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小林先生は『今は、無理してでも目標を高く設定して頑張りなさい』と僕に言った。


『あの大学なら余裕で合格できるから、そこで決めていいや…なんて手を抜くようなことを言っていたら、余裕で合格するはずだった大学さえ行けなくなる』『学力は、どれだけ磨いて身につけても無駄にはならない。他者に盗まれるものでもない』『誇りに思えるいい大学に入り、学びなさい。その経験は必ず君の人生の糧になるから…』と。



『…それにね、頭のいい大学に入った方が、瀬ヶ池の女の子たち』


『あの、先生…小林先生!』


『…ステキ♪って言っ…えっ?あ…ごめんなさい』



先生は自身の語りに酔い、我を忘れかけていた?…それで僕の呼びかけで我に返った。



『じゃあ…僕は、とりあえず宮端学院大学を目標にしてみます』


『えっ…うん!岩塚くんならきっと出来る!…先生は信じてるよ』



先生はまたニコッと笑ってくれたけど…僕は…。



『だけど、本当にそこまでの学力を身につけることが出来るかは…』


『大丈夫よ。あくまでも"目標"なんだから』


『…はい』


『とにかく、今は計画的に勉強頑張ろう。それで来年、3年生の2学期にもう一度、学力と照らし合わせて目標とする大学の見直しをしても、必ず間に合うから』








…それから月日が経って…高校2年の夏休み。僕は中学の頃に増して勉強生活に励んでいた。他の同級生たちは、田舎に家がある僕とは違い、進学塾に通っていた。


進学塾に通えない僕は…田舎のこの家の自分の部屋で独り…時間の許す限り勉強を頑張るしかなかった…。


ちなみに…あの西森さんは、一学期の中間テストの成績発表では、学年では14位。クラスでは相変わらず3位だった。僕は学年で22位。クラスでは発表ランク外の6位…。





『母さん、冷蔵庫に何か冷たい飲み…?』



夏休みに入ってから僕は気になっていた。


毎日、お昼過ぎのこの時間…母さんはリビングでテレビに釘付けになっている。テーブルに置いてある、母さんのマグカップに注がれたサイダーは、飲まれないまま生暖かくなり、炭酸の泡も四角い氷も、もう見えなくなっていた。



『母さん…熱心に、毎日何を観てるの?』


『東京純恋ストーリー…っていうドラマ』


『…?』



母さんは振り返らずテレビを観たまま答えた。



『このドラマを観てると瀬ヶ池に通ってた、若かったあの頃を思い出すの』



僕もテレビを覗き込んでふと観た。都会らしい高層ビル街が見えた。どうやら舞台は東京?たぶん…渋谷か六本木。知らないけど。



『…どんなストーリーなの?』


『とある県の片田舎から、初めて東京へ出てきた18歳の男の子が主人公なんだけど…東京の街のど真ん中で、キョロキョロウロウロしてパニックになっちゃうの』



ふむふむ…。母さんは相変わらず、テレビに釘付けのまま説明。



『…そしたら、ある謎の美少女が声をかけてくれたんだけど…そのわりに男の子を《田舎者》呼ばわりして、バカにするの』



あー。なるほどね…それで?



『…それで何度か口喧嘩するようになって、その言葉のイントネーションがきっかけで、彼女も男の子と同じ県の出身だってことがバレちゃって…』



ドラマがCMに入った。それでようやく、母さんは振り返った。



『…実は彼女もひと月前に東京に来たばかりの田舎者で、…それで今も都会生活に不安を抱えていた彼女と男の子が、お互いを励まし支え合って…絆が生まれて…段々と2人の心が重なっていって…恋…いやん♪』



……。


再び始まったドラマを、僕はまた観た…高層ビルから望む、東京の綺麗な夜景…互いを見合い、幸せそうに笑う2人…。


あんな綺麗な大都市の夜景に可愛い女の子と…。僕は《そんなシチュエーション》にも少し憧れた…。








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