「うおおおおおっ! 本当に水が湧いたぞ!」
「信じられん……領主さまは奇跡を起こしたのか!?」
村人たちは地面から染み出す水を見て歓声を上げた。乾ききった砂に染み込むことなく、しっかりと水溜りができている。
アルトは額の汗を拭いながら、ゆっくりと立ち上がった。
(ふぅ……思ったより疲れるな。でも、これができるなら——)
彼のスキル《水操作》は、単なる水の浄化ではなく、水を自由に操ることができる。さらに、水源を探知し、地中深くの水を引き上げることも可能だと分かった。
「領主さま! この水……飲んでもよろしいのでしょうか?」
老人が恐る恐る尋ねる。村人たちは喉がカラカラなはずだが、恐れ多くて手を出せない様子だった。
アルトは自信たっぷりに頷く。
「当然だ。俺が出した水なんだから、絶対に綺麗だぞ」
そう言うと、アルト自身がまず手ですくって一口飲んでみせた。
「……うん。うまい!」
その言葉を聞いて、村人たちは一斉に水に手を伸ばし、思い思いに飲み始めた。
「……ああっ! こんなに冷たくて、澄んだ水……!」
「まるで泉の水みたいだ!」
「本当に、こんな奇跡が……!」
涙を流しながら水を飲む者、顔を洗う者、子どもを抱きしめながら笑う母親——その光景を見て、アルトは心の中でガッツポーズを取った。
(よし……! まずは第一歩だ)
だが、ただ水を湧かせただけではダメだ。安定した水源を作り、土地を潤し、作物を育てなければいけない。
(そうなると……もっと大規模にやる必要があるな)
アルトは地面に手をかざし、再び《水操作》のスキルを発動させる。
「次は……湖を作るぞ!」
「な、なんじゃと!?」
村人たちが目を丸くする。
アルトはバルハ砂漠の地形をじっくり観察し、水が溜まりやすい窪地を探した。
(よし、あそこならいける)
村から少し離れた場所に、自然のくぼみがあった。そこを利用すれば、水を溜めて湖を作ることができるかもしれない。
アルトはその場に立ち、両手を広げた。
「《水操作》——解放!」
彼の周囲の空気が震え、地下の水脈に繋がる感覚が広がる。そして——地面から水が勢いよく吹き出した!
「うおおおおおおおっ!?」
「す、すごい水の量じゃ!」
まるで噴水のように水が湧き出し、くぼみに流れ込んでいく。透明な水はみるみるうちに溜まり、小さな池となった。
アルトは満足そうに頷いた。
「うん、これを繰り返せば、ちゃんとした湖になるぞ!」
「り、領主さま……本当に湖を作るおつもりなのですか?」
「もちろんさ。水さえあれば、ここは砂漠じゃなくなる。草木を育て、食料を増やすこともできる。……それに、魚を飼うことだってな!」
「魚……?」
村人たちはぽかんとした表情を浮かべる。
「そうだ。湖があれば魚を養殖できる。そうすれば食糧問題も解決できるし、交易の手段にもなる」
このバルハ砂漠には海がない。当然、魚も手に入らない。だが——だからこそ、価値がある!
「俺はここを、魚が取れる砂漠のオアシスにする!」
その宣言に、村人たちは息を呑んだ。
「……まさか、本当にそんなことが……?」
「いや、領主さまならやれるかもしれん!」
「うおおおおおっ!」
村人たちの歓声が響く。
アルトの挑戦は、まだ始まったばかりだ——。