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第6話 初めての頭角


そのとき、みんなの前で雲湄の服を引き裂き、彼女の体に残る無数の傷跡を皆に見せてやるつもりだった。

雲湄が殴られたことが知れ渡れば、宮中中が彼女の噂でもちきりになるはず――それを想像するだけで胸が高鳴る。

だが、そこで待ち受けていたのは、雲湄の冷たい視線だった。その鋭い目に射すくめられ、思わず身がすくむ。


――どういうこと?もしかして場所を間違えた?


気を取り直した雲妍は、雲湄が席についたすきに、素早く彼女の袖をめくりあげた。

だが、口に出しかけた嘲りの言葉はふいに喉で止まった。……傷跡がない?

前世で彼女が受けた数々の傷は、確かに痕になって残っていたはずなのに。雲湄の腕は雪のように白く、傷ひとつ見当たらない。

そんなはずはない!


雲妍の動揺に、周囲の人々も不思議そうに彼女を見つめる。

心常在がいぶかしげに声をかけた。「楽姉さん、一体どうしたの?」

「どうして体に傷がないの?」雲妍は雲湄をじっと見据える。

雲湄は冷ややかに微笑む。やっぱり、この子はせっかちでおろかなだけ。

「私の体に傷があるはずがないでしょう?」とにこやかに返す。

雲妍は唇を震わせ、「昨夜、陛下が……」

昨夜、陛下は来ていない。なのに、どうして秦貴妃は雲湄を痛めつけなかったのか?

信じられない。


周雨棠は顔を赤らめ、微笑みながら口を開いた。「わかりましたよ、楽姉さんが言いたいこと。昨夜、雲姉さんは陛下の側に侍ったんでしょ?だから体に痕があるはず、ってことですね。」

「そんなはずないわ!陛下が彼女を侍寝させるなんて、あり得ない!」思わず口を滑らせた雲妍は、慌てて口を押さえた。

でも……問題ない。

たとえ秦貴妃が手を下さなかったとしても、彼女が扇をもらえるはずがない。あのとき雲湄が手に入れられなかったものは、今度も同じ結末のはず。


雲妍が自分をなだめていると、甲高い声が部屋の空気を切り裂いた。「聖旨を伝える!」

一同が驚いて殿門の外へ出ると、光の中から皇帝の側近の宦官が姿を現した。


宦官は静かに立ち、「陛下のお言葉―雲常在は侍寝の功により、朕は大いに喜ばしく思う。本日より貴人に昇格とする。雲貴人はこの恩恵を忘れず、宮中では慎み深く振る舞うように。」と伝えた。


貴人――?

場の空気が凍りつく。雲妍の瞳孔が大きく開く。どうして……?


侍女たちが如意合和扇を持って芷児のもとへ運び、芷児は翠児と目を合わせて安堵し、慌てて扇を受け取る。

これで、皇上が自分の主を気に入っている証拠だ。


雲妍は唖然とし、扇だけでなく身分まで昇格した雲湄を見つめる。

なぜ?どうして毒を盛られるのでも、虐げられるのでもなく――?

