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第9話  静かなる召集

同窓会の会場は、かつて学び舎だった私立藍都学苑の記念ホールだった。

 連絡メールには《当日、学園都市内にある旧藍都学苑本部棟へお越しください》とだけ書かれていた。

 誰が主催しているのか、どこから名簿が流れたのか、その説明はなかった。けれど、美佳には直感的にわかった。


 ──これも、あのアンケートの続きだ。


 朝倉純の表情も曇っていた。

 七海彩音は何も言わず、スマホの画面を見つめていたが、しばらくして一言だけつぶやいた。


「……あたし、行くよ。確認しないと、もう何が嘘で本当か、わかんないから」


 彼女の声は震えていた。

 彩音もまた“何か”を失っていた。それは記憶なのか、関係性なのか。答えはわからない。ただ、全員に共通するのは、あのアンケートに最後まで答えたということだけだった。




 当日。

 都市の外れにある旧校舎跡にたどり着いた美佳たちは、意外な人影に気づく。


「宮下……ユリ?」


 そこにいたのは、同じクラスでほとんど話したことのなかった女子だった。

 けれどその瞳は、美佳を見て、はっきりと言った。


「三枝美佳。ようやく、来てくれたんだね。ここはただの“同窓会”じゃない。LAPISの観測地点でもある」


「え……?」


 言葉の意味が、理解できなかった。


「私たちはもう選ばれてるの。“答えた人間”という枠で。あの日、アンケートに“最終項目まで”答えた時点で、あなたも、私も、もう……」


 その瞬間、学園ホールの天井がわずかに軋んだような音を立てた。

 まるで巨大な装置が起動する前触れのように。

 どこか遠くで、サイレンのような音も聴こえた気がした。


「──LAPISは、都市ごと再編するつもりなの」


 ユリの言葉に、背筋が冷たくなる。

 冗談ではなかった。視線の先には、かつて教師たちが使っていた事務棟がある。そこがLAPISの本部になっていることを、誰もが直感で察していた。




「……あんた、本当に“味方”なんだよな?」

 純がユリに問いかけた。


 ユリはうっすらと笑っただけだった。


「正義とか悪とか、そんな単純な話じゃないよ。選んだのは──あの時、あなたたち自身でしょ?」




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