霞を抜けた先には、巨大なホールのような空間が広がっていた。天井は見えないほど高く、壁面には無数の光の帯が走っている。中心には黒い円卓があり、その上に浮かんでいたのは、白い球体のような端末だった。
「ここが“選択の間”。LAPISの再構築アルゴリズムを起動する中枢よ」
ミオが説明する。
「この場所では、ひとつだけ──“問い”を選ぶことができるの。それによって、世界のあり方が変わる」
「問い……?」
美佳は戸惑ったまま、黒い円卓に近づいた。球体がゆっくりと回転を始め、淡い音が響く。
『この世界に、必要なものは何ですか?』
音声が問いかけると同時に、空中にいくつかの選択肢が現れた。
1.「秩序」
2.「自由」
3.「記憶」
4.「無知」
5.「誰かを救いたい」
6.「すべてを壊したい」
美佳は、息を飲んだ。
それは、単なるアンケートではなかった。これは「世界の初期値」を決める問いなのだ。
「ねぇ……選べって言うの?」
「そう。選ばなければ、LAPISはエラーを起こして、再構築に失敗する。つまり、すべてが無に還る」
「でも、どれも選びたくない。私にそんなこと、決められるわけない」
ミオが静かに言った。
「なら、LAPISは代わりに“最後の回答者”の意思を参照する。それが、あなたのこれまでの選択──答えたアンケートの“傾向”」
美佳は膝をついた。
選んだつもりはなかった。いい加減に、惰性で、ろくに読まずにクリックしてきただけだった。
けれど、その積み重ねが──いま、この場所に導いたのだ。
「答える、って……責任なんだね……」
呟いた美佳に、ミオは優しく微笑んだ。
「そう。でも、まだ選択できる。いまなら“自分の意志”で」
光の選択肢が再び浮かび上がる。
選べ。
何を望むのか。
何を望んでしまったのか。
美佳は、静かに手を伸ばした。
彼女が選んだのは──