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第3話・魔獣に追われる馬車を助けました

 サハク近郊の空。

 準備を整えた俺はアインと一緒に魔法の箒にまたがり、サーベルタイガーの目撃情報があったリースの森へ向かっていた。

 リースの森はサハクから北東に馬車で半日ほどかかる距離に入り口があり、王都・カーネションに向かうにはココを通るのが最短になる。

 ただ、俺達は馬車ではなく空中を飛べる魔法の箒を使い高速で向かっていた。


「相変わらず魔法の箒は移動に便利ッスね」

「便利な分、中古でも金貨一枚が最低ラインなのが辛いよな……」

「孤児院育ちで貧乏なアタシには手が出せなさそうッス」


 王都までの道路が整地されてるとはいえ、ゆっくり道を進む馬車と大型バイク並みのスピードで空中を飛ぶ魔法の箒では到着時間に大きな差が出る。

 俺は背中に強く抱きついてるアインへ反応しながら、バランスを崩さないように箒をコントロールする。


「箒の事はともかく、リースの森が見えてきたぞ」

「おお! サハクから一時間くらいしか経ってないのに目的地に着いたッス!」

「そうだな……。って、俺のポケットから懐中時計を取るなよ!?」

「別に時計を見るだけいいじゃないッスか!」

「俺だからいいけどその懐中時計は一つで家が立つぞ」

「はい!?」


 俺が使ってる懐中時計は輸入品で、値段的にサハクの一等地にデカい一軒家が買えるんだよな。

 値段を聞いたアインは悲鳴を上げ、手を震わせながら俺が着ているジャケットのポケットへ、ゆっくりと懐中時計を戻した。


「アインのいい悲鳴が聞けてよかったよ」

「もうっ! ダンナは趣味が悪いッス」

「俺の性格が悪いのは元々だろ」

「自分で認めるんスね」

「まあな」


 そりゃ、自分の事を認めないと前には進めなかったしな。

 アインは不服そうにジャケットの裾を軽く引っ張ってきた。

 俺は彼女の反応に満足しながら、魔法の箒をコントロールして降りていく。


「ただ、性格が悪いのは今回の依頼主もッスね」

「地位が高くなれば傲慢になる人も多いからな」

「確かに情報ギルドの役職持ちも偉そうッス」


 世界が変わっても人間は変わらない。

 森の入り口に到着した俺魔法の箒を物が大量に入る収納鞄へしまい、不機嫌そうに石を蹴ったアインの頭に優しく右手を置く。


「まあ、商業ギルドの方は腹黒受付嬢がなんとかするだろ」

「なるほど……。って、ダンナはリリサさんとの交渉で報酬金の話をあまりしなかったんスか?」

「正直お金よりもツテの方が欲しかったんだよ」


 大金は持っているが、バーに必要な商品を手に入れるには他店で購入するしかない。

 特によそ者の俺は足元を見られやすく、吹っかけてくる商人もいるので、商業ギルドから適正価格で珍しい物が手に入るのはありがたい。

 腰に装着した鉄の長剣と魔法書を左手で軽く撫でた俺は、不思議そうに首を傾げるアインの頭から右手を離す。


「お金よりツテってほんとダンナは変わり者ッスね」

「そもそも貴重な氷魔法使いが国軍に入らずバーを開いてるのがおかしいだろ」

「急に正論を言うのはやめて欲しいッス!」


 この世界の魔法使いは貴重で、相当な無能ではない限りは国軍で重宝される。

 ただ俺の場合は冒険者の方が性に合ってたので、スカウトされても断っていた。

 俺は前線都市時代にあった嫌な事を思い出してると、さっきまで笑顔だったアインが急に目の色を変えた。


「何か来るッス!」

「そりゃ目の前から馬車がコッチに突っ込んできてるからな!」


 俺達は同じタイミングでリースの森へ振り向くと、馬車が猛スピードでコチラへ突撃してきた。

 俺は急いで魔法書を開き、目が点になってるアインをお姫様抱っこして道路から距離をとる。


「ダンナありがとうッス!」

「安心するのは早いぞ」


 ギリギリ空中に逃げれてよかった。

 氷魔法で足場を作り避難して落ち着いたタイミングで、猛スピードで駆け抜けて行った馬車の方へ視線を向ける。


「馬車を追いかけてたのは軍隊ウルフッスね」

「だな。あ、車輪が破壊されて馬車がこけたな」

