詩織が僕を、柔らかな微笑みで手招きして呼んだ。
『ねぇねぇ金魚ぉ、ここに座って♪』
そして、自分の座るソファーの左隣をぽんぽんと叩く。
なんか…詩織が僕を手招きして呼ぶなんて珍しい。いつもなら黙々と、自分一人でじっと観てるのに。春華さんじゃあるまいし…。
『…んで?今日は何観てるの?詩織…あの…何これ…?』
『うん。《パレット》観てるの。金魚の動画upされてるよ…ほら』
意識してさけて避けてたのに…遂に、詩織の誘いによって観せられてしまった…。
【…やべぇw本物の金魚が尾ひれを左右に揺らしながら泳いでるみたいに…この池川嬢金魚のちょこちょこフリフリお尻…これマジやべーw可愛ぇぇww】
『…。』
うーわー…観ててげっそり…本気で引いた…。
金魚と詩織の歩く後ろ姿…そこから、僕のお尻に集中し、クローズアップする動画…超キモっ!!
『この動画upしたの…どんな中高生男子なのか、大学生なのかは知らないんだけどぉ…ほんっと、お年頃の男子ってエッチで嫌だよ…ねー♪金魚♪きゃはははは』
『………。』
…男が女装した男のお尻を見ながら萌えてるとか…めっちゃくちゃキモ過ぎる…。
てゆうか、頭おかしいだろ。この動画up主…。
本当に男って生き物は…なんで、こんなに恥ずかしいぐらい馬鹿なんだろう…あぁ。
突然、美容院の玄関扉が勢いよく開いた。
『おぉ、まだ居た。間に合ったぜ…』
『あー!秋良くん、おはよー』
詩織と秋良さんが軽く挨拶を交わす。
『秋良さん、今日はどうしたんですか?』
秋良さんは、大小2つの白い紙製の箱を両腕で抱えていた。
『事務所の倉庫整理をしてたら、こんなのが出てきたからさ…』
詩織がノートパソコンを閉じて、ソファーの空いてるとこ…自分の右隣…に置いた。
ノートパソコンと代わって秋良さんがテーブルに、持ってきた2つの箱を置く。
『秋良くん…何これ?』
『俺がまだ衣装デザイナーの駆け出しだった頃にな、啓介と作った《白鳥の羽毛のシルクハット》なんだけど』
…白鳥の羽毛のシルクハット?
『ねぇ!開けてみていい!?』
詩織が瞳をキラキラさせながら、秋良さんにそう訊いた。
『あぁ。見てみろよ』
詩織が、まず大きな箱の蓋を取った。そして両手を差し込んで…優しく丁寧に箱から取り出す。
『わぁ…何これ!凄ーい!』
本当だ…凄い!
出てきたシルクハット…紳士帽の全体が、白くて柔らかくて小さな羽毛に包まれている。
『それはな…俺と啓介が、初めて取引先の衣装メーカーに持ち込んだ商品サンプルの、第1号のなかの一つなんだ』