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『西森さん…一人で来たの?』



小林先生が西森さんにいた。



『…お母さんと…』


『じゃあ…お母さんは?どこ?』


『大学の…駐車場…』



小林先生は、僕と母さんの顔を見た。



『私、西森さんを西森さんのお母さんのところまで送ってくるから』



僕と母さんはウンと頷いて応えた。


そして西森さんは先生に肩を抱かれて…フラフラと揺れるその姿は、大学の校門の向こうへと消えていった…。







…宮端学院大学の合格発表の日の翌日。僕がいつものように登校すると、同級生らはもう僕の宮端学院大学合格のことを知っていて、僕に驚きの声や祝いの言葉をたくさん投げかけてくれた。


僕はそれに応えるより先に、すぐに隣のクラス…西森さんのいる教室へと飛び込むように入っていった。



『西森さん』



西森七香さんはもう来ていて、自分の席に座っていた。その席の周りには何人かの女子がいたが、僕の姿を見るとサーッ…とその場から離れていった。



『岩塚くん…おはよう』



僕が西森さんの傍へ駆け寄ると、西森さんは『ここに座って』と、隣の席の椅子をトントンと軽く叩いた。



『この前は私…恥ずかしいところを、見せちゃったね…』


『ううん…』



僕は西森さんのその言葉を否定した。



『岩塚くんは、小林先生の家に下宿して、毎日猛勉強して頑張ってたんだよね』


『うん…まぁ』


『私、先生から聞いたよ。下宿する前の岩塚くんは、進学塾に行けないからって、家にいた時も猛勉強して頑張ってたんだ…って』



西森さんは、少し悲しげな笑顔をして見せた。



『私、もっと早くそれを知ってたら…なんて、こんなこと今言っても、もう遅いんだけど…』


『…?』


『…夜は岩塚くんの家に私、お邪魔して…一緒に受験勉強すれば良かった…』


『??』


『…えっ、岩塚くん…』



僕もだけど…西森さんも、何とも言えない不可解な表情を見せた。



『もしかして、岩塚くん…真山市からこの緑川北高へ入学したの、岩塚くんだけだと思ってた…?』


『…えっ?』



僕は一瞬…頭を鈍器でガツンと殴られたような痛みを感じた…!

うそ…まさか…!?



『私の家…賀茂町だけど、賀茂町でもずっと北の端っこの方だから、押木町は本当に近いの。だからお父さんかお母さんにお願いすれば、車でなら10分くらいで…岩塚くんの家まで送ってもらえた…かもしれないのに…』


『!!!!』



…そうだよバカ!押木中学校から緑川北高校に入学したのは、確かに僕ひとりだけだったけど…真山市には笹谷中学校もあるし、賀茂中学校も、その他にも中学校はあるだろ!《真山市からは僕ひとりだけ》だなんて、勝手に勘違いしてんじゃねーよ!!このバカ信吾!!




西森さんが賀茂町に住んでた、なんてことをもっと…もっと早く知っていれば!西森さんと一緒に受験勉強できて、一緒に宮端学院大学に入学して…お互いにとって大切な友達になれたかもしれないのに…!


僕と同じように藤浦市早瀬ヶ池に憧れていた西森さんは、そんな大好きな早瀬ヶ池の近くに住みたいと思ってた。西森さんは僕以上に、宮端学院大学入学を望んでいたに違いない…。


僕だ…西森さんが宮端学院大学試験に合格できなかった…西森さんを不幸にさせたのは……全て僕が、勘違いしてたせい…。



……いつしか《宮端学院大学試験合格》の喜びなんて、頭の中から吹っ飛んで…西森さんに『受験勉強、一緒に頑張ろう』って誘えなかった後悔が…僕の頭の中を引っ掻き回し、チクチクと針で刺したような痛みを与え続けた…。


僕には《あの可愛い西森さんと…早瀬ヶ池を歩いて…そしてあの綺麗な夜景を…》なんて妄想もあったけど…そんな妄想さえもいつしか…脆く儚く跡形もなく…僕の未来図から、サラサラと…音もなく消えていった…。








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