『私も勉強、もうちょっと頑張ってみようかなぁ』
『カナは勉強頑張ったって無理でしょ?つか元々勉強キライなんだから』
『そうそう。うちら学年30位以内とか絶対無理なんだし、このまま卒業までエンジョイライフ楽しんでこ♪』
『だよね…うん。私そうする!勉強なんて…なーんでよ。そんな悲しいほんとのこと言わないで!』
…西森さんを囲むあの女子たち…なんちうお喋りしてんだよ…。
県立緑川北高校は、各学期の中間テストの成績優秀だった生徒、上位30位までの順位を廊下に張り出して発表している。ちなみに僕の学年の生徒数は209名。
そして二学期の中間テストの上位30位の発表によると…西森七香さんは学年で17位に入っていた。そして僕…岩塚信吾もまた上位30位に入っていた。28位とほぼギリギリだったけれど…。
クラスでは、西森さんは第3位。僕はクラスの上位5位には入らなかった…。
…年は明けて春となり、高校2年の5月の最初の二者面談。先生と生徒とのマンツーマン。そして2年になっても、担任は小林先生のままだった。
『…岩塚くん。どこの大学へ進学するか、もう決めた?』
『え、ぁ…あー…』
『なるほどね。大学進学は…するつもり。だけど、まだどの大学を目指すかは…やっぱり、まだ決めてないんだ』
『あー…ぁ、はい…』
小林先生は少し微笑んで、ウンウンと頷き『まぁ、まだ焦ることはないけどね』とは言ってくれたものの…。
『じゃあ…先生が提案してもいい?』
『え…あの』
『よし。じゃあ…ねー…えっと』
小林先生は視線を落とし、僕の一年生の時の学力推移が記された学生名簿をじっと見て…また僕の顔を見た。
『どうせ大学に通うなら……藤浦市内にある大学に通いたいでしょ…ね?』
先生は自信有り気に僕を見た。
『えっ…どこかいい大学があるんですか?』
『岩塚くん、いいねぇ…ふふっ。先生に任せて』
先生は美波県内や近隣県の大学が全て記載されている一覧表を僕に見せてくれた。
『岩塚くん見て。えぇと…現在の学力の成長推移をこのまま卒業まで維持できた場合…例えば…』
先生はその大学名のひとつを赤のボールペンで指した。
『この《六条大学》だったら…たぶん難なく
『…はい』
『でも…惜しいなぁ。六条大学はギリギリ、藤浦市じゃなくて隣の徳豊市なのよぉ』
先生が、ちょっとわざとらしく?…そう僕には見えたんだけど…悔しそうな表情を僕に見せた。
『あ、でも余裕で合格れそうだったら僕、その六条大…』
『ちょっ待って!焦らないで!岩塚くん』
『えっ?あ…え??』
先生のその突然の勢いに押され、僕はびっくりして発言の続きを止めてしまった。
『私は岩塚くんに、今から言う2つの大学を推薦したいの』
小林先生はまた赤ボールペンで別の大学名を指した。
『一つは…この《美波経済産業大学》。この大学は藤浦市諏磨区にあるし…もう一つは』
先生のボールペンはまた、もう一つの大学名を指した。
『ここ…《宮端(ミヤハタ)学院大学》よ。この大学も藤浦市南区…』
『先生、ちょ…ちょっと待ってください』
『ん?え、なに?何か問題でも?』
僕はこの時、初めて見た宮端学院大学の偏差値の数値を見て驚いた。
『ここ…僕、合格れますか?だって…』
『……岩塚くん』
小林先生は真剣な眼差しで、僕が語るその不安を制した。
『今は…高校2年生の…何月?』
『ご…5月です』
『うん。そうね』
小林先生はニコッと笑い、しばらくして真顔に一旦戻り、ゆっくりと重々しく僕に言った。
『…宮端学院大学の偏差値が高いからって…無理だとか決めつけるのは…まだ、早いんじゃない?』