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第4話・出番が早すぎたサーベルタイガーさん

 危険度Cの魔獣・サーベルタイガー。

 武器のサーベルのように曲がった牙に鋭い爪を持つ相手で、その切れ味は店売りの鉄の剣を真っ二つにできる。

 つまり俺が今使っている鉄の長剣も、がなければ使い物にならなくなってしまう。


「まあでも、俺は普通じゃない」


 サーベルタイガーの噛みつき攻撃をで受け流しつつ、俺はチラリと二人の方を見る。


「相変わらずアインはマイペースに話してるな」


 俺は気持ちに余裕を持たせながら、サーベルタイガーの飛びかかり攻撃を左へ飛んで避ける。

 そのまま地面に降りた後、空中に飛ばしている魔法書へ意識を飛ばしてページを開く。


 さっさと倒したいが派手な魔法は使えないよな。

 正体バレや勧誘系のことを考えると、高レベルの氷魔法は使えないよな……。

 ココにいるのがアインだけなら速攻でカタをつけられるが、今はスキンヘッドの男性がいるから目立つ魔法は使えない。


「な、なんであの人はソロでサーベルタイガーをソロで相手できるんですか?」

「そりゃアタシの師匠ッスからね」

「いやあの、アナタの話ではなくて……」


 アッチはアッチで話が噛み合ってないな。

 視線を戻すと、サーベルタイガーはイラついているのか、雑に爪や牙を使った攻撃を仕掛けてきた。

 俺は相手の攻撃を長官で弾いたり、ステップで回避しながら討伐する方法を考えていく。


 さてと、奥の手である魔法以外でどう綺麗に倒そうか。

 普通に倒すだけなら軍隊ウルフの時にやった肺を凍らせたり、通常の氷魔法や長剣を使った攻撃で倒せるが、今回の依頼主は綺麗な毛皮を求めている。

 面倒な依頼に舌打ちしながら、俺は体の近くに浮かせている魔法書からの氷魔法を発動していく。


「氷の地面!」

「さ、サーベルタイガーの足元が凍った……。あの方は魔法師だったんですね」

「んー、ダンナはの魔法師じゃなくて自由フリーな魔法使いッス」

「はい!?」


 口が軽いアインに突っ込みたくなるが、今はサーベルタイガーの討伐が先だよな。

 動けなくなったサーベルタイガーは、唸り声を上げながら体を震わせている。


「悪いがトドメだ」


 俺は内心で手を合わせながら、容赦なく氷魔法で肺を凍らせた。

 少しすると、酸欠になったサーベルタイガーが力無く地面に倒れて動かなくなった。

 俺は落ち着くために一息吐きながら、二人が待つ横転した馬車の方へ向かう。


「き、危険度Cのサーベルタイガーがこんなあっさりと倒されるなんて……」

「苦戦はしましたけどね」

「あ、はい」


 倒すだけなら余裕だけど、後の事を考えて苦労しましたポーズをしておくか。

 俺は左手で額を拭った後、長剣を鞘に魔法書を腰のポーチへ戻す。

 スキンヘッドの男性の目が点になる中、彼の隣いるアインが悪魔のような笑みを浮かべた。


「さてと、問題は解決したし報酬の話に戻すスッスよ」

「ひいぃ!? じ、自分はしがない商人でそこまでお金はないですよ」

「その辺は調整するから問題ないッス」

「相手を搾るのはいいけど破産させるなよ……」


 あのー、アインの目に金のマークが浮かんでるのは気のせいか?