いつも冷静な魏貴人でさえ、思わず目を上げて宦官を見つめていた。

驚きが隠しきれない。まだ一晩侍っただけで、皇后に挨拶もしていないのに、皇上が身分を上げるなんて、前代未聞だ。

この女、侮れない――。


雲湄はひざまずき、感謝の意を表した。これは褒美であると同時に警告でもある。昨夜のことを口外すれば、この身分もすぐに奪われるだろう。

「ありがとうございます、陛下。陛下、万歳!」


宦官が雲湄を立たせ、「雲貴人は運がいいですね。おめでとうございます」とにっこり微笑む。

「ありがとうございます。」

宦官を送り出すと、芷児も後を追い、こっそりと銀子の包みを渡した。「寒い中ご苦労さまでした。温かいお茶でも。」

宦官は満足げに銀子を手に取り、「雲貴人は気が利きますね」と笑う。


心常在たちが雲湄の周りに集まり、次々と祝辞を述べるが、その表情は皆どこか複雑だ。特に、雲妍とその後ろに控える朱嬷嬷は、蒼白な顔で呆然としていた。

朱嬷嬷がこっそりと雲妍に合図を送り、ようやく彼女は我に返る。


魏貴人が雲湄の前に進み出る。

「雲貴人、さすがですね。たった一晩で皇上の寵愛を受け、身分まで昇格するとは。明日、皇后様に謁見する際にも、きっと皆が注目することでしょう。」

雲湄は微笑み、その表情に隙はない。


昇格に伴い、内務府の者たちが牡丹軒に貴人の身分にふさわしい豪華な品々を次々と運び込んでくる。

贈られた品々を目にしながら、雲妍は手にしたハンカチを握りしめ、怒りに震えた。

朱嬷嬷は目を見開き、驚きのあまり言葉を失っていた。二小姐にこれほどの力があったとは……。

もし夫人やご主人がこのことを知ったら――。

雲湄の美しい顔を見つめながら、朱嬷嬷は雲妍のために少し後悔の念を抱いた。

もし三小姐が屋敷で玉容丹を服用していれば、これらの恩寵や褒美はすべて三小姐のものだったのに。

孟夫人が知れば、きっと気を失うほどだろう。


祝福の言葉が一通り終わり、皆が去ると、雲妍は不満げな目で雲湄の前に進み出た。

庭では贈り物を運ぶ人々が行き交い、牡丹軒でも六人の侍女と宦官たちが忙しく贈り物を受け取っている。

雲妍の嫉妬は頂点に達していた。


「雲湄、まさか自分が皇上に愛されているとでも思ってるの?そんなこと、あり得ないわ。秦貴妃以外に、陛下が本気で愛する人なんていないのよ!」

雲湄は冷静に見返す。「どうして、そんなことを言うの?」

雲妍は鼻で笑い、「どうしてって、わからないの?昨晩、陛下はあなたのところに来てないでしょう。それに、自分がどうなったか、よくわかってるはず。泣き腫らした顔で、強がっても無駄よ。」

雲湄は微笑み、その美しさが陽の光の中で一層際立ち、雲妍は思わず心を揺らす。

だが、皇子を産み太后になるという野心が、その一瞬の迷いをすぐに打ち消した。美しさなど、無意味だ。


雲湄はにっこりと、「誰が陛下が来ていないと言ったの?君主の心を探ろうとするのは、大罪になるわよ。」

雲妍は怒りに震え、何か言いかけたが、朱嬷嬷がそっと腕を取って低い声でささやく。「お嬢様、宮中では言葉に気をつけてください。皇上の動向を詮索するのは大罪です。」

その言葉で雲妍はようやく我に返る。朱嬷嬷は、これ以上ここにいられないと判断し、丁寧に膝を折った。

「雲貴人、うちの小主は体調がすぐれませんので、先に失礼いたします。」

朱嬷嬷に支えられた雲妍は、廊下に出ると手を振り払って叫んだ。

「そんなはずない!どうして、こんなことが……私は納得できない!」


前世の彼女は毒を盛られ、急病と偽られて冷宮に追いやられ、誰にも顧みられなかったというのに。

悔しくてたまらない。

なのに、なぜ雲湄はこんなにも違うのか。


朱嬷嬷は苦々しい表情でつぶやいた。

「二小姐は屋敷でも一目置かれていましたし、入宮してすぐに陛下の心を掴んだようですね。」


「小主、明日皇后様に謁見した後は、新人たちも順番に陛下のお側に侍る番がきます。二小姐を出し抜けるかどうかは、小主が侍寝した後、皇上にどれだけ気に入られるか次第です。今は、何よりも冷静に構えてください。」

雲妍は拳を握りしめ、悔しさに涙を浮かべた。

「私は絶対に陛下の心を掴んでみせます。父上も母上も、絶対にがっかりさせない。今日こそ雲湄が目立ったけれど、明日はきっと彼女の番よ!」


前世、宮中で寵愛を受けていた秦貴妃や林嬪だって、決して侮れない相手だった。――見てなさい!


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