とある小さな本屋。
イジュミはそこにいる。
一応、店の主である。
普通の本屋であり、
何が変わっているわけでもない。
ただ、いろんなことが変わっていっているのを、
イジュミは本から感じる。
質素倹約から、散財へ。
世の中が変わってきているのを感じる。
何があったのか、
イジュミはよくわからない。
でも、奇妙な戦隊物の絵本が、
入荷してはなくなるのを見ていると、
それが人気あるからなのだろうかと感じる。
「散財戦士サンザイン」
大人気らしい。
残り一冊だ。
「あ、あった!」
少女が残り一冊を手に取り、
サンザインの絵本はまた、完売した。
質素倹約は確かに美徳だったかもしれない。
かといって、散財が美徳か悪徳かであると、
判断するには、まだ、材料がそろっていない。
イジュミはそんなことを思う。
ただ、そう。
サンザインは、子供の笑顔を守っている。
それだけは強く感じる。
子供達の明日を、懐を守るために散財している。
だからサンザインの絵本は、
入荷するたびに売れるのだと思う。
イジュミは、サンザインの絵本を見たことがある。
未熟なヒーローだと感じた。
でも、精一杯できることをしているヒーローだと感じた。
そこがサンザインの人気の理由なのかもしれないし、
少なくとも悪いことをしているようには感じなかった。
大人になりきってしまったら、
散財ができなくなる。
サンザインは「子供」のヒーローなのかもしれないと思う。
だから、大人がサンザインを持ち上げるのは、
ちょっと滑稽にうつる。
世のために散財をしましょうとか、世の中が言い出すと、
なんだかおかしいなぁと、イジュミは思う。
また、サンザインの絵本を入荷しなくちゃなと思う。
ブームなのかもしれないし、
入荷すれば売れることは売れるだろう。
散財をよしとする風潮が出来上がってきている。
イジュミは、それだけでなく、
しばらくサンザインに付き合ってみようと思った。
サンザインの物語はどうやって終わるのか。
子供達に何を与えるのか。
「サンザインの絵本・入荷待ちです」
イジュミはそうポップに書いた。
イジュミも待っている。
子供っぽいこのヒーローが、
本当のヒーローになることを、
イジュミは待っている。