 彼女の所業にドン引きするが、俺も過去に彼女と同じ事をやってたから金の件は理解できる。


 申し訳ないけどアナタの味方は出来ないです。

 顔を真っ青にするスキンヘッドさんが助けを求める視線をコチラへ向けてきた。


「とりま俺は魔獣の死体を集めてくるから交渉の続きは任せた」

「了解ッス」

「ちょっ、無視せずに助けてくださいぃ!」


 えーと、軍隊ウルフの死体が十五匹でサーベルタイガーは一匹か。

 俺はスキンヘッドさんから目を逸らすように横転した馬車から離れつつ、倒した魔獣の死体を集めていく。


 しっかし、あの人がいると収納鞄が使いにくいな。

 この世界の収納鞄はダンジョンでしか取れない超貴重な天然魔道具で、オークションに出せば王都の一等地で屋敷が建てれるくらいの高値がつく。

 無駄に値段がする収納鞄から水筒を取り出し、クールダウンするために冷たい水を飲む。


「今日もいい天気だな」


 少し疲れたしのんびりしよう。

 魔獣の死体を集め終わったタイミングで、アイン達の取引が終わったらしく、大柄なスキンヘッドさんの体から魂のような物が口から抜け落ちた。


「さてと、報酬は金貨十枚で決まりでいいッスか?」

「は、はい、その額でお願いします」

「あ、相変わらずお前は金の事になると容赦ないな」

「逆に取引で容赦する所はあるッスか?」

「うん、例外を除いてないな」


 今回は轢かれそうになった事と、魔獣から助けた事の二つがあるから容赦できる点はないな。

 頭を抱えるスキンヘッドさんに同情はするが、報酬が安いと舐められるので俺の中では妥当と感じる。


「ははは……。魔獣の襲撃で馬車は壊れるわ、大金を払わないといけないわ、ほんと踏んだり蹴ったりですよ……」

「あのー、嘆くのはいいッスけど横転した馬車とかをどうするんスか?」

「え、えっと、他の商人が通るまでココで待つ事になりますね」


 確かにスキンヘッドさんのやり方は悪くはない。

 ただ俺達が今いるリーンの森の入り口付近は、危険な魔獣が生息していて護衛なしで長時間滞在するのは危ない。


「ココで待つならアタシらは魔獣を回収してサハクへ帰るッス」

「あ、その、出来れば自分も連れて行って欲しいです」

「一緒に行くのはいいッスけど壊れた馬車はどうするんスか?」

「……どうしましょう」


 何も考えてないのかい!

 二人の話し合いの内容に俺は内心で突っ込む。

 冷たい視線を浮かべるアインはため息を吐き、困ったように首を傾げるスキンヘッドさんを睨みつけた。


「そんなの知らないッス」

「ええ!? ココは助け合いの精神とかでお願いできませんか?」

「……アナタ、なに甘い事を言ってるんスか?」


 あ、やばい、アインの地雷を踏んだな。

 明らかに表情を変えたアインにビビったスキンヘッドさんは、怯えるように腰を抜かした。

 俺はアインの変貌に冷や汗を流しつつ、仲裁するように二人の間へ入る。


「まあまあ、リーンの森から少し離れ場所に休憩拠点があるから、そこで助けを求めるのはどうですか?」

「な、なるほど。ただ積荷をココで放置するのはもったいないです」

「じゃあ、俺がココに残ってるのでアインと二人で行ってきてください」

「いいんですか!」

「……相変わらずダンナは甘いッスね」


 確かに俺は甘いけど悪人じゃない人を見捨てるのは寝覚めが悪いしな。

 呆れたように首を振るアインへ、俺はポケットから金貨一枚を取り出して彼女へ渡す。


「甘いのは俺の悪いところだよ。っと、悪いが渡したお金を使って一緒に休憩拠点にいる人達を連れて来てくれるか?」

「ダンナの頼みなら受けるッスけど報酬が高すぎないッスか?」

「まあ、急ぎだし報酬で金貨一枚が妥当だろ」

「なるほど……。じゃあアタシへの報酬も期待していいんスね!」


 あ、なんか、言葉を間違えたかな?

 さっきまで不服そうに頬を膨らませていたアインが、今は期待がこもった目でコチラを見てきた。

 俺はアインの変わりように頬をひきつらせながら、改めてスキンヘッドさんの方へ顔を向ける。


「も、もちろん。スキンヘッドさんも今の流れでいいですか?」

「は、はい、問題はないです。ただ、自分の名前はスキンヘッドではなくツルットです」

「ああ、失礼しました」


 微妙に釈然としないがスキンヘッドさん、いやツルットさんの意見もわかるな。

 軽く一礼した俺は周りを少し観察して、ある気配に気づく。


「さてと、ココは俺に任せて二人は行ってください」

「了解。ダンナも気をつけてくださいッスよ」

「もちろん」


 相変わらずアインも察しがいいな。

 首を傾げているツルットさんと共にアインは休憩拠点へ向かい始めた。

 俺は二人に軽く手を振った後、改めて腰のポーチに入ってる魔法書を取り出す。


「悪いがココからは通行止めだ」


 リーンの森の中から出てくる二足歩行の魔獣の群れ。

 豚っぽい顔に二メートルを超える筋骨隆々の体、装備は腰巻きと木や石でできた棍棒などを持つDランクの魔獣・オーク。

 ちょうどいいストレス発散相手が出てきたので、俺はニヤリと頬を吊り上げる。


「アイン達が戻ってくるまで楽しめそうだな」


 今は二人がいなくて一人。

 この状況なら派手な魔法や、倒した魔獣を収納鞄に入れても問題はない。

 さっきまでの縛りプレイがなくなり、俺は気持ちを昂らせながらオークの群れへ勢いよく突っ込むのだった。








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