抱きあげていた
「――ノア、ブラン」
『はいっマスター!』
『お呼びですか?』
愛らしく元気な白と黒の仔猫がポンっと宙に現れ、その姿にほっとしたのか唯舞の指がシャツからほどけた。
それを見たアヤセが静かに使い魔達に命令を下す。
「こいつを守れ」
元気な返事と共に使い魔達は唯舞の元に向かい、いつものように擦りついて潜り込むようにして両肩に乗った。
エドヴァルトが危惧していた状況になってしまったが致し方あるまい、とアヤセは気持ちを切り替える。
髪色を変えた本当の理由は、唯舞の存在をリドミンゲル皇国の目から秘匿する事であり、万が一見つかっても誤認させるためだった。
かの国が今まで召喚されたという異界人は唯舞を含めても5人。
約90年の間で5人ということはおおよそ18年に一度召喚されているという計算になる。
召喚頻度の多さは分からないが、等間隔に召喚しているのならば恐らく喚びこむには何かしらの制約があるのだろうと推測はできた。もしくは、現聖女がいる限り次世代聖女を召喚できない、という可能性もある。
18年という時間は、人の人生ならば決して長すぎるというわけではない。
唯舞は現在22歳。ならば18年経った40歳で次の異界人が召喚される可能性があるということだ。
健康体の40歳ならば早々死ぬことはないだろうが、今までの聖女は全員
(…………ろくでもない)
どんな理由があるにしろリドミンゲル皇国がきな臭いことには変わりないし、エドヴァルトのあの過保護っぷりを考えればアヤセの予想がそう外れているとも思えなかった。
己らの戦争に他世界の人間を巻き込み、もしもその命を不当に刈り取っているというのならば容赦など必要ないだろう。
唯舞に被せた己のコートをもう一度深く被らせてからアヤセは数歩前に足を踏み出す。
確かに唯舞は
だが、それでも唯舞は
彼女が抜ければせっかく回り始めた事務作業に穴があく。同職でもあるリアムだって嘆くだろう。
そして何より、思いのほかアヤセは唯舞に対してマイナスの感情は持っていない。
――ならば、やることはただ一つ。
「さっさと出てこい。お前達は時間を無駄にする主義か?」
アヤセがそう鬱蒼と木々が生える方角に向かって投げ捨てるように声を掛ければ、音もなくそれらは姿を現した。
数は五人。純白に金糸をあしらった布で目元以外の全てを隠した特有のいで立ち。
間違いようもない、リドミンゲル皇国の精鋭部隊だ。
どうやらザールムガンド帝国だけではなく、レヂ公国にまで、いや恐らく全世界に精鋭部隊を派遣しているのだろう。
全く手の込んだ探しようである。
「……アルプトラオム、アヤセ・シュバイツ中佐ですね?」
「あいにく人に尋ねる前に名乗らぬ人間に答える必要性は感じない」
リーダーと思われし男が一歩歩み出てアヤセに問うが、それを一蹴する。
声やまなざしを見るにまだ若い男のようだが、それでも部隊1つ預かれるだけの実力はあると判断すべきだろう。
優しげな声が、殊更丁寧に言の葉を紡いだ。
「では、率直に。そちらにおわすのは我がリドミンゲル皇国の聖女様であらせられますでしょう。早急にお渡しいただけませんか?」
「知らんな。何を勘違いしてるか知らんが、あれはうちの人間だ」
「おや、もしやかの御方が異界人の聖女様だとお気づきではないのでしょうか?」
優男の声色に嘲笑の色が乗った。
アヤセはいつもの三倍は眉を顰めて、左手に
「くどい。何度も言わせるな、ここに聖女とやらはいない」
アヤセが展開した氷陣が彼の足元から唯舞の元まで広がり、明らかに戦力過多にも思えるほどの氷剣が何列にも渡ってリドミンゲル皇国の精鋭部隊に向く。
「最終通告だ。ここに聖女はいない。とっとと国に帰る事だな」
「……えぇ、勿論帰らせていただきます。――そちらの聖女様と一緒に」
見えない口元がにぃと歪んだのが分かった。獲物を見つけた蛇が大きく口を開くように。
アヤセが並んだ氷剣から手近なひとつを手にすれば冷たいグリップはすぐに手中に馴染む。
相手は五人、世界中に精鋭をバラまく位だから人数に余裕があるわけでも増援があるわけでもないだろう。
一方の自分は一人で、なんなら戦えない女を守りながらの戦闘だ。
だが、不思議と負ける気はしなかった。今日の
(――蹴散らす)
天空に並んだ氷剣が神速の速さで解き放たれると同時に、アヤセとリーダー格の男の