秋良さんは続けて、この純白な羽毛紳士帽の誕生エピソードを話してくれた…。
…シルクハットの全面にストッキング生地を張り付け、そこに欧州から輸入した、白鳥の柔らかい胸部羽毛だけを一本一本、丹精に手で植え付け接着して作った《世界に一つしかない手作りシルクハット》。制作日数は約50日だとか。
『…でさぁ、俺ら先方さんに笑われたよ。《君たちは世界の白鳥を何羽、犠牲にする気かね?こんなの高級過ぎて、大量生産も商品化もできやしないよ》ってな』
…そうなんだ。
次に詩織は、小さい箱も開けてみた。こっちには同じ作りの、白羽毛ミニシルクハットが入っていた。
『秋良くん…世界に一個しかないのに今日、私たちが被って行ってもいいの?』
『あぁ。いいぜ。どうせこのままじゃ、埃を被ったまま永久に日の目を見なかったろう代物だからな』
『あの…もし汚れたら、これはクリーニングできるんですか?』
僕からもそう、秋良さんに訊いてみた。
『いや、それは洗えねーな。洗えば羽毛が全部取れちまう。そん時は…』
世界で一つだけの、大切な思い出のものだからこそ…洗えないからって《棄てる》って言葉は…あまり聞きたくなかった…。
『じゃあ…金魚は大きいほうね』
詩織は僕の頭にシルクハットを、そっと深く被せてくれた。そして僕の前髪を手で直し、首元の左右に両手を挿し入れ、後ろ髪を前へと引っ張り出して、胸元へ下げてくれた。
『…うん。金魚、似合ってて凄く可愛いよ』
『あ、ありがとう』
『あーっ!』
えっ?なに!?詩織…?
『左耳…ピアス着けていいよって、春華さんからお許し貰ったの!?』
『あ…うん』
僕のウィッグの髪に触れたことで、ようやく詩織も気付いてくれた。
『でも…ウィッグの髪で隠れちゃってるね…』
ほら。詩織も僕と同じことを言ってる…。
今度は詩織の頭に、ミニシルクハットを被せる…と言うよりかは《頭に乗せて隠しヘアピンで留めて飾る》って感じに。ちょっと左にずらして乗せる。
『どう?金魚。可愛いかなぁ?』
『うん。凄く可愛い。お人形さんみたい』
詩織が嬉しそうに笑った。
『へへっ。今日は帽子だけペアルックだね』
《コンコンコン♪》…玄関扉をノックする音。あ…来た!
ゆっくりと、扉を開けると…。
『…おはようございます。《おばタク》でございます』
『岡ちゃん!おはよー』
『あらぁ!…お嬢ちゃんたち、今日は素敵なお帽子を被って…可愛いわ』
『ありがとう。岡ちゃん♪』