「『転移』だ! あいか、フェザー!」進也は叫んで、駆け出した。
「りょーかい!」威勢良く応じてあいかは杖を振るう。すると進也の身体は、ふわりと一メートルほど浮いた。わずかに間を置いて、さらに浮上。城壁を飛び越えて着地し、進也は光の方向に走り始める。
視界の先の草地の上に、人間が横たわっていた。気を失っているのか、身じろぎ一つしない。
日本の学校のものと思われる、セーラー服を身につけている。身体の華奢さも考慮すると、女の子であるようだ。
(まだ襲われてないか。──良かった)安堵した進也は、さらにスピードを上げた。一刻も早く、女の子を危険地帯から遠ざけたかった。
だが、ボココッ。唐突な異音と同時に、進也と女性の間の地面が盛り上がった。すぐに土と土の間の至るところから、紫色の粘体が地表に出現。一ヶ所に集って四角錐に近い形状を成した。粘体系のモンスター、パープルスラッジである。
進也が警戒を高めた次の瞬間、パープルスラッジはボヨンと音を立てて女性の頭へ飛び掛かる。リング形状になったかと思うと、口と鼻を完全に覆った。
(呼吸を邪魔して! くそっ! 妙な知識を持ってやがる!)
焦りを強めながらも、進也は右拳をテイクバック。すぐさま女性の首の横、パープルスラッジの端を目掛けて振り下ろす。
しかし、グニッ。パンチを受けて薄く広がりはしたものの、すぐに元の形状に戻った。ダメージが行った様子はない。ゴムの塊を殴ったような感触だった。
唐突に女の子が目を見開いた。呼吸の阻害という刺激によって、意識を取り戻したようだ。
すぐに首の異物に気がつき、両手を持っていって握りこんだ。必死でパープルスラッジを引き剥がそうとする。だが剥がれない。めいっぱい力をかけているようだが、びくともしなかった。
女の子は足をばたつかせた。顔は紅潮し始めており、面持ちはいかにも苦しげだ。そしてふうっと、女の子は再び気絶した。
(気を失って……。やばいぞ、このままじゃ窒息死だ!)進也はどうにかすべく、頭を必死に回転させる。
「アイス!」女性の高い声が聞こえたかと思うと、ヒュン、ピキパキッ! 何かが飛来しパープルスラッジに命中。一瞬にして凍りついた。
「よくやった、あいか!」進也は左手を地面に突いた。間髪入れずに、握り込んだ右手を振り下ろす。
渾身の一撃が、凍ったパープルスラッジにヒットした。バリンッ! 盛大な音がして、氷にいくつものヒビが入った。やがてあちこちから割れ始め、何十もの破片になった。
パープルスラッジの絶命を認めた進也は、女の子の首に手をかけた。まだまとわりついている氷片を、手早く剥がしていく。
数秒ですべて除去し終えて、「大丈夫か!」と、進也は強く女の子に呼びかけた。しかし返事がない。