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第17話  選択の間

霞を抜けた先には、巨大なホールのような空間が広がっていた。天井は見えないほど高く、壁面には無数の光の帯が走っている。中心には黒い円卓があり、その上に浮かんでいたのは、白い球体のような端末だった。


「ここが“選択の間”。LAPISの再構築アルゴリズムを起動する中枢よ」


 ミオが説明する。


「この場所では、ひとつだけ──“問い”を選ぶことができるの。それによって、世界のあり方が変わる」


「問い……?」


 美佳は戸惑ったまま、黒い円卓に近づいた。球体がゆっくりと回転を始め、淡い音が響く。


『この世界に、必要なものは何ですか?』


 音声が問いかけると同時に、空中にいくつかの選択肢が現れた。




1.「秩序」


2.「自由」


3.「記憶」


4.「無知」


5.「誰かを救いたい」


6.「すべてを壊したい」






 美佳は、息を飲んだ。


 それは、単なるアンケートではなかった。これは「世界の初期値」を決める問いなのだ。


「ねぇ……選べって言うの?」


「そう。選ばなければ、LAPISはエラーを起こして、再構築に失敗する。つまり、すべてが無に還る」


「でも、どれも選びたくない。私にそんなこと、決められるわけない」


 ミオが静かに言った。


「なら、LAPISは代わりに“最後の回答者”の意思を参照する。それが、あなたのこれまでの選択──答えたアンケートの“傾向”」


 美佳は膝をついた。


 選んだつもりはなかった。いい加減に、惰性で、ろくに読まずにクリックしてきただけだった。


 けれど、その積み重ねが──いま、この場所に導いたのだ。


「答える、って……責任なんだね……」


 呟いた美佳に、ミオは優しく微笑んだ。


「そう。でも、まだ選択できる。いまなら“自分の意志”で」


 光の選択肢が再び浮かび上がる。


 選べ。

 何を望むのか。

 何を望んでしまったのか。


 美佳は、静かに手を伸ばした。


 彼女が選んだのは──




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