「ほら、獲物ば持ってきたばい!」
ティナは満面の笑みを浮かべながら、両手いっぱいに《デザートホッパー》を抱えて村へ戻ってきた。その身には砂埃が薄く付着しているものの、瞳は獲物を見つけた喜びで輝いていた。 その尻尾はぴょこぴょこと嬉しそうに揺れている。
「おおっ! こんなにたくさん!」
村人たちは驚きの声を上げた。その声には、飢えに苦しんだ日々を知る者たちの、深い感動と歓喜が込められていた。これまでまともな食料が手に入らなかったこの土地で、これほどの獲物が取れたのは初めてだった。
「ティナ、どこでそんなに獲ったんだ?」
アルトが尋ねると、ティナは自慢げに鼻を鳴らした。その仕草は、まるで手柄を誇る子犬のようだった。
「砂漠にも意外と獲物はおるっちゃ! デザートホッパーのほかにも、《サンドフォックス》ちゅう狐や、《スコーピオンバイパー》ちゅう毒蛇も見つけたばい!」
「毒蛇……?」
アルトは思わず顔をしかめた。その名前を聞いただけで、背筋に冷たいものが走った。
「危なくないのか?」
「まぁ、ちょっち危ないっちゃね。でも毒袋を抜けば食えるし、蛇の皮は丈夫やけん、防具にも使えるばい!」
ティナは得意げに腰の短剣でスコーピオンバイパーの皮をスルスルと剥いでいく。その手つきは淀みがなく、熟練の技を感じさせた。村人たちはその器用な手つきを見て感心した。
「こりゃすごい……まるで長年の狩猟職人のようだ……」
一人の村人が、感嘆とも畏敬ともつかない声で呟いた。
「へへっ、伊達に獣人の里で鍛えられとらんばい!」
ティナは胸を張ると、器用に蛇の肉を切り分け、串に刺して焚き火の上で炙り始めた。炎がその自慢げな横顔を照らし、躍動感のある影を踊らせた。
「……意外とうまいな」
焼きあがった蛇肉を口に運んだアルトは、思った以上に美味しいことに驚いた。噛みしめるたびに、淡白ながらも奥深い旨味がじわりと広がり、荒野での食事とは思えないほどの満足感を与えてくれた。少し淡白だが、歯ごたえがあり、じっくり焼くことで旨味が増している。
「そりゃそうばい! オイラが作った料理がマズいわけなかろーもん!」
ティナは鼻を鳴らしながら自慢げに笑う。その口元には、肉汁で光る蛇肉がまだ残っていた。
「こりゃいいな。狩猟で安定して食料が手に入るなら、村の生活もだいぶ楽になる」
「まぁな。でも、獲物がいつまでもおるとは限らんけん、畑もちゃんと育てんといかんばい」
ティナの言葉は、単なる楽観論に陥らない、猟師としての現実的な視点を含んでいた。
「それもそうだな……よし、狩猟と農業を両方発展させて、もっと住みやすい村にしていくぞ!」
アルトの宣言に、村人たちは歓声を上げた。その声は、希望に満ちた未来への確かな一歩を、強く後押ししているようだった。
こうして、村の暮らしは少しずつ豊かになっていった。ティナの狩猟技術によって、砂漠でも食料が確保できるようになり、畑の作物も少しずつ芽吹き始めている。かつて死の大地と呼ばれた場所が、確かに「生きる場所」へと変わりつつあった。
アルトは湖を見つめながら、静かに拳を握った。
(この村はまだまだ発展する……俺のスキルを活かせば、もっと豊かにできるはずだ!)
彼の瞳の奥には、新たな課題と、それを乗り越えるための確固たる意志が宿っていた。
そして、新たな計画が動き出そうとしていた——。