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page.145

瀬ヶ池へ向かう《おばタク》の車内で、詩織は…なんだかそわそわしてた。


…毎回毎週 《おばタク》に乗るたびに『岡ちゃん、りんちゃんからのLINEの返信来たかなぁ?』って詩織は訊いてた。

だから、これ以上は《しつこい》と思われてしまいそうで訊き辛い…ってのが、詩織がそわそわしてる理由。



『…ねぇ、詩織ちゃん』


『えっ?何!?岡ちゃん』



詩織が後部座席から勢いよく立ち上がる。だから危ないって…。



『鈴ちゃんからのLINEの返信ね…』


『うん…来たの?』


『えぇ。来たわよー』


『えっ…えっ!ほんとー!?』



さっきの雰囲気とは一転して、わあっと表情に明るさが戻る詩織。



『岡ちゃん!それで…どんな返信だったの!?』


『ふふふ。鈴ちゃんの言ってた《普通の女の子っぽくない雰囲気の子》ってね…』


『…う、うん』



詩織の瞳のキラキラが相当高まって…かなりヤバそうな状態…。嬉しそうな詩織は、少し不安そうな表情も秘めながら…岡ちゃんからあの言葉が聞けることを、期待してまってるよう。



『…やっぱりね、金魚ちゃんのことだったわ』


『ほんと!?ほらぁ金魚!やーったぁ!』



突然暴れ出すように万歳し…かと思えば襲い掛かる仔熊の如く、詩織は僕をガッと抱き締めてきた…!


だーから…僕も嬉しいけど、車ん中で暴れたら危ないって。さっきから何度も…。



『…あとね』


『えっ?…あと?なに!?』



詩織は少しだけ落ち着いて、もう一度岡ちゃんのほうを見た。



『鈴ちゃん、詩織ちゃんのことも知ってたわよ』


『なんで!?』



《おばタク》は新井早瀬駅の付近で、歩道脇の路肩に止まって停車。岡ちゃんは上体ごと捻って振り返った。



『《G.F.アワード》の会場で、金魚ちゃんの隣に座ってたのを見てたし、帰りの《おばタク》に乗る前にも、2人が揃って私を見送ってくれてたのを、よーく覚えてたから…って』


『…あの鈴ちゃんが、私のことも見て覚えてくれてたなんて…なんか、凄く嬉しい…』



…詩織は嬉しさのあまり、ほろりと涙をこぼしそうになったけど…持ち直してにこっと可愛く笑った。







岡ちゃんが、いつものように左のドアを開けてくれた。そして右手を差し伸べてくれた岡ちゃんに左掌を重ね、立ち上がって僕らは《おばタク》から降りた。



『ありがとう。岡ちゃん♪』



野次馬のように《おばタク》付近に集まってきていた、瀬ヶ池の女の子たち。僕らがこの高級タクシーを週末、常時利用していることはもう十分知られている。


…おかげで『マジで金魚って《デビュー前のアイドルの卵》とかなんかじゃないの!?』『それともお金持ちの子!?』なんて噂する声を聞いたりも。


…んなわけないし。





僕らは走り去る《おばタク》に手を振った。



『さてさて…じゃあ、バレンタインチョコを買いに行こう。金魚』


『うん。行こう』



…野次馬の女の子たちなんて眼中になし。僕らは堂々と遠慮なく、さっさと歩き出した。








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