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第六話:獣人ティナの実力

「それでティナ、お前は何者なんだ?」

 湖のほとりで水を飲み終えたティナは、尻尾をピコピコ揺らしながらドヤ顔で胸を張った。

「オイラか? オイラは獣人のルドガ族の猟師ばい! まぁ、腕っぷしには自信があるっちゃんね!」彼女の言葉には、確かな矜持と、隠しきれない自信が漲っていた。

「猟師……?」

 アルトは思わず首をかしげた。

(この砂漠で獲物なんているのか?)

 アルトの常識では考えられないことだった。生命の気配すら稀なこの地で、狩猟など成立するはずがないと。

 そう思っていると、ティナが突然ピンと耳を立てた。その薄茶色の耳が、微かな風の動きや、砂の揺らぎさえも拾い上げるかのように、ぴくりと震える。

「……しっ、静かにしとき。あそこば見てみんね?」ティナの声は、獲物に気配を悟られぬよう、囁くような音量に抑えられていた。彼女が指さした先には、小さな砂煙を立てながら何かが動いていた。

「……なんだ、あれ?」

「《デザートホッパー》やね。ここの砂漠にしかおらん珍しい兎っちゃん」

 アルトが目を凝らすと、そこには耳の長い砂色のウサギがピョンピョンと跳ねていた。その全身は砂の色に溶け込み、注意深く観察しなければ見つけられないほどだった。

「まぁ、見とき!」

 ティナはスッと腰の短弓を構えると——その動作には一切の無駄がなく、流れるようだった。呼吸を整え、獲物を正確に狙い澄ます。

「ふっ!」

 音もなく矢を放った。

 ビュンッ!

 矢はまっすぐ飛び、狙い違わず、見事に兎の額を貫いた。

「一発で仕留めた!?」アルトは、あまりの出来事に言葉を失った。

「ふふん、どげんや? これがオイラの猟師としての腕っちゃん!」

 ティナは得意げに矢を回収しながら、仕留めた兎を掲げる。その顔には、誇らしげな笑顔が浮かんでいた。

「こんくらい朝飯前ばい。これで食料問題もなんとかなるっちゃ!」これまでの村の苦境を知るアルトにとって、ティナの言葉は、まさに光明だった。

 アルトは驚きつつも、内心でガッツポーズをした。

(これは大きい……! これは、とてつもない戦力だ……!

 砂漠にもこういう獲物がいるなら、狩猟で村の食料を補うことができる!)

 ティナの加入は、村の発展にとって大きな力になりそうだ。

「ティナ、よかったら俺の村で猟師として働かないか?」

「へへっ、もちろんよかばい! これからよろしく頼むっちゃ!」

 ティナは尻尾をふりふりしながら笑った。その尻尾の動きは、彼女の喜びと、新たな生活への期待を表しているようだった。

 こうして、獣人の猟師ティナが村に加わり、バルハ砂漠の村はさらに力強く、希望に満ちた新たな一歩を踏み出した——。

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