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page.142

2月の第2土曜日。時刻は午前7時26分。


昨夜 《最後の定期検診》に、僕の部屋へ来てくれた春華さん。

僕の左の耳たぶの、ファーストピアスを優しく外してくれて…先週に続いてもう一度 《赤姫と黒助くん》を再試着。


やっと…やっと!春華さんから『うん。今日見たら大丈夫みたい。たぶんピアス穴は完成かな』って、飾着の許可をもらえたんだった。




…僕は部屋を出る前に、赤い小さな巾着袋を忘れないように、ダウンジャケットの左ポケットに入れて…よし。行こう。







いつものアンナさんの美容院の特別客室…今日着るのは、灰桜色の腰部が少し絞まったワンピースと、琥珀色のスウェード生地の可愛いショートコート。これは去年の瀬ヶ池デビュー…12月第1週土曜日のあの日に着た衣装だ。



『ねぇ、どうしたの?信吾くん。なんか今日、凄くご機嫌そうね』



着替えも済み、今からアンナさんにメイクをしてもらおうってタイミングで、アンナさんにそう訊かれた。



『あ!…昨夜、やっと春華さんから、金魚ピアスの飾着を許可されました!』



そう言って僕は、アンナさんに左耳を見せた。今はファーストピアスの代わりに、穴が塞がらないためのシリコン製のリングピアスを着けている。



『本当?良かったわね。信吾くん、ずっと待ってたものね。じゃあ…メイクが済んだら着けて見せて』


『はい!』








…というわけでメイク完了。ウィッグも被って…では早速、意気揚々とガラス製の金魚ピアスを着けてみる…。







……えっ?


長い髪のウィッグを被っての、2匹の連なる金魚ピアス飾着…でも、僕の期待やイメージしてたのとは随分違う…。



『ねぇ、左の髪を掻き上げてみて』



アンナさんにそうお願いされ、それに従う。



『あ…いい。2匹の金魚がとっても可愛いわ』



僕だって、左耳に下げた《赤姫と黒助くん》は凄く可愛いと思います…分かってる。

けど…長い髪が完全に2匹を隠してしまってる…。


確かに髪を掻き上げれば、その姿はちらりと見えるだろうけど…瀬ヶ池を歩きながら、何度も何度も何度も…髪を掻き上げながら歩くわけにもいかない。そんなのは不自然過ぎて変だ。


この可愛い2匹を瀬ヶ池の女の子たちに、もっと、自慢気に…見せびらかして歩きたかった…。






僕は瀬ヶ池へ行ける準備ができて、特別客室のドアを開けた。



『おっはよー。金魚』



詩織もいつものタイミングで来てた。いつものようにロングソファーに座り、いつものようにノートパソコンを開いている。









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