…宮学院大学の合格発表の日までは…何だかあっという間に思えた…。
ひと月ほど前に受けた大学入試も、もの凄く緊張した…と思うけど、それはテストが始まったらすぐに僕の体の中から消えていった…。
…真山市押木町の自宅から、母さんの車に乗って、稲田や野菜畑の田園風景が広がる農道を走って…少し広い国道を走って…高速道路を走って…藤浦市に入って…っていう感じで、家から宮端学院大学到着まで約1時間。
その走行中の高速道路から見えた、藤浦市の向こうのその遠い先に見える、超高層ビル群の風景…やっぱり凄い!
つい小学生みたいに喜びそうになった。ただ遠くに見えただけなのに…自分の心を、ゆっくりと落ち着かせた。
…到着した宮端学院大学の大きな校門を
そして大学校舎の玄関の脇に、パァッと広げられ掲示された合格番号発表の掲示板。その前で自分の受験番号を見つけて、喜びの声を上げる受験生たちとその親兄弟の姿が…。
僕もそのんな受験生たちの間を縫って、掲示板の前へと進んでいく…。
『…えっと…僕の受験番号…』
『こんにちは』
『??』
『?』
僕と母さんが振り向いた…あ。
『愛美!』
『小林先生!』
先生はとても良い明るい笑顔だった。
『岩塚くん。先生も探してあげる。受験番号は?何番?』
…僕と先生が、受験生番号を視線でなぞっていく…。
『…あ、あ!あったよ!岩塚くん!』
『えっ!?…あっ!ほんとだ!!』
受験番号1582…確かにその番号は、掲示板のそこにあった!抱き合って跳んで喜ぶ、小林先生と…母さん。
僕はその横で、一人で力いっぱい喜んだ…。
『やっぱり、あなたを信じて息子を任せて良かったよ…愛美!』
『うん!まさかほんとに宮端学院大学入試に合格してくれるなんて…ね!やったね!岩塚くん!』
…えっ?…《まさかほんとに》って?…どういうこと?…いやいや…。
今は何も考えず、本当に合格できたことを素直に喜ぼう…。そして先生に感謝の言葉を。
『あっ、ほら!見て!岩塚くん!西森七香さんが来たみたいよ!』
『えっ?』
先生のその声に、僕も反応して振り向いた。あっ、確かに西森さんだ!ちょっと僕らより遅れて来たんだ。
……けど、何だか西森さんの様子が…少し変だった。
少し元気のない表情で、合格発表の掲示板へと慌てて向かう西森さん…。僕がそこにいたことにも、まるで気づいてないみたいだった…。
『ねぇ、なんで…』
『西森さん』
僕が声をかけたことで、西森さんはようやく振り向いた。
『えっ…岩塚くん?…宮端学院大学…受験してたの?』
僕は自信あり気にウンと頷いた。
『掲示板に僕の番号あったよ。これで春から西森さんと…』
『おめでとう』
西森さんは、僕の言葉を遮るように言った。
『ありがとう西森さん。西森さんも』
『やっぱり…なかったの』
『…えっ?』
西森さんは急に大粒の涙を流し泣き出した…僕は状況が理解できず、あわわと慌てた。
『西森さん…合格じゃ…』
そう話しかけながら近づいてきた小林先生にようやく気づき、西森さんは一瞬驚いた様子だったけど…。
『先生…何で?私の番号…掲示板にもない…私ほんとに不合格なの?…何で!?』
そのあと…西森さんは誰も止められないくらい、わぁわぁと大泣きした…。
…西森さんは、お母さんと家を出たときは《私は絶対に合格してると思う》と、入試合格に自信を持っていたらしい。
それで高速道路で宮端学院大学へ向かっている最中に、我慢し切れなくてスマホで…宮端学院大学の合格発表をネットで検索して…自分が不合格だということを…ここに到着する前に…先に知ってしまったらしい…。