「めっちゃ冷静に事故を語らないで欲しいッス!」

「おいおい、相手は馬車で轢き殺そうとしてきたし慈悲はいらないだろ」

「間違ってはないッスけど冷たいッスね!?」


 軍隊ウルフは体長一メートルくらいで、見た目は灰色の毛皮に鋭い牙と爪を持つ魔獣で、基本的に群れで行動する魔物。

 危険度は単体だとEだが、十を超える群れになると危険度が一つ上のDになり、腕利きの冒険者でもソロだと倒すのに苦労する相手になる。

 アインの真面目な突っ込みに、俺は少し考えた後にめっちゃいい笑顔を浮かべる。



「なら、助けに行くか」

「ッス! さっさと襲われてる人を助けて金をぶんどるッスよ!」

「あー、相手との交渉は面倒だしお前の好きにやってくれ」

「了解ッス!」


 てか、早く助けないと御者さんが軍隊ウルフに殺されるな。

 氷の足場から降りた俺はアインを地面に降ろし、身体強化を使って動けない馬車の方へ向かう。


「だ、誰か助けて!」


 横転した馬車には御者と思われるスキンヘッドの男性が、今にも軍隊ウルフに食べられそうになっていた。


 馬は死んでるけど人は生きてるな。

 俺は男性を押さえつける軍隊ウルフを蹴飛ばし、腰に下げている長剣を引き抜く。


「助けが必要ですか?」

「あ、ああ! 金は積むから頼む!」

「わかりました! アイン、こいつらを蹴散らすぞ」

「了解ッス!」


 俺に追いついたアインは、左腰の長官を引き抜き、飛びかかってきた軍隊ウルフを横薙ぎ一閃で真っ二つにした。

 仲間がやられた事で軍隊ウルフは警戒度を上げたのか、一斉にコチラを睨みつけて来る。

 俺は冷静に敵の数を数えた後、ある魔法を使う。


「流石に人を守りながらこの数を相手するのは面倒ッスよ」

「確かにそうだが、

「……相変わらずダンナは仕事が早いッス」


 この程度で苦戦してたら魔境の前線都市では生きていけないしな。

 俺は冷静に

 軍隊ウルフの群れが唸り声を上げる中、スキンヘッドの男性が大声で悲鳴を上げた。


「ま、まだ魔獣は生きてますよ!」

「いえ、もう軍隊ウルフは死んでます」

「え? な、なんで力なく倒れていくんだ!?」


 単純に軍隊ウルフの肺を凍らせて息が出来ないようにした。

 ダンジョンとかに生息する魔物と違い、魔獣は空気が必要で息が出来なければ酸欠で倒れる。

 全ての軍隊ウルフが倒れた事を確認した俺は、呆れたように首を振るアインへ指示を出す。


「俺は軍隊ウルフにトドメを刺して来るから、馬車の持ち主との交渉はお前に任せる」

「ふふふっ、たんまりと報酬はいただくッス」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 悪魔のような笑みを浮かべるアインに、スキンヘッドの男性は体を震わせた。

 俺は内心で哀れみながら、地面に倒れる軍隊ウルフへ長剣でトドメを刺していく。


「しっかし、軍隊ウルフが上層少し気になるな……」


 本来であれば軍隊ウルフはリーンの森の中層に生息する魔物で、入り口付近にいる相手じゃない。

 全ての軍隊ウルフの首を切り裂いた俺は、森の方からが近づいて来るのを肌で感じる。


「ここで討伐相手だ出会えるとは、俺も運がいいな」


 軍隊ウルフはコイツから逃げるために上層に来たんだな。

 リーンの森から出てきた魔獣の大きさは二メートル半ほどで毛皮は白に黒のシマシマが入っており、顔には切れ味の鋭いサーベルに似た牙をもっている。


「ひいいぃ!? なんでサーベルタイガーがココにいるんだ!!」

「アッチはダンナに任せて交渉の続きをするッスよ!」

「やばい魔獣が現れたのに君はなんで冷静なの!?」


 さあ、こい。

 俺は落ち着くために一息吐いた後、魔法書を空中「浮かせつつ長剣を中段に構える。

 対する四足歩行の魔獣・サーベルタイガーは、唸り声を上げながら俺へ飛びかかってきた。


 悪いがバーの準備もあるし、さっさと討伐してやる。

 サーベルタイガーの攻撃を軽く回避した俺は、頬を緩めながらお得意の氷魔法を容赦無く発動していくのだった。




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