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第48話 彼女の残した真実(2)


 理力リイスの代わり、と残した深紅みくのメールを唯舞いぶは読み進める。



 《この世界は|理力《リイス》っていう星の生命力で生きてる世界なの。最初は電気みたいに便利なものかなって思ってたんだけど、つい最近になって理力リイスを使い過ぎると星が弱って死んじゃうってことが分かったみたい》


 《少し前の戦争じゃ、捕虜とか犯罪者に精霊契約なしの|理力《リイス》行使を強要してかなり無茶な理力リイスの乱用をしてたから、気付いた時には世界は理力リイス不足になって災害とか飢饉とか、とにかく人が住めない環境に変わっていったらしいの》


 《その時の妥協策としてリドミンゲル皇国が目を付けたのが、異界に住むと言われる|生《・》理力リイスを持っているという異界人――私達だったってわけ》


 (でも……私は、理力リイスなんて持ってないのに?)



 唯舞の疑問を分かったように深紅のメッセージは続く。



 《そう。でも私達に|理力《リイス》なんてものはなくて。実際、初めて召喚されたサチさんも理力リイスを持ってなくて当時は凄くがっかりされたみたい。でも、それから時間をかけて少しずつ国が豊かになったの》



 唯舞はスマホ片手に膝に置いていた本の最初のページをめくった。

 ローマ字で並んだ四つの名前の一番下を確認し、間違いないと確信する。

 ここに書かれているのは全て、今までこの世界に召喚された日本人の名前なのだ。



 《私の時もそうだった。豊穣の聖女様、なんて呼ばれてね。でも国が豊かになるにつれて私の体調も悪くなって……体を治す為に聖女の塔って所に幽閉されだした時にはさすがの私も何か変だぞって気付いたよ。そしたらね、教えられたの。この国は私達を聖女と敬っているようでいて、実際は星を守るという大義名分で異界から喚んだ聖女の生命力を|理力《リイス》の代わりに使って繁栄してるんだよって》



 そこまで読んで、深紅の最初の警告に合点がいった。リドミンゲル皇国が何故こうまでして唯舞を探しているのかも。

 いないと困るのだ。星の理力リイスを守るには、他から代替を探すしかないのだから。


 そんな異界人はまるで世界に差しだされる生贄で、国家繁栄を願って捧げられる、人柱のようだ。

 そして今回のその役目が自分だったのだと唯舞は静かに悟る。



 《私にそれを教えてくれたのは、最近こっそり仲良くなった……友達、かな。ザールムガンドってとこの軍人なんだけど潜入調査してるんだって。私がいる聖女の塔にも毎日監視をかいくぐって来るんだけど、2歳年上なだけでほんとすごいの》



 「……ぇ?」



 思わずこぼれた唯舞の声にアヤセがぴくりと反応を示す。

 ザールムガンドの軍人で、過去の異界人聖女みくに接触した事がある人物の名を、唯舞は先ほどレヂ公国大公アーサーから直接聞いたばかりなのだ。



 《なんで他国の人がそんなこと知ってるの?って聞いたら、そいつは元々この国出身みたいで、お母さんが異界人関係の事を色々と調べてたみたい。そんでこの事実に辿りついてザールムガンドに亡命したんだって》



 そう言われてしまえば唯舞も今までの全てが腑に落ちるような気持ちだった。


 どうしてが、見知らぬ唯舞に対して全力で保護を申し出てくれていたのか。

 どうしてが、見知らぬ唯舞に対して過保護ともいえる態度を取っていたのか。


 知っていたのだ、は。出会った時から全てを。

 唯舞が召喚された意味も、今後どうなるのかも。



 《今は一緒にいる他の二人とバカっぽい喧嘩してるけど……でもね、逃げようって言ってくれたの、ザールムガンドに。俺らがさらってあげるって。……変だよね。まだ出会って一カ月も経ってないのに、まるで白馬の王子様みたいなこと言っちゃってさ》



 文面越しに、深紅が泣いてるような気がして苦しくなる。

 残り少なくなったメッセージの最後はこう締めくくられていた。


 《ほんとばかみたい、そんな柄じゃないくせに。……でもね、すごく嬉しかった》


 《ねぇ、今は何年かな? 私は今、みんなと生きられてる? ……私もね、本当はずっとみんなと一緒にいたかったの》


 ――エドのそばに、ずっといたかったんだよ――



 動かなくなったスクロールに、ぽたりぽたりと涙が落ちる。

 苦しくて、痛くて、切なくて。

 震える手にまた涙が零れ落ちた。


 どうしてたった18歳の女の子がこんな目に遭ったんだろう。

 どうしてたった一人の女の子の願いさえも叶わなかったんだろう。


 自分で施した唯舞の髪の色変えに、無意識に彼女を重ねてしまうくらい、彼らの想いは許されなかったのだろうか。


 乱雑に涙を拭った唯舞は、ホーム画面に残された写真フォルダを開いて思わず顔をくしゃりと歪める。

 そこに並んでいたのは、今よりだいぶ幼くて、あどけない――



 「……大、佐」



 13年前の、エドヴァルトと深紅の楽しそうなツーショット姿だった。


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