12月24日、地球で言えばクリスマスイブである。
11月初頭にこの世界に転移した唯舞は、その日、初めてアルプトラオム全員と対面した。
一番役職の高い大佐のエドヴァルトを筆頭に中佐のアヤセ、少佐のカイリ。
大尉であるオーウェンに管理官のランドルフとリアム。
今まで六人だったアルプトラオムは今、紅一点の唯舞が補佐官として就いて総勢七名である。
ある意味、誰よりも女性らしいカイリの存在が唯舞の紅一点を疑問視しなくもないが、性別的にはまぁ紅一点で間違いないだろう。
いつもは四人で過ごしていた広々としたホールもラウンジも、今日たった三人増えただけでなんとなく手狭に感じて不思議なものである。
「はいはい、みんなイブちゃんに挨拶はすんだわね? じゃ、本題よ。……明日が何の日か、みんな分かってるわね?」
ニッとカイリが悪戯げに口角を上げればアヤセが大きくため息をついて額を抑えた。
何の事だろうと唯舞が首を傾げれば、やだかわいいと再度横からカイリにぎゅっと抱きつかれ、それを見たアヤセの眉がぴくりと寄る。
「あら、イブちゃんは知らなかったかしら? 明日はあーちゃんの……アヤセの誕生日なの。12月25日は停戦日初日。だから可愛いあの子のお誕生日はアルプトラオム全員で毎年お祝いしてるのよ、勿論主役が逃げたら地の果てまで追いかけてやるわ」
「……やらなくていいと何度も言っている。というか、そいつから手を放せ」
「えぇ? もしかしてイブちゃん……いや?」
しょぼんと眉を下げたカイリに唯舞は全力でふるふると頭を振った。
物腰が柔らかく中性的な彼は、どことなくミーアに似ており、どちらかと言ったら頼れるお姉さんである。
立派な成人男性という事は情報としては理解しているのだが、唯舞に触れてくるその腕は男性とは思えないくらいに優しく、会ったばかりの唯舞の警戒心をゼロにさせてしまうほどに人懐っこい彼の魅力は計り知れない。
そんなほわほわとした唯舞の様子にアヤセの眉にさらに皺が寄った。
唯舞とカイリがいちゃつくという目の前の光景がとてつもなく不快で不愉快なのだが、その理由が分からずに何も言えなくなる。
「そっか。じゃあ中佐とは一日違いなんだ……」
「ん? なにが?」
アヤセとは対照的に満足げなカイリが唯舞の呟きを拾い上げれば、今日の天気を話すくらいのあっさりとした口調で唯舞は何気なしに答えた。
「あ、私の誕生日、今日なんです」
「「…………は?」」
エドヴァルトとカイリの声が重なり、男一同が唯舞に目線を向けたまま凍り付く。
それを見た唯舞本人は不思議そうな、きょとんとした顔でカイリの腕の中で小首を傾げ、一番最初に呪縛が解けたエドヴァルトが声を荒げるように叫んだ。
「ま……待って待って待って待って! 唯舞ちゃん、今日!? 今日が誕生日なの!?」
「? はい、あ……えと、23になりました」
「おめでとう! って違うわそうじゃない! アンタ達、なんで誰もイブちゃんの誕生日を把握してないの!?」
「えぇぇぇ、僕も初耳ですー……」
「おい、エド。嬢ちゃんの受け入れ処理したのお前じゃねーのか? なんで知らねぇんだ」
「嘘、俺?! 確かに手続きしたのは俺だけど最終確認はアヤちゃんも一緒だったよね?! アヤちゃん、ねぇ知ってた?!」
「…………」
「へぇ中佐が固まってる……珍しい」
「そんな奴を今気にしてる時間はないわランディ! これはアルプトラオム全員の失態よ!」
そんな大げさな……と唯舞は苦笑したのだが当の彼らは本気で、なぜここで軍人の本領を発揮するのかと言わんばかりにそこから先の指示行動は異様に早かった。
「エド、ランディ! アンタらは飲食関係の手配、設営はオーウェンね! リアム、そこに突っ立ってる役に立たなそうな
「カイ兄さんは?」
「ちょっと待って! ……もしもしミーア!? ねぇちょっと聞いて、うちの馬鹿どもったら今日がイブちゃんの誕生日って誰も知らなかったの! ……という訳でイブちゃんいつものとこ連れて行くからアンタも来なさい! えぇ、正門ね、それじゃ! ……聞いてたわね! 私達は夜まで戻らないからそれまでに何とかしなさい、絶対よ! イブちゃん、お出かけするわよ! ひとまず荷物を置いてらっしゃい!」
「へ? えぇぇぇぇ?」
強引ではないけど、明確な意思を持ってカイリに背中を押された唯舞は二階の自室に戻り、よく分からないまま購入品を片付ける。
そしてそのままカイリに手を繋がれたまま、半ば拉致されるように宿舎を後にすることになるのだ。