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『……ごめん…本当にごめん』



僕は無意識に、何度か西森さんに謝っていた。



『もう謝らないで…岩塚くん』


『……。』



西森さんは優しく笑ってくれていた。



『実を言うとね…小林先生がこそっと教えてくれてたんだ』


『……えっ?』


『岩塚くんもね、早瀬ヶ池の街が大好きなんだよ…って』


『……。』



西森さんの口からそれを聞かされて…僕は急に恥ずかしくなった。



『私から…私の方から岩塚くんに、話しかければよかったんだよね…そうすれば、出身地の話とか…早瀬ヶ池が大好きって話とか…』



そうやって西森さんの話を聞いていると…自分と西森さんの共通点が、実は多かったことに気付かされた。



『私ね、春から東京の大学に通うの…』


『…えっ?』



じっと僕の目を見る西森さんの瞳を、僕もまたじっと見た…。



『…必要ないとは思ってたんだけど、万が一のときのためにって、お父さんの薦めで滑り止めに…東京の大学の入試を受験してたの…』


『……。』



しばらく…西森さんと僕は黙ってしまった。



『…岩塚くんは…宮端学院大学に通うようになったら、早瀬ヶ池にも行くんでしょ?』


『あ…うん。たぶん…』


『じゃあ…可愛い女の子の友達…すぐに見付かるね』


『いや!それは…どうかな…』



西森さんはあははと小さく笑った。



『変な言い方なんだけど、逆に言うと…』


『?』


『…東京へ行ってしまう私の代わりに…早瀬ヶ池が大好きっていう岩塚くんと、早瀬ヶ池の好きなところについてとか、色々ともっともっと話してみたいなぁ…って思ってくれるような女の子に…岩塚くん、見付けてもらってね…』



『……。』







『……どのあたりをお探しですかぁ?』


『えぇと…藤浦市内か…その近…』


『アパートですかぁ?マンションですかぁ?借家ですかぁ?』



…高校の卒業式が済んで、今は3月中旬。


真白いカウンターを挟んで向かい合う、白髪混じりの従業員のおばさんと僕…岩塚信吾。


場所は藤浦市南区内の、とある不動産屋の店内。



『あぁ…じゃ、アパ…』


『では、賃貸の毎月のご予算はお幾らぐらいですかぁ?』


『…アパートの月々の家賃って、どれくらいが平…』


『藤浦市内だと…例えば新井区内のお手頃な賃貸マンションであれば…15万円から20万円。南区のアパートなら…8万円から12万円。お隣の佐原市なら…アパートは5万円から7万円ですよぉ…』







…即答で藤浦市の隣の佐原市で決めた。決めたアパートは家賃月々5万円で築45年。

アパートの名前は…寿美安荘(スミヤスソウ)…ダジャレ?


借りた部屋はアパートの2階で、向かって左から2番目。安っぽいリフォームがされたトイレと狭いお風呂があって、1つの部屋と簡易キッチン。


僕がこの部屋を借りる前は、就職活動をしていたお姉さんが3ヶ月間借りていたらしく、部屋は埃の一つも見つからないほど掃除されていて、とても綺麗だった。







引越しして4日目の日曜日の午後…部屋の西向きの窓から外を覗く。


このアパートが小さな丘の上にあるおかげで目下の密集した家々が見下ろせて、景色はとても良い…僕のお気に入り。僕の住んでた田舎の押木町では、こんなに住宅が密集した街の風景はなかったから。


部屋の玄関を出て、外の通路に出ると…東を望む正面の先のずっと向こうに…藤浦市の超高層ビル群が遠く小さく、ほんの少し霞んで見える。


《檜ヶ丘》を下りて偵察がてら、しばらく散歩をしてると…通学に使うだろう《JR上呼賀駅》…なるほど。


またしばらく歩くと…《食品スーパー・ユーマイ》。それとコンビニも発見。


夕方…アパートに戻ってきて、ベッドの上に飛び乗り大の字になって寝転がる。あーぁ…。


ここから…僕の《大都市生活物語》が始まるんだぁ…。なんって言ってみたり。


とりあえず、友達が欲しいな。早瀬ヶ池へ誘ってくれるような…西森さんみたいな…可愛い女の子の友達…。









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