同窓会の会場は、かつて学び舎だった私立藍都学苑の記念ホールだった。
連絡メールには《当日、学園都市内にある旧藍都学苑本部棟へお越しください》とだけ書かれていた。
誰が主催しているのか、どこから名簿が流れたのか、その説明はなかった。けれど、美佳には直感的にわかった。
──これも、あのアンケートの続きだ。
朝倉純の表情も曇っていた。
七海彩音は何も言わず、スマホの画面を見つめていたが、しばらくして一言だけつぶやいた。
「……あたし、行くよ。確認しないと、もう何が嘘で本当か、わかんないから」
彼女の声は震えていた。
彩音もまた“何か”を失っていた。それは記憶なのか、関係性なのか。答えはわからない。ただ、全員に共通するのは、あのアンケートに最後まで答えたということだけだった。
当日。
都市の外れにある旧校舎跡にたどり着いた美佳たちは、意外な人影に気づく。
「宮下……ユリ?」
そこにいたのは、同じクラスでほとんど話したことのなかった女子だった。
けれどその瞳は、美佳を見て、はっきりと言った。
「三枝美佳。ようやく、来てくれたんだね。ここはただの“同窓会”じゃない。LAPISの観測地点でもある」
「え……?」
言葉の意味が、理解できなかった。
「私たちはもう選ばれてるの。“答えた人間”という枠で。あの日、アンケートに“最終項目まで”答えた時点で、あなたも、私も、もう……」
その瞬間、学園ホールの天井がわずかに軋んだような音を立てた。
まるで巨大な装置が起動する前触れのように。
どこか遠くで、サイレンのような音も聴こえた気がした。
「──LAPISは、都市ごと再編するつもりなの」
ユリの言葉に、背筋が冷たくなる。
冗談ではなかった。視線の先には、かつて教師たちが使っていた事務棟がある。そこがLAPISの本部になっていることを、誰もが直感で察していた。
「……あんた、本当に“味方”なんだよな?」
純がユリに問いかけた。
ユリはうっすらと笑っただけだった。
「正義とか悪とか、そんな単純な話じゃないよ。選んだのは──あの時、あなたたち自身でしょ?」