母さん……)


田代のことを思い出した時のような、身体の奥から湧き上がる“後悔”のような感情が、胸を締めつける。


あの人を憎んでいた。名前を書いたときも、怒りと悔しさでいっぱいだった。でも、まさか本当に──。


今、もし何かを選んだら、次に失われるのは誰か。

「家族」「友人」──それとも、


(誰かを守るために誰かを差し出す……?)


画面の選択肢は、じわじわと彼女を追い詰めていく。

そのとき、ふいにパソコンの画面がピクリと揺れた。


選択肢の下に、新たな文字列が追加されていた。





> ※重要なお知らせ:


■あなたのご回答に関連する事象は、すでに始まっています。


■以下の人物の状況が進行中です:

三枝静江さえぐさしずえ(62)」


■対応には猶予がありません。回答は【12分以内】に送信してください。







「お母さん……!」


画面の名前を見た瞬間、美佳は息をのんだ。

身体が凍りつくような冷たさに包まれた。


(……まさか)


まさか、本当に“選ばれた”のか。

まさか、今これが現実として進行しているのか。


選択肢は変わらない。

ただ時間だけが、上からカウントダウンのように赤字で減っていく。


11分23秒。


母を守るには、「A」を選ぶ──自分が代わりになる。

でも、本当にそれで済むのか?

本当に“それだけ”で許されるのか?


(……選ばなきゃ、間に合わない)


美佳は震える手でマウスを動かし、「A. 代わりに自分を差し出す」の文字にカーソルを合わせた。


カチッ。


その瞬間、画面が暗転した。


そして数秒後、音もなく新たな画面が表示された。





> ■回答を受理しました。


ご協力、誠にありがとうございました。


状況は正常に「代替処理」へと移行されました。

今後の変化にご注意ください。







「……これで……いいの……?」


目の前の画面はもう何も語らない。

ただ、完了の合図のように静かに光っていた。


それから数日、美佳の身には何の変化も起きなかった。


母からはあの日のLINE以降、連絡がこなかったが──

こちらから連絡すれば、いつもどおり「元気よ」と答えてくれた。


(……良かった)


そう思っていた。


だが、一週間後。


美佳の部屋のポストに、再び白い封筒が届いた。


差出人は、やはり「LAPIS DATA」。


封を開けると、中には前回と同じように手紙と──

今度は“黒いカードキー”が一枚、封入されていた。




> あなたの「誠意ある選択」、確かに受け取りました。


その覚悟に感謝し、あなたを“次の段階”に案内します。


準備が整い次第、カードキーをお持ちの上、【第零区域】へお越しください。







「……次の、段階?」


美佳の人生は、もう戻れなかった。




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