ゴーレムを倒した進也たち三人は、ダンジョンを後にした。徒歩で草原を歩いて抜けて、大きな門の前に到達。守衛に許可を得て、扉を開いた。
眼前に、洋風の街並みが広がった。進也たちの拠点、ウィリシアの街の大通りである。
石畳の道の幅は広く、両側には木製の家屋や露店が並んでいた。道ゆく人々の多くは、ローブや鎧に身を包んでいる。どこかで肉を焼いているのか、香ばしい匂いがあたりに漂っている。
「お帰り、あいかちゃん! 今日も元気だね」果物や野菜がずらりと並ぶ屋台の奥から、壮年の青果売りの男性が笑いかけてきた。
あいかはぶんぶん手を振って「たっだいまー♪ おっちゃんも元気そうでなにより〜」と朗らかに返す。
少し歩いた進也たちは中央広場を通過し、ひときわ立派な洋館に入った。ギルドの本部である。
受付まで至った進也は、「これ、よろしくお願いします」と、木製のカウンターに石片を置いた。ゴーレムの残骸から入手した、黒曜石である。今回のクエストの目標物だった。
受付嬢は対価として、十枚ほどの銀貨を渡してきた。受け取った進也は礼を言い、本部を立ち去った。
「あーんなしんどい思いして、たったの二百ルブレ! ほーんとやんなっちゃうよねー! ぼったくりだよ、ぼったくり。労働力ぼったくり」
あいかは不満げに言い放ち、右手に持った串刺しのフルーツを口に放り込んだ。小さな口でもぐもぐしていたが、「んー、おいひー」と幸せそうに表情をとろけさせた。
フルーツは帰りしなに、青果売りの壮年男性からもらったようだ。相当、気に入られているらしい。
「まあ仕方ないわよ。強いとはいっても、ゴーレムはどこでもいるし。取れる素材の希少性がねぇ」と柚月が落ち着いた調子で返した。
「というか、進也くんごめんね。あたしら、進也くんに頼りすぎだよね。……今日なんか、命危ない感じだったし」
「気にすんなよ。俺も駆け出しの頃は、先輩冒険者にかなり頼ってたし、ちょっとずつ成長してくれたらいいよ。そうやって頑張っていけば、いつか帰れる日も来るだろうしさ」
しょぼんとした風のあいかに、進也は努めて明るい声で励ました。「うん、がんばる」と、殊勝な感じの返事が来た。
進也たちは皆、ある日、突然にこの世界に転移させられている。先ほどの進也「帰る」は、現代日本への帰還を意味する。
また、進也は冒険者歴二年である。ハーモナイザーとしてメディエイターのあいかと柚月の施術をしながら、先輩冒険者として面倒も見ているという形だった。
会話を交わしながら、進也たち三人は家々の間の道を進んでいった。やがて城壁と、そのすぐ手前の一軒家が視界に入ってくる。進也たち三人の住居である。
「いやー、なんやかんやいろいろあったけど。帰って来れたねー、我が家!」
両手を開いて伸びをするような姿勢で、あいかが元気な声を出した。
「『帰って来れたね』。──うん、本当にそうよね。無事に戻れない人も少なくないんだし。ありがたいことだと思わないと」
「まーったく柚月ってば。いちいちそんな感じで、雰囲気暗くしてどうするんだよ。家から出かけてった結果、帰って来れないかもなんてのは、日本にいたっておんなじだよ? 確率がちょっとだけ違うだけじゃん。ポジティブに行こうよ」
沈んだ調子の柚月に対して、あいかはあくまで明るく答えた。
「それはそうだけど……」と、柚月は言葉を濁す。
「あいかの言う通りだよ。あんまり気負わずに、深刻になりすぎずに行こう。むしろこの状況を楽しむぐらいでいたほうが、生き延びられる可能性が──」
進也が明るい声を出した時だった。視界の端がきらりとした。はっとして目をやると、城壁の向こう側、雲の一群から白い光が差し込んできていた。