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第2話

「あいか、牽制頼む!」叫んだ進也は駆け出した。

「あいよ!」かわいくも威勢のいい返答の一瞬後、火球がいくつも飛ぶ。進也の進行方向、迫るゴーレムの四本腕の二本に激突。腕の勢いが減じて、進也はゆうゆうとそれらを回避した。

 魔力暴走が近かった柚季の処置を終えて、三人は、ダンジョン最奥部の一室へと入った。すると地鳴りがして、壁からゴーレムが出現し、戦闘が始まっていた。

 ゴーレムの腕の、二本がなおも迫る。進也はガントレットで覆った左手を振るった。

 ガギン。鈍い音がしたが、ダメージはもらわなかった。ゴーレムの左パンチの軌道を変えた形だった。

 残った右が、唸りを上げて降ってくる。前に跳んで前転。すんでのところで回避し、ゴーレムの股をくぐり抜ける。

 素早く振り向くと同時に、右拳を振るった。左スネの裏にぶち当たり、ゴーレムはぐらりと進也側にバランスを崩す。

 すかさず右アッパーを振り抜いた。背中にヒットし、ゴーレムの身体はふわりと浮いた。するとバシビシッ。ゴーレムの腹側から衝突音がした。視認はできないが、音から判断するに柚季が二本のブーメランを命中させたのだろう。

(ここだ!)進也は全力のストレート。こちらに倒れてきていたゴーレムの背面に、クリーンヒットする。

 ズゥゥン! 地響きのような轟音がして、ゴーレムは崩れ落ちた。

「橘さん、グッジョブ! 助かったよ!」叫びながら進也は、ゴーレムを注視し続ける。慣性でわずかに動いていたが、やがて完全に動きを止めた。

 すると柚季が、そろそろとゴーレムに近づき始めた。まだ警戒している様子で、形の良い眉をわずかにひそめている。

 カタリ。不自然な物音がゴーレムから聞こえた。進也は背筋がゾッとする。

 ゴーレムが立った。信じられないぐらいすばやい挙動だ。機能停止が迫って、リミッターが外れでもしたのだろうか。

 両腕を頭上で組んだ。すぐさま振り下ろす。直下には柚季の頭。

 進也は駆けた。右手で柚季を突き飛ばす。

 柚季は転んだ。しかし、危険領域から逃れた。

すぐに進也は、左手を頭上にかざした。

 ゴギガン! ただならぬ音が自分の左腕と頭蓋から響いた。すぐに激痛が来る。気が変になりそうな痛みだった。

(がっ!)進也は耐えきれず。地に膝を突いた。あまりのダメージに立ち上がれず、身体を地面に投げ出す。地面からの特大の反発力を受けた両足も、骨が折れたとしか思えない違和感があった。

 進也が苦しんでいると、頭上でドガバシ! ドオゥンンン! と何回か音がした。直後にゴトッと音がして、視界の端にゴーレムの左手が入る。

 両脇と膝裏に何かが触れた。人の腕の感触だった。次に進也は、自分の身体が浮き上がる感覚を得る。あいかと柚季が、協力して自分を運んでいるようだ。

 運ばれた進也は、十歩ほど離れた場所で下ろされた。視線の先では泣き顔のあいかが、グスグス言いながらカバンからビンの容器を取り出していた。

 あいかはフタを開き、中の液体を振りかけてきた。緑色の光の流れが、進也の身体に降り注ぐ。

 だんだんと腕、頭、両足の痛みが引いていき、身体に力が戻った。

回復した進也は、立ち上がった。視線の先には、バラバラになったゴーレムがいる。進也が殴打された直後のあいかたちの連撃で、完全に崩壊した様子である。

(何とか勝てたか。しかし、危なかったな)ほっとした進也は、顔を仲間のほうに向けた。

 ぎゅっと、誰かが右手を握ってきた。あいかだった。

「ぐすっ……。よかったぁ、無事だったぁ」とあいかは心底、安心した様子だった。よほど心配だったのだろう、大きな両目は涙でいっぱいで、鼻を何度もすすっている。

 安佐北あいかは十六才。進也や柚季の一つ下で、身体は小さく華奢である。栗色の髪はセミロングの長さで、ゆるくふわふわと小さな顔の周囲に広がっている。愛らしい目は人懐っこい印象で、全体的に小動物感がある女の子だった。

「本当にごめんなさい。私が油断したばっかりに、香坂君がひどい目に遭って……。というか香坂君、いつもそんな感じで……。もうなんて言ったらいいか」

 目を伏せたまま、柚季が申し訳なさそうに謝罪してくる。

「いや、別にいいよ。一番、丈夫な俺が、盾役になるのが適材適所だし。あと二人は、魔力の暴走だなんだで精神すり減らしてるだろうしさ。他で辛い思いは、できるだけさせたくないってのもあってだな」

 進也は、思いを率直に口にした。あいかと柚季はふうっと、微笑を浮かべた。心配の色はまだ感じられたが、それ以上に強く感じるのはいたわりと感謝だった。

「まあ何にせよ、今回も乗り切れて良かったな。みんな待ってるだろうし、帰るか!」

 進也は、努めて明るい声で言った。あいかと柚季は応じるように、笑みを大きくする。


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