あの日以来、瀬川拓真はついに仮面を剥がした。
彼は依然として車椅子に座っているが、たとえ私が真実を暴いたとしても、誰も信じないと確信しているのだろう。
まずタクデザインを手放し、その後は専務として天城グループ傘下の各企業に強引に関与し始めた。瀬川明美も活発に動くようになった。
事態は私の想像以上に複雑になってきた。
同じ屋根の下で過ごす日々は、まるで何年ものように感じられる。
朝、家族全員で朝食を囲む。瀬川拓真が車椅子で席に着き、私は彼の隣に仕方なく座った。
瀬川明美の視線が、私を刺すように絡みつく。
瀬川峰成は新聞をめくり、私はうつむいて黙々と食事をとる。味なんてまるでしない。
瀬川峰成が顔を上げて私に尋ねた。
「ここでの暮らしは慣れたか?」
気まずい空気が少し和らいだ気がして、私は慌ててうなずいた。
「はい。…ありがとうございます、お父様。」
その呼び方は、まだ口になじまない。
瀬川明美がすかさず口を挟む。
「お父さん、拓真は最近よく働いてるけど、天穹不動産のプロジェクトは…」
瀬川峰成は彼女を一瞥し、淡々と言った。
「焦るな、まだ私は元気だ。」
瀬川明美は言葉に詰まる。
今度は瀬川拓真に向き直る。
「禍福は表裏一体だ。積極的にやるのはいいが、焦りは禁物だぞ。専務に任命したのは、達也から学んでほしいからだ。あいつは商売の天才だからな。若い頃の自分を見ているようだよ。」
そう言って、柔らかく笑った。
瀬川拓真は微笑みを浮かべて返す。
「もちろんです。兄さんはずっと僕の目標ですから。」
私は心が重くなる。ふと見ると、拓真はテーブルの下で拳をぎゅっと握りしめていた。瀬川峰成の目には、瀬川達也しか映っていない。拓真が長年抑え込まれてきた怒りが、ついに爆発しようとしている。
瀬川峰成は席を立ち、明美に声をかける。
「鈴木さんに車の用意を頼んでくれ。今日は彼女に会いに行く日だ。」
明美はしぶしぶ従い、歯ぎしりしながら小声で呟いた。
「死んだ人間のことなんて、いつまで引きずるのよ…」
二人が出ていったあと、瀬川達也が玄関からダイニングに入ってきた。
私は反射的に立ち上がる。
「ごちそうさまでした、失礼します。」
だが瀬川拓真が私を引き止め、強引に隣に座らせた。
「ねえ、まだ終わってないよ。食べさせて。」
そう言って味噌汁の椀を私の前に差し出す。
瀬川達也は落ち着いた様子で席につき、食事を始めた。
私は困り果て、これ以上騒ぎが大きくなるのを恐れて、仕方なく椀を手に取り、スプーンですくって差し出した。
その時、瀬川拓真が突然私を膝の上に引き寄せ、腰をしっかりと抱きしめながら、無邪気な笑顔を浮かべて言った。
「直接、食べさせてよ。」
私は体がこわばる。
彼の手が私の腹を優しく撫でるが、それはまるで無言の圧力のようだった。
「どうしたの、恥ずかしいの?昨日の夜はあんなに情熱的だったのに。」わざと声を上げる拓真。
私はスプーンを彼の唇に近づけ、ちらりと達也を見る。彼はスマートフォンを見ながらオレンジジュースを飲んでいるだけだ。私は小声で懇願した。
「お願い、やめて…何かあるなら部屋で話そう?」
「嫌だね。ここでやる。これは俺の家だし、お前は俺の妻だ。好きなようにして何が悪い!」拓真の目は嫉妬に燃えていた。
男の力には逆らえない。彼は私をテーブルに押し付け、「ビリッ」という音とともに私の上着を引き裂いた。幸いにも中にキャミソールを着ていたため、露出は肩と首筋だけで済んだ。
子供の頃から発育が良かった私は、今やその曲線がうっすらとあらわになる。細い腰は片手で掴めるほどで、どんな男でも息を呑むだろう。
「きゃっ!」私は周囲を見回すが、幸い使用人はいない。「拓真、やめて!正気なの?」
しかし彼は、私の胸元にオレンジジュースをぶちまけた。布地が濡れて、体のラインがはっきりと浮かび上がる。目が情熱に燃えている。
「こういう朝食のほうが面白いだろ?誰かさんも観てるくらいだし、どうせ…昔からの知り合いだろう?」そう言って、さらに手を伸ばそうとする。
「もうやめろ。」
今まで黙っていた達也が、スマホをテーブルに叩きつけて立ち上がった。
「どうした?心配か?惜しくなったか?」拓真は私を放し、冷たい笑みを浮かべた。
私は自由になると、慌てて服をかき寄せ、オレンジジュースのべたつきや寒さも忘れて身を守った。
「お前は何が欲しい?彼女を放せ。」
「天穹不動産のプロジェクトだ。」
「やるよ。」達也はその一言を残し、踵を返して去っていった。