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第六回議題「お手洗い漫才というかお手上」

第六回議題「お手洗い漫才というかお手上げ万歳-①」

「今日は漫才まんざいをしましょう」


「びっくりした。どうしたの。今日の四十内あいうちさんは寝耳に水どころか、棒突っ込まれたくらい突拍子ないよ」


 今日はお呼びがかからないな、なんて思っていた。まさか直後に『緩利ゆるり沙咲ささきさん。至急、放送室までお越しください』なんて呼び出しを掛けられるとは。


「それよ。緩利さんの変なツッコミが癖になるの。もっと聞きたいわ」

「変なツッコミ……」


 ごもっともではあるが、少々文学に傾倒していて読書三到どくしょさんとうがあるだけだ。文語を口語として用いがちなくらいで、変とは何事だろう。


「言葉を返すようだけど、四十内さんも大概だからね?」


「フッ、承知しているわ」


 だからなぜにしたり顔? 度々こういう話題で自信に満ち溢れた風なのがわからない。


「だからこそ、よ。私に釣り合いとれるのは緩利さん、あなたくらいのもの」


「……理屈はわかったけどさ、理由のほうがわからないよ。まさか、お笑い番組にでも感化された?」


 どうも四十内さん、ミーハーなところがある。きっと障害物のあるフィールドアスレチックを観た後は、一人筋トレに励むだろう。格闘技を観た後は気が大きくなるだろう。


 そういう人だから。


「毎年、学校が新入生に向けたレクリエーションを行っているのは知っているわね?」


「あぁ、あるね。部活動紹介なんかをステージでやるアレ」


 書道パフォーマンスとか、軽音部のライブとか。室内でやるだけあって運動部はできることが限られ、サッカー部ならばリフティングくらいだろうか。あとは、野球部あたりが流行りのネタをコピーしたり──。


 かすかに……今、少し線になりかけた。点と点に、胡乱うろんな点が加わって妙な点線になった。一本の直線と言うにはかなり歪だ。


 ぼんやりと背景としてのみ捉えていた録音機材と、放送室でもあまり似つかわしくないにピントが合っていく。


「まさかとは思うけど」


「察しがいいわね。そのまさかよ」


 その反応で、皆まで言わなくともわかる。出し物をするんだろう。自称おもしろ教師のやるような、愛想笑いが関の山である"お笑い"を。


「……ん? でもさ、新入生云々うんぬんってだいぶ先の話じゃない?」


 新入生歓迎会の見るも無惨、聞くも悲惨なな有様。それを鮮明に思い出せたのは、記憶に新しい今年度の惨状を見ていたからだ。


「来年度に向けた予行練習よ。昨日、テレビで往年の漫才ブームを取り上げていたの。観た瞬間にキーンと来たわ」

「せめてピーンと来てよ……」


 何がキーンと来てるんだ。飛行機でも突っ込んできたのか。冷え冷えする思いで頭がキーンと痛んでくる。


「コンビ名はヒョータンソーアイよ」


「ひょうたん?」


 瓢箪相愛? 瓢箪と何が愛し合っているんだろう。駒だろうか?


「意味は対照的な二つが作用し合うことよ。漢字だと固すぎるし、ひらがなだと少し柔らかすぎるからカタカナで」


 瓢箪の相手はどの駒だろう。王手は逃げるか積みだから、瓢箪とは向き合わないだろうな。などと思考を遊ばせていると、四十内さんがそう教えてくれた。


 ヒョータンソーアイ。絶妙に売れなそうなコンビ名だ。愛称はヒョータンだろうか。


「ネタはこちらに。軽く読んで後はセンスでお願い」


 内輪うちわじゃセンスもないだろうに。


 そんな思いを胸に、手作り感満載のホチキス留めされた薄い冊子をめくる。

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